
完成してからがはじまり
時間をかけてつくりこむ家
現場百回が生み出す
土地にマッチした唯一無二の住宅
はじめてこの地を訪れたときには、鬱蒼と木々が生い茂り、どこが敷地の境界なのかすらわからない状態だった。その未開発な土地に加藤さんは「無限の可能性」を感じたのだという。
加藤さんには、家を設計する際に必ず行うルーティンがあるという。それは現場に机と椅子を持ち込み、思案する時間を設けること。それも訪れる回数は一度や二度ではない。現場百回を地でいく建築家なのだ。
「ときには朝から晩までいることもありますし、季節毎に何度も訪問したりもします」(加藤さん)
景色や人の流れはもとより、日の入り方、聞こえてくる音、風のそよぎ、温度、そして漂う香りなど五感をフルに活用してその土地を感じるのだという。それが建築へのインスピレーションにつながり、その土地にマッチした唯一無二の住宅を生むのだ。
こうして、この土地に最も合うと思い提案したのが、長い平屋に展望デッキのような部屋を載せた凸型の建物だ。
元々施主のKさんは、ハウスメーカーで普通の2階建ての建築を検討していたというが、加藤さんは広い敷地を活かし、周りの景色との調和を考えた半平屋建てを提案したという。
周囲の環境とのマッチングを最も体現しているのが、2階の部屋からの景色だ。1階の屋根の上には芝生が敷き詰められており、窓からの眺めは遠景の緑と一体化して、まるで緑のインフィニティプール。晴れた日には、家族や友人たちが芝生の上で寝転ぶこともあるという、憩いのスペースともなっている。
また、何よりも目を引くのは、大きな窓のつらなり。この大開口により、明るさや開放感がもたらされるのはもとより、同じ敷地内に住むご両親にとってもお孫さんをはじめとした家族の生活の息遣いを感じられるものとなった。さらには、来訪する人を歓迎してくれるかのようなオープンな雰囲気すら漂わせる。
家々が密集する土地ではまず実現不可能なこの設計は、人通りもそれほど多くなく、周囲の木々が目隠しとなってくれるこの土地だからこそ実現できたといえるだろう。
この場所だからできたことがもう1つある。この広い土地に無限の可能性を感じた加藤さんは、この家をベースとして、周囲に増設が可能な余地を残したのだ。
「建物の配置は、今後デッキを作ったり、小屋を設置したりと拡張できるようにしています。長い時間をかけて、小さな村ができあがっていく。そんなイメージをもちながら設計しました」(加藤さん)
この家はさしずめ第一期工事の完成といったところなのだろう。いずれここに建物が増え、小さなコミュニティができるかもというところまで先を見据えた、加藤さんの想像力には感服するばかりだ。
構造材を用いた内装で
気を遣わない暮らしを提案
「キレイに仕上げられた家は素敵ではありますが、汚れや傷に怯えて暮らさねばなりませんし、キレイな家であるほど傷や汚れが悪目立ちしてしまいます。本来、家は生活の場ですから、汚れや傷などはつきもののはず。だとしたら最初からそういったことを許容し、気を遣わず住める家が本来の姿なのではないかと思うのです。ですから、設計段階から先を見据え、変化を許容できるものにするようにしています」(加藤さん)
加藤さんが提案する家はこの家のように、内装にビニールクロスを使わず、構造材にも使われるラーチ合板を使っているものが多い。一見すると建築途中のようにも感じてしまうが、実は極めて合理的なのだという。
クロスや漆喰、珪藻土で仕上げた壁は、キレイであるが落書きなどで汚れてしまうと、その修復が難しく、汚れが目立ってしまう。特に子どもがいる家庭では、傷や汚れは仕方がないもののはずだが、綺麗さをキープするために気を遣って生活をしたり、傷や汚れがついたときの落胆があったりする。
一方、ラーチ合板であれば目立ちにくいばかりか、サンドペーパーで表面を削ってしまうこともできるという。
また、ラーチ合板の壁はフックや棚なども自由にとりつけることが可能だ。内壁に用いられることの多い石膏ボードだと自由な場所に釘やビスを打つことができず、予め決められた位置に下地材を入れておき、その部分にしかフックなどを取り付けられないのだ。
「住宅は本来、100年という長いスパンで起こりうる様々な事柄を考え、設計しなければならない建築だと思っています。しかし多くの住宅は、最初の設計段階、しかも机上で考えたプランで住まい続けなければなりません。僕はそこに理不尽さを感じてしまうのです」(加藤さん)
加藤さんは、間取りも設計段階では、極力用途を決めず、シンプルなものにしたり、変更可能なものにするという。
「多くの人にとって家は一生に一度の買い物です。その間には、子供が大きくなったりして住む人が変わるかもしれない。ライフスタイルが変わり、必要な部屋も違ってくるかもしれない。だとしたら、最初に『この部屋は子供部屋』などと用途を決めてしまうよりは、フレキシビリティーがあり、変化に容易に対応できる家であるべきだと思うのです」(加藤さん)
そんな加藤さんの考えに、Kさんは共感し、ハウスメーカーでの建築から加藤さんへの依頼に一気に傾いたという。元々DIYが好きだったというKさんは、現在ではご自身でこの家に合うテーブルを作ったりと、家づくりを楽しまれているという。
加藤さんがつくる家は、最初に全て決めてしまうのではなく、後々手をいれられる余地をのこしておくのだ。そうすることで、住む人が時間をかけて自分なりに家を作り上げていく、また自由に変えていける。建物が竣工したときが始まりであり、新たな完成への第一歩なのだ。
「僕のコンセプトは万人受けするものではないのかもしれない」(加藤さん)
それでも加藤さんの思いに共感し、彼に設計を依頼する人が後を絶たないのは、加藤さんの思いに共感し、唯一無二の提案をしてくれるからなのだ。そして自らの手で家をつくり上げていくという楽しみを得られることを知ってしまったからなのだろう。
あなたも、加藤さんに依頼をすることで、長い年月をかけ理想の家をつくり上げていくというライフワークを手に入れることができるかもしれない。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 千葉県館山市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 1200㎡ |
| 延床面積 | 92.74㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | K邸 |
設計者情報
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