
曲面効果で外の光や緑を室内に取り込みたい
使い勝手とデザイン性も追求したフルリノベ
都心では貴重な眺望と環境を満喫し、
築44年の古さを克服するフルリノベ
この作品は中島さんの自邸で、築44年のマンションをフルリノベーションしたものだ。
マンション購入の決め手は予算の他に、窓からの眺望だったそうだ。丘の上に建ち、ベランダ側が急な傾斜地となっているために視界を遮る建物がない。建物がないので、外からの視線を気にすることもない。さらに、1階なので眼前の緑が目に入り、1階なのに遠くまで見渡すことができる眺望を楽しむことができる。東京23区内でこの環境は貴重なものだ。
一方で、築44年のマンション特有の課題や問題点もあった。もっとも気になった点は、構造だ。現代のものと比べて、室内に大きく梁や柱が張り出している。当時の建築技術ではこれが標準的なものだったので致し方がないが、梁の張り出しは気になり、柱の張り出しは家具の配置などで不便だ。また、和室がベランダ側の明るい場所にありキッチンが中央の暗い場所にあるなど、当時は一般的だったレイアウトにも使い勝手の面で問題があった。
そこで中島さんは、フルリノベーションを決意。
奥様からの要望は、“キッチンを明るい場所に移動させてほしい”というものと、“ダイニングスペースは不要で、代わりに対面で食事ができるカウンターテーブルがあると嬉しい”というものだった。
中島さんは“外部に見える緑や空を、できるだけ室内に取り込みたい”と考えた。“外と内を近づける”、あるいは“外と内の境界を曖昧にする”と言い替えることもできるだろう。
この部屋はマンションの中住戸で、廊下側からの採光はあまり期待できない。採光がベランダ側からの1方向という限定された条件の中で何ができるかという、テストケースにもなる。
こうして、フルリノベーションのプラン作りが始まった。
曲面効果で光の拡散と取り込みを実現
梁や柱の張り出しも気にならないプラン
この住戸は構造躯体の梁が窓の上にあり、さらに窓が床から少し立ち上がっていたために低い横長の開口部になっていた。
古いマンションによくある構造だが、その窓が壁の中に収まっている姿は窓の外の景色を切り取っているようにも見える。そこで中島さんは逆光になっている梁や壁の影をなくすことで、より外と内を近い距離にできるのではないかと考えた。
影をなくすための方法を考えた結果、たどり着いたのが曲面の活用だった。窓の上に梁を覆って天井まで続く曲面の壁を設け、窓際の床には曲線を描く小上がりを設けた。
また、キッチンカウンターに“サイクロイド曲線”を採用したのも重要なポイントと言えるだろう。専門的な説明は省略するが、サイクロイド曲線とは直線上で円を転がした時に、円周上の一点が描く軌跡を指す。建築におけるサイクロイド曲線は美しさだけでなく、自然光の拡散や雨水の効率的な排水など機能的な目的でも活用されている。
この曲面により、自然光を室内へゆるやかに届けることに成功した。また、影を作らずに、できる限り長く奥まで光を届けることが可能になった。外の緑や空の青を映しこみ、反射するように計算されている。
梁は曲面で覆うことで気にならなくなったが、柱の張り出しはどうするか。中島さんの答えは、柱に色を塗ることだった。
壁と同じ白のままだと、張り出した柱は強調されて目立ってしまう。しかしその面に色を付けることで、柱ではない“なにか”にも見え、違和感が弱まるのだ。窓から見える緑と調和するように、外を見る時はグリーン、内側を見る時にはピンクやブルーなどの色を塗ることで、違う世界観を作り違和感を軽減した。
また、色を塗ることで単純な白とは違い、愛着が湧く点も重要だろう。奥様も最初は色を塗ることに疑問を持っていたが、実際に仕上がりを見て満足しているそうだ。
また、リビングの張り出した柱の前には、造作のソファを配置。柱がソファの中に取り込まれるような作りで一体感と違和感の軽減を図っている
キッチンもご紹介しておこう。奥様の要望をすべて実現し、キッチンには大きな対面カウンターを備えたものを造作で設置した。
ちなみにキッチンだけでなく、この作品の家具はすべて造作だ。この作品に限らず、中島さんは必要に応じて造作家具を作るケースもよくあるそうだ。特に用途やサイズにこだわりがある時に造作家具を採用するという。このキッチンの高さも、キッチン後ろの収納棚も、奥様の身長にあわせて作られた。
ここでご紹介した以外にも、各所にこだわりと工夫が詰まっている。ぜひ写真の説明文もご参照いただきたい。
一番大切なのは、使い勝手の良さ
デザイン優先のプランは作らない
この作品でも曲面を多用したり、ピンクなどの色を柱に塗ったりしている。一見すると、デザインを重視する建築家の作品のようにも見える。しかし先述した通り、それらには意味があり、理由がある。決してデザインありきのプランではないのだ。
たとえばこの作品では、キッチン以外のレイアウトは大きく変えていない。フルリノベーションの場合、極端に部屋数を減らして広いワンルームにする例を見かける。しかし中島さんは、そのような手法は取らないという。寝室など、目的がはっきりしている部屋がある方が日常での使い勝手が良いからだ。
また、将来の子供部屋はウォークスルークローゼット兼ワークスペースを介してリビングとつながっている。個室が必要になるまでは通り抜けられる場所として、使い方に自由度をもたせているのだ。
リビングの小上がりの高さは腰掛けたり子どもが登って遊べる高さに設定されている。計算した最適な高さの小上がりが、他の目的でたまたま曲線になっているという順序なのがおわかりいただけるだろう。
そして“外と内を近づける”、あるいは“外と内の境界を曖昧にする”ことを意識しているそうだ。家の中で外を感じることが、毎日の暮らしの中でとても重要だと考えるからだ。
臨機応変で柔軟な対応も、中島さんの特徴のひとつだと言えるだろう。この作品では当初、トイレの位置を違う場所で考えていた。しかし現場で内装を解体した際、配管の制約で無理なことがわかり、すぐに現在の案に変更された。
もちろん奥様はすべての要望が実現され、満足しているという。当初はピンク色の壁を懸念していたが、住んでみると子どもの写真が華やかになるため気に入っているそうだ。
使い勝手が良く、その上で希望すればデザインにこだわることや多くの提案をしてくれる建築家をお探しの方は、一度コンタクトしてみてはいかがだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 馬込の抽象 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都大田区南馬込 |
| 延床面積 | 72.03㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
設計者情報
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