
友人が集まるレトロポップな洗練空間
思い出が息づく居心地抜群の『キジノイエ』

小俣 忠義
おまた ただよし
フレイム一級建築士事務所
東京都 世田谷区
設計事務所開設と同時期、近隣で偶然起きた住環境問題をきっかけに地域の人たちと世田谷区第1号の建築協定を結ぶ。 このことが、「地域独自の住まいの建て方ルール」をつくる方法として、多くの地域の先例となった。 その根底に流れる子供たちへの安全・安心の思いから「NPO世田谷まちづくり市民評議会」を主宰し、個人の住まいづくりの視点だけではなく、まちづくりの視点も大切に建築家の地域に果たす役割を強く意識しながら、現在も活動を続けている。

金子 有太
かねこ ゆうた
フレイム一級建築士事務所
東京都 世田谷区
大手ハウスメーカー(営業)勤務後、一緒に住まいをつくりたい!と大きな期待を寄せているクライアントと自身との関係に疑問を感じ漂流。マンガアシスタントやインテリア現場を経て、一級建築士を目指す。 「造るプロセスを共有化すること」を特に大切にしているフレイムに漂着し現在に至る。 建築設計から、耐震診断、まちづくり活動に関わる。
友人をたくさん呼べる
居心地満点の空間をつくりたい
天井でキジが見守るこの部屋は、施主のAさまが今回ご実家で一人暮らしをすることになった際、リノベ―ションしてできた空間だ。Aさまはフレイム一級建築士事務所(以下、フレイム)の小俣忠義さんと金子有太さんに、築30年ほどを経た建物の耐震強化と共に2階のフルリノベーションを依頼。以前にフレイムが設計した友人の住宅をご覧になっており、居心地やデザインを気に入ってのことだった。
そんなAさまの要望は、友人を呼んで楽しく過ごせる空間をつくること。改修前の2階は「和室2間+納戸+小屋根裏」だったが、障子仕切りを減らして小屋根裏の床もなくし、「吹抜けの広いリビング+寝室」というシンプルな間取りにすることが決まった。
小屋根裏があったところの床をなくして吹抜けにすれば高い天井が誕生し、開放感たっぷりのリビングができるのは間違いない。しかしフレイムの提案は、これだけでは終わらなかった。現在お店を経営しているAさまは雑貨店で働いていた経験があり、インテリアにも抜群のセンスをお持ちの方。そこで小俣さんと金子さんは、より素敵な空間を楽しんでいただきたいとの思いから、一般の住宅ではなかなか見ない、普通ならプレゼンを控えてしまうようなアイデアを提案。それが、冒頭でご紹介した天井のキジにつながっていくのである。
お気に入りのキジをどこに置く?
吹抜けを生かしたデザイン天井
小屋根裏の床をなくして新たにつくる吹抜けの内側に、意匠の1つとして斜めの室内天井を入れる。その上に残された小屋根裏の壁と天井は、コストを抑えるために手を入れず、そのままブラックに塗装。斜めの天井にはランダムに四角い穴を開け、先述のキジの置物をあたかも生きているようにとまらせる──。
このキジはAさまが幼い頃から家にあり、「やひち」と呼んで親しんでいたものだそう。リノベ後もどこかに置きたいというAさまの相談に対し、「天井」を提案する小俣さんと金子さんの発想にはびっくりだが、2人は「賛同してくださるAさまがすごいんです。商業空間的な発想を受け入れてくださり、とても感謝しています」と楽しそうに振り返る。
穴の開いた斜めの天井なんて奇抜に思えるが、完成してみると、この天井のおかげで、よく見られるシンプルな吹き抜けよりも空間が格段にランクアップしていることに気づく。まず、以前の小屋根裏にあった南向き窓からの直射日光を天井がほどよくバリアし、室内全体を上からほんのり明るくする間接光に変換。また、抜け感を生む四角い穴も、そこからランダムに差し込む陽光も、好奇心を刺激するブラック塗装の屋根裏も、全てが住宅っぽくない洗練された雰囲気を生み出している。
何より、慣れ親しんだキジと一緒に暮らしているかのような「室内を見守るキジ」という演出は、一人暮らしを始めるAさまの心をホッと和ませてくれるに違いない。単に「面白い」だけではない、デザイン性、住み心地、そして住まう人の心も豊かにする、フレイムらしさを実感できる仕上がりとなっている。
丁寧な内装、照明の名品、カラフルな家具
新旧が調和するレトロポップな空間
小俣さんと金子さんは、内装や家具の検討で写真かと思うほどリアルなCG画像をつくり、候補のアイテムを入れた完成イメージを可視化。その画像をもとにAさまと相談し、以前の家から引き継ぎたいもの、新たに入れる家具、新旧のハブになる内装の色や素材のベストバランスを綿密にシミュレーションしたという。
その結果、内装ではデニムのリペアの仕事に興味をお持ちのAさまにちなみ、天井や壁の一部にブルーグレーのデニム柄クロスを使用。昔からあった木彫りの欄間もブルーグレーに塗装して取り入れ、インテリアに馴染ませている。また、ご祖母さまの代から使われており、Aさまも大切にしているレトロなミシンに合わせたカウンターや吊戸棚の造作では、ホワイトバーチ材を試行錯誤してステイン塗装。時間を重ねたミシンに負けない味わいのある表情を創出した。
「例えば、既存の欄間を塗りつぶすというようなチャレンジには躊躇してしまう方も多いのですが、Aさまは快く了承してくださいました。完成後の全体像をイメージし、デザイン意図を理解してくださったのだと思います」と小俣さんと金子さん。Aさまの深い理解に助けられ、丁寧に計算し尽くされた内装が新旧のアイテムを調和させるバランスの良い空間に仕上がった。
家具はAさまがお好きな80年代風デザインで、友人と車座になれるように選んだソファやテーブルは、ポップでカラフルなものばかり。照明は玉ねぎ型がかわいい北欧の名作『Sipuli』。リズミカルに高低差を付けて複数設置し、天井の高いおおらかな空間に躍動感を添えている。これらの家具の詳細は写真説明でご紹介しているので、ぜひチェックを。
『キジノイエ』という名に込めた思いとは?
家族の思い出に包まれる住まい
ここであらためてご紹介したいのが、この家の『キジノイエ』という名の由来だ。1つは、冒頭でお伝えした天井にとまる鳥の「キジ」。もう1つの由来は、デニムのリペアの仕事に興味を持つAさまにちなんだ「生地」である。鳥のキジの置物も、生地を扱う上で欠かせないミシンも、Aさまがご家族から受け継いだ大切なものたちだ。だから、『キジノイエ』という名前には「Aさまとご家族の大事な思い出が詰まった家」という意味もある。今後は天井のキジや古いミシンをきっかけに友人との会話が弾み、新たな思い出もできるだろう。
最後に、小俣さんと金子さんはニコニコしながらこんなことも話してくれた。
「一説によると、キジは幸運を表す鳥でもあるそうです。幸せの鳥が見守る部屋で、大勢のご友人と一緒に楽しい時間を過ごしていただけたらうれしいですね」
2人が手がける建築に込められた思いは、どこまでも温かい。
基本データ
| 作品名 | キジノイエ |
|---|---|
| 所在地 | 東京都 目黒区 |
| 敷地面積 | 91.15㎡ |
| 延床面積 | 127.14㎡ |
| 予算 | 〜2000万円台 |
設計者情報
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