
テーマは「日本建築の茶室」。
光の陰影を生かした旗竿の家
北斜面の旗竿地という立地ながら、光あふれる空間を実現
「北斜面ということで、採光が難しいことは当初から予想していました。そこで思い出したのが、かねてから私が研究していた日本の茶室です。茶室は仄暗いですが、光の陰翳によってみごとに空間に広がりを出しています。その茶室のイメージは、Aさんの希望ともマッチすると考え、提案しました」そう語る手塚さん。このプランがみごとに通り、Aさんはこの土地を購入。手塚さんのプランが実現に向けて動き出すこととなった。
周囲を建物に囲まれた北斜面の土地。採光という課題を解決するために手塚さんが取ったのが、建物中央に3層吹き抜けの光井戸を設けるという方法だ。この光井戸内に小窓をランダムに配置し、空間に光のグラデーションを作ることで、暗さを感じさせない空間を実現。また南側にハイサイドライトを設けることにより、この敷地で可能な限りの光を取り入れた。手塚さんは、設計時を振り返り、こう語る。
「設計プランをAさんに共有させていただく際、1/20サイズの模型を作り、そこに光をあててお見せしていたんです。しかし、実際できた空間は想像よりもずっと明るく、上階から下階への光のグラデーションが美しかった。最初に計画した茶室の雰囲気にはなりませんでしたが、結果的にはAさんも喜んでくださいました」。
ちなみにこのA邸では、採光だけでなく、通風の工夫もしっかりと考えられている。光井戸による重力換気により夏の熱気は頂部へと流れ、ハイサイド窓から排出されるのだ。また冬は頂部に溜まった暖気を換気ダクトで1階に回し、有効利用している。これは、光熱費を下げるための、手塚さんの工夫でもある。
「もう1つのコストダウンの方法として採用したのが、オール電化です。実はこの家は竿部分が長いため、ガス管を道路から引き込むだけでも数十万の金額がかかることが分かっていました。そこで、オール電化住宅として、安価な夜間電力を活用できるエコキュートも採用したのです」。
斜面を生かした展望台が住まいのアクセントに
そして、抜け感のあるスケルトンの階段を上がると、唯一道路から見える小さなスペースが。洒落たチェアが置かれ、ちょっとした小部屋のような空間になっている。「ここは外からも見える場所なので、ちょっと高級なクロスを使いました」と微笑む手塚さん。1階と2階でフローリングの色合いや障子の模様を変えるなど、限られたスペースの中でもいくつかの空間を楽しめるよう工夫するのが、手塚さんのスタイルだ。
さらに進むと、壁一面の書棚を備えた書斎スペース、そして洋室が備えられている。そして特筆すべきは、3階のスカイデッキならぬ、展望台の存在だ。10畳ほどの広さがあり、ちょっとしたアウトリビングとしても活用できるスペースである。「3階は第1種高度斜線があったため部屋を作ることができませんでしたが、スカイデッキとしてプライベートの展望台を提案しました」と手塚さん。斜面地のため見晴らしもよく、Aさんもこの敷地に展望台を持てたことをとても喜んでいらっしゃるという。
採光が取りにくい土地にもかかわらず、設計の工夫により光を十分に確保し、展望台という開放的な空間まで生み出した手塚さんの家づくり。完成した住まいに、Aさんもとても満足しているそう。たとえ土地の条件があまりよくなくても、満足のゆく家づくりはできる。この旗竿地の家は、その理想的な見本といえるだろう。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都板橋区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 89.26㎡ |
| 延床面積 | 72.57㎡ |
| 施主 | A邸 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

土地の文化や歴史を継承し、次世代へ。阪神間モダニズムを継ぐ住まいと音楽サロン
サロン文化が根付く神戸で、代々この地に暮らすお施主さま。音楽とともに育ったお子さまたちや若き音楽家のために、コンサートサロンを兼ねた自宅への建て替えを決意された。緑の庭を背景に、優れた音響で演奏できるサロンは、LDKとしても申し分ない居心地。建築家の石さんはこれをどう両立させたのか。

360度の大パノラマ!眺望を心ゆくまで楽しめる鎌倉の高台に建つ家
鎌倉の高台にある敷地に住まいを構えるD邸。自然に囲まれたエリアに調和しつつも、斜めに傾斜した1枚屋根の外観が特徴的だ。自然とともに生きるライフスタイルが信条だという、Dさんご夫妻の住まいを手掛けたのは、横山浩介建築設計事務所代表の横山浩介さん。施主であるDさんご夫妻の想いと、立地を活かした横山さんならではのプランニングが見事に結実した住まいをご紹介します。

「愛着」と「思い出」を残す 快適性と効率性のバージョンアップ
築45年の立派な純和風建築にお住まいだったIさん。今の建築にはない味わい、懐かしさをまとった建物に深い愛着があったため、建て替えは考えなかったそう。リノベーションをするにあたっても、元の建物の良さはそのまま、使いやすさと居心地をバージョンアップさせることを考えました。

リノベーションで再発見した、抜群の住環境 築90年の長屋で緑豊かな暮らし。
築90年の長屋のリノベーションを手掛けることになったnote architectsの鎌松亮さん。家の裏には清澄庭園があり、そこに長屋が並ぶ風景は、長い間町の人々に愛されてきたという。景観を守りつつ、暮らしやすく、抜群の環境を活かした「家の中にも緑あふれる空間」をつくりあげた。

家族が集まるLDKをリノベーションで実現。 移住されるお施主さまの一番の味方は建築家
東京から三島へ移住を決められたお施主さま。昔ながらの間取りの物件を、家族の暮らし方に合わせリノベーションしたいとお望みだった。依頼を受けた建築家の武本さんは、壁を取り払い、視線の抜けもつくって見事に実現。それだけではない。細やかな気遣いでお施主さまのこれからの暮らしを期待に満ちたものにした。

建築家と不動産会社とのタッグで不安を解消 「三方よし」リノベで叶えた理想の住まい
住宅の購入には「迷い」がつきもの。新築の戸建てかマンションか。中古を購入しリノベーションすることだって選択肢の1つ。さらには、自分たちのスタイルに合うか?資金計画は大丈夫か?など不安も多い。そんな不安を施主から相談された、Losd一級建築士事務所の幸地が提案したのは、不動産会社とのタッグでの家づくり。施主の不安を解消し、自分達らしい理想の住まいを実現した「三方よし」のリノベに迫る。

リノベvs新築!悩み抜いた結論が、住んでからの毎日を変えた
これから、どこでどう生きていくのか。住まいを定めるということは人生を考えることにもつながります。家を買った経験がある長谷川さんご夫婦にとっても、終の住処を考えることは、悩みや迷いと無縁ではありませんでした。

娘が望んだ南欧風に、父が望む和の空間はどう収まったのか!?
古くなった家を建て直すことにしたHさんご一家。仲の良い家族ですが、生活スタイルや好みは親世帯と子世帯では異なります。大半は共有するけれど、それぞれがこだわるプライベート空間は残す、それがHさんご一家にとってのベストバランスでした。

建物に囲まれた平屋でも、たっぷり採光。 明るく開放的な「光井戸のある家」
施主さまのご要望は、「日当たりの良い明るい平屋」。けれど隣地には3階建ての住宅があり、採光はかなり不利……。それでも、建築家の吉田祐介さんは要望通りの明るく開放的な住空間を実現。どのようにして環境のハードルを乗り越えたのだろうか?
