
アメリカ西海岸を彷彿とさせる、
爽やかな光と風を感じるモダニズム住宅
美しい直線ラインと豊かな緑。
成城の街に映えるシンプルモダンな佇まい
建築デザインの好みは、チャールズ&レイ・イームズ夫妻らが活躍したアメリカ50年代のミッドセンチュリー・スタイル。自邸建築にあたっては、「テラスと一体化し、天井の一部が高いLDK」「ルーフバルコニーと行き来できる屋上の書斎」といった要望をもっていた。
日本のみならずアメリカの大学でも建築を学び、ニューヨークの有名建築事務所での勤務経験をもつ渡辺さんは、モダニズム建築がお好きな施主さまにぴったりの建築家だったに違いない。
実際、完成した『H&B House』はとにかく洗練されている。大きなクスの木を携えるように立つ建物は、均整の取れたシンプルな箱型。直線ラインが美しく、外部空間と大きくつながるガラス面がたっぷりあり、ファサードからして開放的な印象だ。
場所は世田谷区成城だが、50年代に多くのモダニズム住宅がつくられたアメリカ西海岸が似合いそうな佇まいを見ていると、渡辺さんの建築はやっぱりかっこいいなあと思う。
ちなみに、この敷地の建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)は40%だったそう。
「必然的に庭が広くなりますから、ガーデンテラスを設けて植栽にもこだわり、緑を贅沢に取り入れました」と渡辺さん。
豊かな緑はこの家の端正な容姿をいちだんと引き立て、シンプルなのに人目を引く華やかさを添えている。ただでさえ美しい人が上品な化粧でより美しくなるように、緑は建築美を増す大切なファクターなのだ。
肩の凝らないパーティーを楽しみたい、
ガーデンテラスとつながる開放空間
「テラスと一体化」という要望に応えた1階のLDKは、2面がガラスの連続窓になっていて、その先は緑きらめく庭とガーデンテラス。窓は蛇腹式に折りたためる特殊アルミサッシで、フルオープンすると境界がわからなくなるほどテラスとLDKが一体化。光、風、緑をダイレクトに感じられ、とても気持ちがいい。
天井も要望通り一部が高く、空が見えるハイサイド窓も設けられ、上への開放感もすごい。天然スレートのモダンな床、白壁やスギの天井のデザインバランスも絶妙で、一角には冬場に炎を眺める楽しみを与えてくれる薪ストーブも。上質なのに品のいいラフさがあり、肩の凝らないホームパーティーを楽しめそうな空間だ。
同じく要望だった「ルーフバルコニーと行き来できる屋上の書斎」には、興味深い話もある。
この家は2階建てだが、要望に沿って屋上に書斎をつくるとそこだけ3階分の高さになり、建物の高さを制限する規制の範囲内に収まらないという課題があった。
そこで渡辺さんは、LDKの「天井の高い部分」の上に書斎を計画。「天井の高い部分」はおよそ1.5階分の高さだから、書斎は屋上に半階分だけ飛び出す形となり、「屋上に書斎」の要望に応えつつ高さの規制も完璧にクリアした。
このように、1つの操作で「LDKの天井の一部が高い」「屋上に書斎」「法規のクリア」を一気にかなえてしまう秀逸なアイデアは、深い知識と柔軟な発想を持ち合わせた設計者でなければ出てこない。渡辺さんの高度な設計スキルがわかる頼もしいエピソードといえるだろう。
その書斎、数段の階段を介してルーフバルコニーと気軽に行き来でき、窓越しの景色も実にのびやか。ルーフバルコニーも緑にあふれ、西海岸の風が吹き抜けるような爽やかさ。タープをかければ直射を避けてバーベキューを楽しめるパーゴラもあり、ここもホームパーティーにうってつけの空間となっている。
まるでオーケストラ演奏。
家族がつながり、心豊かに暮らせる住まい
この家でその思いが最も現れているのは、廊下や階段を移動するときの空間演出や1階と2階の関係だ。
エントランスホールからLDKへ向かう廊下の入口に立ったとき、手前の右手には2階への階段がある。この階段、1段目が廊下に飛び出したデザインで、傍らには上方までガラス張りになった坪庭が。目につく階段、坪庭で感じる空、この2つの効果で上へ上へと誘われているような気持ちになる。
一方、同じ場所で正面を向けば坪庭に面した細い廊下の先に明るい光が差していて、正面にも何かがあることを予感させる。
ここでまっすぐ進めば開放的なLDKとガーデンテラス。階段を上がれば、将来の子ども室や書斎などの先に爽快なルーフバルコニーが待っている。どちらに進んでも坪庭で屋外の心地よさを感じられ、最後は光と緑に包まれたおおらかな空間に出合う。こうしたドラマチックな動線は邸内の移動を楽しくし、暮らしにうるおいを与えてくれる。
さらに渡辺さんは、家族の一体感もそれとなく感じて欲しいからと、廊下沿いに細い吹抜けをつくった。非常にさりげない吹抜けだが、これがあることで、違うフロアにいても音や気配が伝わるのだ。
「1つ屋根の下に住まうご家族の、拠りどころとなるような住宅をつくりたいと思っています」と話す渡辺さん。
だから、どんなに広くても、部屋数があっても、家族がつながる「芯」のある設計に心を砕いているという。この家でいえば気配を伝える吹抜けを設けた動線や、人が自然に集まるLDKの薪ストーブなどが「芯」に当たる。
そんな話を伺っていたら、渡辺さんは「オーケストラが奏でる楽曲のような建築が理想です」とも。
いわれてみれば、この家はさまざまな楽器が奏でるメロディーが響き合い、抑揚と広がりのある楽曲を完成させるオーケストラを思わせる。
無駄なく美しく設計された空間たちが移動の楽しみを伴う動線を介してお互いを引き立て合い、全てが1つになって『H&B House』の世界ができあがる。さながら渡辺さんは『H&B House』という楽曲を作曲し、タクトを振って具現化した指揮者のようだ。
施主さまからは「快適で外観も魅力的な住まいができ、とても感謝しています」と、うれしい言葉をいただいているという。また1つ、渡辺さんの作曲・指揮で素敵な「名曲」が誕生した。
間取り図
基本データ
| 作品名 | H&B House |
|---|---|
| 所在地 | 東京都 |
| 敷地面積 | 301.42㎡ |
| 延床面積 | 196.08㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+猫+オウム |
| 予算 | 1億円台 |
| 施主 | H邸 |
撮影:小島 純司
設計者情報
この建築家が建てた家
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