
「ただいま」が楽しくなる!
3つの屋根で包み込む家
やさしく家に包まれる…開放的かつ閉じた場所?
節電やエコロジーの観点から注目されている『パッシブデザイン』を得意とする古市さん。T邸も風の抜けを計算した窓の配置など、自然を利用した快適な家づくりがなされているが『包まれた場所』とはどんなものだろうか?
住宅地の家づくりで『包まれた場所』と聞くと、外部の視線を遮る目的のように思いがちだ。だが、Tさんの土地は、南北にある道路が東側で合流する三角形の角地。テラスのある南はやや見下ろす形で道路が走り、その先は川があるため人目はそこまで気にならない。ということは、『包まれた場所』は『外の目から隠す』とイコールではないのか?
「Tさんご家族は共働き夫婦でお子さんもいらっしゃるため、休日を家で過ごすことが多いとお聞きしました。それならば、自然体で過ごせる『閉じた場所』としての家づくりをご提案しようと思ったんです。ひさしを深く取ることで傘のように覆い、家の中にいると包み込まれるようなイメージを持たせました」
この『包み込む』イメージは、屋根も大きく関係している。
T邸は上から見ると、右の先が横に飛び出たV字に近いデザインで、3つの片流れ屋根が合わさった外観だ。この3つの屋根の下にはそれぞれ、キッチン・リビングダイニング・小上がりが存在する。といっても、これらの部屋は壁のないひと間続きになっていて、屋根の傾斜でエリア分けされているのだ。屋根が覆うように見えるため、オープンで開放感があるのに優しく『包まれている』印象を与えてくれる。
『包まれている』イメージを保ちつつも窮屈さを感じさせないのは、目線の効果も大きい。
先ほどのキッチン・リビングダイニング・小上がりは、包み込む屋根と、部屋の切り替わりでカーブを描くことにより、奥まで見通せない構造になっている。このことでかえって奥行きを感じ、部屋をゆったり見せてくれるのだ。
「屋根の傾斜や窓の大きさなどで、包まれていると感じる濃度を調整しました。朝を感じる場所はオープンにして濃度を薄める。くつろぎスペースは包まれる濃度を濃く…といった具合です。それらを点在させて寄り添うように空間をつくりました」
家の南側をカバーする窓は、リビングや小上がりに比べ、ダイニングは大きく下まで取り開放感を演出している。先ほどの3つの屋根についても、ダイニングのある西から小上がりのある東へと段階的に傾斜が急になっていく。奥へ行くほど包まれる濃度が濃くなる仕組みだ。
暮らしの基盤となる家は、安心して家族が集える場所。古市さんは、さらに『包み込む』工夫とその濃度を変化させることで、柔らかい毛布にそっとくるまれるような家へとつくり上げた。温かく、ほっとできる居心地の良さ…今日もT邸は、ご家族をやさしく包み込こんでいることだろう。
北欧イメージと空間を楽しめる家
北欧のイメージが好きだというTさんのご希望であったが、古市さんの配色や配置バランスの素晴らしさが感じられる仕上がりだ。
床や棚に使用されているメープル材はクリアオイル仕上げで明るい印象に。窓枠の杉材も同系色のペールトーンで塗り分ける一方、吹き抜けの高い壁には木の風合いが強い梁をそのまま生かした。このように、室内の白壁にやさしくマッチするものと、自然の風合いの強いものをバランスよく配置している。
2階寝室の引き戸も白系だが、取っ手にあたる部分には濃い茶色のラインが縦に走るデザインだ。
「手を掛ける部分は色が剥げやすいこともあり、クリアに仕上げました」
と古市さんは語るが、この色合いが絶妙なアクセントとなり部屋を引き締めている。
さらに、Tさんからは「ワクワクする家を」というご希望もあった。先ほどのリビングダイニングキッチンの奥が見通せない設計が、同時にその役を担っているそうだ。
「包み込む以外にも『この先に何があるんだろう?』という路地を歩いているようなワクワク感を演出しています。ほかの部屋でも、自分の居場所によって景色が変わるよう考えて設計しました」
2階の子供部屋は閉じ切らずに一部が開いているつくりで、吹き抜けになった1階の東側を見渡すことができる。これはTさんからの「子供部屋を完全に切り離さない」という希望もあるが、ここから見下ろす1階も表情が変わって面白い。
一方で古市さんはこう言う。
「家の中に暮らしを閉じ込めないで、外に目が向くようにとも考えました。T邸のコンセプトとは反対に聞こえますが、ひとつの場所にとどまらず開放的に動けるような場所をつくりたいと思ったんです。それで、包まれている空間と外に気軽に出ていけるバランスを配慮しました」
その一例がテラスだ。広々としたテラスは外とのつながりを感じさせる。さらにテラスの窓の一部は腰かけやすいよう、ひざ下程の高さにそろえた。外を向いて座れば、『包まれた場所』に居ながらにして、外の風や季節を感じられるのだ。
家族をやさしく包みながらも開放的な居心地の良さを実現したT邸。肩肘を張らず自然体で過ごせる家にはワクワクする空間が詰まっている。
【古市久美子】
当初はロの字型で中庭をつくるご提案だったのですが、ヒアリングしていく中でこの形となりました。「家事や作業をしながらもお子さんと密に過ごしたい」という奥様のご希望は、同じ子を持つ母として共感できるものが多かったです。玄関から階段までをリビングダイニングを回りこむ形でつくり付けるなど、少しでもコミュニケーションをとれるよう考えました。
基本データ
| 所在地 | 埼玉県所沢市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 177.21㎡ |
| 延床面積 | 123.88㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

旗竿地でも陽光の中でくつろげる眺望抜群のLDK。その秘策は?
建築家の日部(かべ)友裕さんが自邸を建てたのは、周囲を建物に囲まれた21坪の旗竿地。「自分の家だからこそ、あえて狭小×旗竿というハードルの高い土地を選んでみました」。完成した住まいは陽光たっぷり、明るく開放的で眺望も抜群。旗竿地とは思えないのびやかな空間は、いったいどんな工夫で生まれたのだろうか。

快適に暮らす、子どもが遊ぶ。 大きな木の下で家族が集う、秘密基地
「秘密基地のような家」がテーマのN邸。中心に尖った屋根を擁する個性的な外観もインパクトがあるが、屋根の下にはなんと「大きな木」があるという。設計した井上孝紀さんは、その木の下に家族が集う様子を思い描き、小さなお子さまがいらっしゃるNさまご家族の皆が住みやすい家をつくり上げた。

景観に溶け込む住まい方、コンセプトは“自然との一体感”
自然豊かな長野県のとある街に暮らす妹夫妻から依頼を受けた、一級建築士事務所エヌ スケッチの井口哲一氏。周辺環境との調和を第一に考え、住まう人のストーリーを大切にする井口氏によって手がけられた物件にはどんなストーリーが?

「土間」がつなぐ二世帯住宅!矛盾しそうな親子の本音にも解とは
二世帯の同居をスタートさせるにあたり、実家をリフォームしようと考えていたAさん一家とAさんのご両親。親世帯と子世帯、両者の思いに耳を傾けた建築家が出した答えは、まったく個性の異なる2軒の家が並列する、すっきりスマートな家の「新築」だった。

多趣味を受けとめるナチュラル空間!安心快適も実現した秘密とは
ビルトインガレージ、緑豊かなウッドテラス、パン台のある広々キッチン……。多趣味なNさん夫妻のために建築家の長谷山泰三さんがつくったのは、無垢材を贅沢に使った明るく心地よい住まい。空間の魅力だけでなく、安心・快適な性能も併せ持つ心強い家だ。

クラシカルな親世帯×リゾート風の子世帯 2つの魅力が光る、代々木の二世帯住宅
以前の家のクラシカルな雰囲気を望む親世帯、テラス付きの開放空間を望む子世帯。建築家の角倉剛さんは異なる要望に応え、大満足の住まいを実現。二世帯、建て替え、都市部の家づくりなど、さまざまなヒントが詰まった『代々木の二世帯住宅』の魅力を追う。

スペースを生かしきる 狭くても、圧迫感なく人が集まる家
中古の一戸建てをリフォームし、ご自宅にしようとお考えだったK様。建築家の渡辺泰敏さんに相談し、一緒に物件探しをするうち「やはり新築がいいのでは」と方針を転換する。購入したのは一般的に条件がよくないといわれる旗竿地。しかし、これこそが建築家とともに土地選びから始めたゆえの最良の選択だった。

職人の手仕事と自然素材で子育て!家族の安心安全を守る家とは?
幼いお子様が安心して暮らせる住環境を求めて、それまでの都会暮らしから、緑の多い郊外への引越しを決意したUさんご夫妻。木や漆喰などの自然素材でつくるローコストの企画住宅「1.5階建て住宅」を新築し、ノビノビ子育てを満喫されています。

歴史ある土地建物を驚きのバランスで守る!?セカンドハウス作り
先祖から受け継いだ300坪以上の敷地に建つ家を、セカンドハウスとして建て替えたい。そんな要望を受けて建築家の北園徹さんがつくった住居は、伝統的な日本家屋でありながらエキゾチックで前衛的。遠い過去と現在が、不思議なバランスで邂逅する空間だ。
