
未来を見据え、生活空間は1階に。
余剰空間が真の豊かさをもたらす家
長い人生、一生住む家だから
どんなことにも対応できる余剰空間をつくる
お施主様であるH夫妻は当時ともに30代だったが、「家に対して、遠い将来のことまで考えられていました」と平山さん。年齢を重ねた後の暮らし方についても思慮されており、具体的な要望として1階だけで生活が完結することを挙げられたという。
かくしてこれからずっと住む家、言い換えれば終の棲家ができたわけだが、ご夫婦はまだお若い。家族形態やライフスタイルも当然これから変化するだろう。現在小さなお子様が2人いらっしゃるH夫妻の生活の中心は、1階のリビング。もう少しお子様が大きくなれば2階の空間を子ども部屋とし、そこで過ごすことも多くなる。そして将来お子様が独立すると、また家族の形は変化するだろう。
日ごろから永続性について考えているという平山さん。H邸も、家のメンテナンスをしっかりすれば、これから孫世代くらいまでの耐久性はあるという。しかし強度さえあれば、永続性が得られるのかといえばそうではない。「人の寿命は長いですから、住む人の人生を包みこめるような家にしたいと思いました」と話す。そのために2階の空間が必要なのだ。
2階には、明らかにここは部屋と認識する場所が1か所しかない。廊下に続く窓際のホールのほか、空間の中心には階段状に2段上がるロフトのようなスペースがあるが、それらは高低差や柱によって領域がくぎられているのみ。用途を限定しない空間だからこそ「あると豊かになる、そこにただあればいいという空間になり得るんです」と平山さんは語る。
これからどんなことが起きるのかわからない、予想外のことも多いだろう中で、確固たる目的が定まっていない空間があることで、その変化を家が包含することができるのだ。
2階は今、お子様がゲーム機を置いて遊んだり、ご主人のリモートワーク場所になったりしているそう。すでに子どもの成長や、予想外の出来事も大らかに受け止めているH邸。この家は、住む人の人生と、家族と、家族で住むことの意味について考え抜かれた家である。
家族としての一体感は大切。
しかし窮屈にならないよう、個も大切にする
3つの屋根の下にはそれぞれ・1階寝室・1階リビング・2階のすべてがある。天井は屋根の形がそのままわかる形状にした。屋根がある場所にこれらを配したのにはそれぞれ理由があるという。
寝室は、家を「巣」と考えると要の場所であり、リビングは家族で住むことを象徴する空間。2階は前述したように家族が生活を追求する余白のような空間である。これらを独立した屋根の下に置くことでそれぞれがもっている空間の意味や、それらによって家全体が構成されているということをわかりやすくするようにとの配慮があった。
LDKは一つの空間だが、領域としてはしっかりと分かれている。空間を無駄なく使えるキッチンとそれに続くダイニングは2階の床の真下にあたり、天井高が2mと低めだ。「この家のようにそれほど広くない家の場合は、天井高を低く設定できるところは低くしたほうが奥行き感を生むことがあります」と平山さん。リビングへ進むと天井が一気に上がり、大きく開口された窓によって明るさも増す。さらに、小上がりになっているため直に座ったり寝転がったりもでき、まさにくつろぐための場所になっている。そんなに広くないと平山さんは言うが、空間のコントラストが絶妙な効果を生み出し、どこにいても居心地がいいLDKになった。
個室はできるだけシンプルに、極端にいえば寝るための場所と捉えて計画した。普段、家族はリビングで過ごし、寝るために個室へ行く、というイメージだ。しかし、家族といえどもプライバシーは守られなければいけないと考え、個室それぞれの独立性を重視している。
一方で、平山さんは家族のコミュニケーションや一体感も考慮し、廊下の配置や広さなどを計画。廊下は、部屋と部屋を隔てて独立性を持たせるのと同時に部屋と部屋を繋げる役割も果たす。
平山さんは「廊下は移動のためにあるものですから、実は一日のうちで頻繁に使用されるんです。たとえば将来お子さまが大きくなって、2階のそれぞれの部屋で過ごすことが多くなるかもしれません。一人でしたいこともあるでしょうから、独立した部屋は必要だと思います。しかし廊下を歩いていれば家族のだれかに会うこともありますよね。繋げる空間であるがゆえ、その空間に対して目的はなくても顔を合わせる機会を生む、家の中でも特種な空間です。移動空間の在り方によっては家族間のコミュニケーションの幅を広げることも可能です」と語る。
空間のメリハリ、領域の切り替え、一体感と独立性。全てにおいてバランス感覚に優れ、家族のだれもが気持ちよく暮らせる家になっている。
地の利を生かし
まるで森の中にいるような庭をつくる
平山さんはリビングの小上がりを縁側的な空間に見立てることで「縁側が欲しい」というご夫妻のご要望に応えた。同時に、縁側からの景色を中間領域ととらえ、庭の内外の境界を曖昧にし、庭が広く感じられるようにしたのだという。
では、平山さんはどのように庭の境界線を曖昧にしたのだろうか。
H邸は大きな通りからH邸とその隣家のみが使用する細い道を入ったところにある。家族か隣一家しかこの道に入ってくることはほぼないため、道路と家の境界に塀などは立てなかった。代わりに、庭を植栽で囲ったという。境界が曖昧になるのに加え、自然の木々の間から道路まで視線が抜ける。開放感もあり、実際の面積以上に「広がりを感じる庭」となった。
縁側的空間に座り、床面まである掃き出し窓を開ければ、遮るものなく庭が楽しめる。窓の下にはコンクリートの段をつくり、出入りもしやすい。植栽帯に植えられた木々が大きく成長した今では、まるで森の中で過ごしているように感じられて居心地は抜群なのだとか。
細い道路が南西に位置しており豊かな光量が取れるため、大きな窓が西側と南側に設けられているH邸。植栽帯は、西側の隣家の視線を遮る役割も持つ。「計画当時、家の東は畑だったんです。そのため、東側にも開いてよかったのですが、そのうちそこに家が建つかもしれないと考えました」と平山さんが予測した通り、現在そこには3階建てのアパートが建っているとのこと。東面には換気のための小さな窓しか設けなかったことが幸いして、高い建物がすぐ隣に建っても家に対する環境の質にほぼ変化はなかったという。
普段家づくりと向き合っていなければ気づかないようなことにまで心を砕いてもらえたのは、H様ご夫妻にとってもとてもありがたいことだっただろう。
H邸の家づくりについて、「1階に全部集めたいとご要望いただいたときには驚きましたが、実際につくってみると、それはすごく理に適っていると感じました。小さな敷地でも表現次第でそれは実現可能で、設計の幅を広げるきっかけになりましたね」と話す平山さん。
お話を伺っていると、家族について、またその中での全体と個人の関係について、柔軟に、かつ真摯に考え形にする姿勢に感服する。目指す家の形を聞くと「生命感が感じられる家が理想です。それぞれの個室を魅力的にすることはもちろん大切ですが、移動のための空間や外部空間などと相互に考えることで、家全体としてそれが表現できれば」と語る。
だからだろうか。平山さんがつくる家は、まるで家族の一員のように感じられるのだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 川越の住居 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県川越市 |
| 敷地面積 | 148.62㎡ |
| 延床面積 | 82.8㎡ |
| 間取り | 2LDK+屋根裏 |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | H邸 |
撮影:田中 宏明
設計者情報
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