
のびやかな住み心地と最高レベルの住宅性能
里山に馴染むパッシブデザインの平屋
徹底調査・検証から生まれる
トップクラスの住宅性能
そんな薄井さんが設計した「ユノの平屋」は、静岡県富士宮市の里山に佇む一軒家。施主のTさんは30代のご夫妻で、小さなお子さんをのびのび育てる環境を求めて首都圏からの移住を決め、田園風景が広がるこの地に住まいを建てた。
家づくりの相談を受け、まずは土地探しから伴走した薄井さん。一つひとつ候補地を見て回り、風、気温などの気象データはもちろん地形や四季の日射も細かく検証。移住予定の集落は山裾に位置し、15時にもなれば太陽が山で隠れてしまう環境だったため、できるだけ日射を得られ、眺望もひらけたベストな一画を見極めていった。
そうして選ばれた約150坪の土地で薄井さんが提案したのは、建坪約30坪の平屋である。敷地面積の割にはコンパクトで、高さも抑えた平屋を提案したのはお子さんが遊べる庭の確保や予算などの兼ね合いもあったが、「山裾のなだらかな地形には、ボリュームを抑えた平屋の方が馴染みます。また、代々この地にお住まいの方が多い地域ですから、周囲のお宅の日当たりや眺望に影響を与えない控えめな建物がいいだろうとの思いもありました」と薄井さん。
集落の「人の温かさ」に惹かれて移住を決めたというTさん夫妻は、近隣の方々への配慮も考慮した薄井さんの考えにすぐさま賛同。里山の景色に溶け込む穏やかな佇まいの平屋がつくられることとなった。
高度なスキルで数値も自在
暮らしに合わせて断熱・気密をカスタマイズ
シンプルなのに不思議と目を引く魅力的な外観だが、この家の真骨頂はやはり高性能なパッシブデザイン。箱をずらして重ねたような印象的なデザインも、実はずらした部分で日影をつくり、メインの居場所への強い西日を遮るため……というように、ほとんどの要素に合理的な理由がある。
ただ、薄井さんの設計は最高レベルの断熱・気密をスタンダードとしているものの、厳密にいうとそれは「原則」であり、実際は問答無用で数値を追い求めているわけではない。
「数値は大事な指標ですが、もっと大切なのは土地の気候や施主さまのライフスタイルに合わせること。プランニングでは調査を踏まえた詳細計算を徹底的に行って、断熱・気密を柔軟に調整します」
そう話す薄井さんが「ユノの平屋」で向き合ったのは薪ストーブというファクターだ。薪ストーブの設置はTさんの希望だったが、エアコンよりエネルギーが強く温度のコントロールも難しいという課題がある。そのため、高断熱・高気密の家と相性が良いとはいえず、「暖まり過ぎる」「給気が足りず不完全燃焼を起こしやすい」といった不便から使わなくなる家庭も少なくない。
そこで薄井さんは環境条件や時間経過による室温の下がり方などを加味し、ベストな性能をシミュレーション。「この地域の気候で薪ストーブを使うなら、このくらいの外皮性能がちょうどいい」という数値を導き出し、給排気の対策も施した。
この丁寧なプロセスが実を結び、「ユノの平屋」は冬でも外気温プラス10度をキープする快適な住宅に。夏も14畳用のエアコン1台で邸内全ての空調をまかなえる。課題だった薪ストーブとの相性も良いようで、「冬は朝方に数時間エアコンを運転させるだけで夜まで快適ですが、外気温がマイナスの日は薪ストーブも使って生活を楽しんでいます」とTさんも大満足。
こうした断熱性能のチューニングは豊富な知識と経験値、粘り強いリサーチや詳細計算など、時間のかかる高度な作業が不可欠だ。けれど薄井さんは穏やかな口調ながらも楽しそうに検証プロセスを語ってくれて、その生き生きとした様子はまさに、数字や科学が大好きな理系少年を思わせる。そして、理系少年目線で徹底的に磨き込んだ住宅性能なのだから、そりゃ快適だよなあと深く納得するのである。
さりげない上質感が魅力の開放空間
新生活を支える、人間味のある設計姿勢
窓越しの田園風景とつながる「横の抜け感」が気持ちいい平屋だが、天井高は最大約3.4mでハイサイドライトから空も見え、「縦の開放感」もかなりのもの。対してキッチンまわりの天井は一般的な高さに抑えられ、空間ボリュームにメリハリがつけられている点も注目だ。外観は控えめな平屋なのに内部は緩急ついた開放空間が広がって、豊かでのびやかな居心地を味わえる──。住み心地も、周辺環境との調和も、両方大切にする薄井さんの設計姿勢がよくわかる。
薄井さんらしさは仕上げの素材にも表れていて、薪ストーブ周辺の大谷石もその1つ。大谷石は西川材と並び、薄井さんの設計に必ず登場する定番素材。言わずと知れた高級石材で空間の上質感を高めるが、耐火という機能面でも理にかなう。一方で薄井さんはリビングの木壁にラワン合板を使い木の暖かさを加えつつ、コストバランスを整えることも忘れていない。
最後に、今回の設計にまつわる興味深い話もご紹介しておきたい。それは既存住民の方々に対し、事前にヒアリングをかけていたというエピソード。平屋を薦めたことからもわかるように薄井さんは近隣への配慮が厚い設計者だが、驚くことにここでは隣家を一軒一軒訪ねて回り、「(これから建てるT邸について)このあたりに窓があったら気になりますか」などと意向を確認。その上でプランニングに着手したというのだ。住民の方々の今までの暮らしを守るため、かつ、移住してくるTさん一家がスムーズに溶け込むための、薄井さん流の心遣いである。着工前にこんな配慮をされたら大抵の隣人は悪い気がしないだろう。
現在、Tさん一家の周囲には和やかな輪が出来上がりつつあるとのこと。土地探し、性能設計、間取りやデザインにとどまらず、その土地でどんな風に暮らし、どんな関わりを育んでいくかも思いやる──。薄井さんが一貫して大切にしているのは、住まい手が末永く、心地よく暮らせる環境をあらゆる角度からつくっていくことなのだ。
基本データ
| 作品名 | ユノの平屋 |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県富士宮市 |
| 敷地面積 | 504㎡ |
| 延床面積 | 103㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
設計者情報
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