
公園の緑に包まれる広縁と、
ブックカフェのような土間空間のある家
コンパクトな広さで、
公園の緑を生かした住宅をつくる
敷地は北東角地で、北のバス通りを挟んだ向かいには緑豊かな公園が広がる。借景を楽しめそうな恵まれた環境だが、駐車場を設けたこともあり、建物を建てられる建築面積は9坪足らず。限られたスペースにどんな家ができたのか、設計者はどんな工夫をしたのか非常に気になる条件だ。
その設計を担当したのは、『菅家建築計画工房』の菅家 幹さん・和子さん夫妻。Fさまは当サイト・KLASICをご覧になって、菅家さん夫妻の土地の個性を生かした柔軟なアイデアや、品のいいナチュラルな作風が目に留まり、コンタクトしてくださったのだという。
「設計にあたっては、常に『ストーリーのある動線』を大切にしています」と話す菅家さん夫妻。
「土間」「階段沿いの本棚」「公園の緑を生かす」というFさまの要望に沿って計画したのは、1階が土間仕上げのダイニングキッチンと水まわり、2階が寝室、公園の緑を楽しむ広縁という2階建て。
この中で、菅家さん夫妻が得意とする「ストーリーのある動線」は、階段から2階の広縁にかけて展開される。毎日使う階段にどんなストーリーがあるのか、ご紹介していこう。
緑に包まれる広縁がハイライト。
魅力的な動線で、狭小でも豊かな空間に
階段をのぼりきって寝室に入ると右側にロフトとクローゼット、左側にはバルコニーに出る掃き出し窓。ロフトを生かした吹抜け天井の開放感や、大きな窓の開放感に「おおっ」と思うのもつかの間、視界の右端に明るい何かがあるのに気づく。クローゼット脇の通路の先に垣間見える、公園の緑だ。
あんなところに緑が見える……。興味津々で通路を進み、クローゼットの裏に回り込むと、横長の窓一面に公園の緑がきらめく広縁が。窓越しの景色を楽しみながらお茶を飲んだり本を読んだりできるインナーバルコニー的なスペースで、ここまで来ると、もはや気分は見晴らし台。
この、「木々に囲まれた山道(階段)をのぼってきたら、パッと視界がひらけて公園の緑に出合う」というワクワク感こそが、菅家さん夫妻が狙った動線のストーリー。
広縁の窓は緑と空だけが見えるよう、丁寧に設計されていることもポイントだ。バス通りや周囲の家は目に入らず、純粋に公園の緑を楽しめる。みずみずしい緑が横一直線に広がる空間は、パリのオランジュリー美術館にあるモネの『睡蓮』の部屋のよう。自宅で名画鑑賞さながらの空間体験ができるとは、なんだかとても贅沢だ。
何より、最後に公園にたどり着くかのような動線は、コンパクトなこの家に大きなメリットを与えている。メリハリが利いた移動の楽しみが暮らしの満足度をぐっと上げるし、広縁で公園の緑に包まれる感覚が、空間の広がりや豊かさを生み出すからだ。
広くても動線が単調だと飽きるし、心も全く動かない。だから、住宅でも商業施設でも、設計者は私たちが思う以上に動線による空間体験を大事にする。そしてこの家は、菅家さん夫妻が動線のストーリーづくりに非常に長けた建築家であることを、あらためて認識させてくれる住宅なのだ。
狭小住宅でぜひ参考にしたい、
「お店みたい」にオープンな土間空間
『公園の緑を取り込んだ家』は、その好例といえる住宅だ。
なぜこんな風に言い切るかというと、この家には「玄関ホール」「玄関からの廊下」といった玄関スペースがないからだ。玄関を開けるとすぐにダイニングキッチンなので、一般的には敬遠される間取りかもしれない。でも、この家は「いきなり生活空間」であることをデメリットに感じない。
理由は、1階全てが「見せる」前提で計画されているからにほからならない。
タイルを張った土間仕上げの床は洗練されているし、モザイクタイルがかわいい菅家さん夫妻設計のオリジナルキッチンも、デザインが素敵な家具のよう。本棚のあるオープンな階段はアカデミックな雰囲気で、珪藻土や無垢のスギ板を使った内装の上質感も心地いい。
住宅で「お店みたい」は褒め言葉だが、まさにこの家は洒落たブックカフェのようで、玄関スペースがないことがごく自然。むしろ住宅っぽさが薄れ、好みのアイテムで「お店っぽく」飾るのが楽しみになってくる。
とはいえ決して、玄関スペースを省くことがコンセプトだったわけではない。この間取りは限られた建築面積で、玄関よりも生活空間の広さを優先した結果である。
「Fさまが、玄関は最小限でいいとおっしゃってくださったことでこの間取りが実現し、とても感謝しています」と菅家さん夫妻。Fさまの潔い決断と菅家さん夫妻のセンスで誕生した「店舗のような間取り」は、狭小地の家づくりの1つの解になるだろう。
最後に、菅家さん夫妻が大切に大切に考えた、猫が楽しく暮らせる設計についてもお伝えしたい。
Fさまが2匹の猫をとても大事にしていることを感じ取った菅家さん夫妻は、洗面室や寝室の壁に猫穴を計画。広縁の現しの梁は意匠的な意味合いもあるが、猫が遊べることも目的の1つ。さらには階段とトイレに、猫が外を眺めてお昼寝できる猫窓もつくっている。
2つの猫窓は道路に面しているから、近所の方は外を眺める猫を見かけるたびに、ちょっと幸せになること間違いなし。
住まう人や猫たちだけでなく、近所の方々にも楽しさを──。あらゆる角度から「生活の楽しみ」を訴求したこの家を見ていると、住宅設計に対する菅家さん夫妻の愛を感じずにはいられない。
基本データ
| 作品名 | 公園の緑を取り込んだ家 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都 |
| 敷地面積 | 69.88㎡ |
| 延床面積 | 55.44㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+猫2匹 |
| 施主 | F邸 |
撮影:アトリエあふろ(古川公元)
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

たっぷりの採光と経年を楽しむ二世帯の秘策は外観で一目瞭然!?
2世帯・4世代・8名が住む家の一番の課題は、両親が住む1階にどれだけ太陽光を落とせるかだった。また、床面積が一般的な住宅より広いため、このままでは厳しい建築条件が課せられることに。両世帯ともに明るく、暮らしやすい空間を作るために、建築家の清水義文さんが考えた秘策とは。

すぐ隣の母屋と庭を共有。視界いっぱいに 緑を取り込む大開口を実現した「斜めの軸」
親世帯の家が立つ敷地の一角に子世帯の家を建てる依頼を受けた建築家の平野さん。お施主さまが望む解放感を実現するためにも、母屋の緑豊かな庭を子世帯の家にも取り込みたいと考えた。ただ、家を建てるのは母屋のすぐ脇。いかに視線を庭へ向かわせ、母屋と程よい距離を保つか。可能にしたのは「斜めの軸」だ。

のびのびと暮らせる秘密は中庭にあった。 毎日「いいな」と感じる我が家
まんなみ一級建築設計室の堀井博さんが設計したK邸は、外観と内部空間のギャップに驚かされる。外に向かってはほぼ窓もなく閉じた印象なのに対し、家の中は明るく開放的な空間が広がっている。それを可能にしたのは、家の中心にある中庭。中庭を内包する家での暮らし方とは、一体どのような感じになるのだろう。

眺望も心地よさもかなえる新発想。 「斜めの空間」の魅力とは?
眺望を活かしたオリジナリティのある住まいを望んでいた施主さまに、イノウエヨシムラスタジオが提案したのは「空間を斜めに区切った家」。奇抜なのでは? という懸念を吹き飛ばす快適で豊かな住空間の魅力や、全てにおいて「斜めが正解」と確信できる完成までのストーリーを紹介する。

建築家と共に楽しんだ家づくりで 家族一緒も個々も愉しい居場所がたくさん
家族が一緒に過ごす空間も、個々過ごす居場所も愉しみたい。そんな想いを託されたのが、実績豊富な建築家・松本直子さん。薪ストーブ、造作キッチン、そしてセカンドリビング。施主夫婦のアイデアが随所に息づく住まいは、濃密な対話から生まれた。 だが、このプロジェクトの真髄はそこだけではない。 実は今回取材した施主世帯に加え、母と妹が住むもう1棟を同時に建築。さらに、各棟に賃貸スペースを有する、極めて難易度の高い計画。家族の絆と賃貸経営を両立させた壮大な挑戦に迫る。

2つの階段がポイント!一世帯にも二世帯にもなる家はこうつくる
すっきりとモダンな空間で快適に暮らすことを一番の希望として、奥様の実家の建て替えを決めたNご夫妻。加えて、状況によっては息子さん夫婦との二世帯住宅にもなるような可変性の高い家ができないかとも考えた。とはいえ二世帯はあくまで可能性の話。玄関にキッチン、水回り…一世帯と二世帯の場合で変化するポイントはたくさんある。設計依頼を受けたアパートメントの滝口聡司さんは、どのようにこの要望に応えたのだろうか?

それぞれの生活を大切に ほどよい距離感でつながる二世帯住宅
長い海外生活から帰国し、実家を高齢のお母様との2世帯住宅に建て替える計画をした施主のKさん。建築への造詣も深いKさんご夫妻が、和のテイストを持ちながら、洋な暮らしをしたいとの思いを持ち、その実現を依頼したのは、大ベテランの建築家、ESPAD環境建築研究所の藤江通昌さん。自然・都市・人間をテーマに、ジャンルを問わず環境にマッチした大小様々な建物を手掛けてきた、藤江さんの仕事の真髄に迫る。

画家夫婦のこだわりと創作を支えるのは、快適なOMソーラー!?
アトリエ付の自宅を建てることにしたYさんご夫婦。夏は涼しく、冬は暖かい家が欲しいと考えたときに、1人の建築家の顔が浮かびました。

住宅密集地なのにこんなに明るい 2.5階という発想がもたらした開放感
隣家がすぐ隣に迫る住宅密集地に佇むG邸。中に入ってみると、外からは想像もつかないほど明るく、開放的な空間が広がっている。この家を設計したのは、建築家の村上康史さん。2階建ての建物に大きな吹き抜け空間を作っても、家族4人が狭さを感じずに暮らせるのは、2.5階をつくるというアイデアだった。










