
夫婦2人暮らしにうれしい工夫が満載。
豊かな居心地を楽しめる田園の平屋
勾配屋根と深い軒がポイント。
田園風景に馴染む穏やかな佇まいの平屋
建て替えの主目的は、永く住める家を新たにつくって次世代に引き継ぐこと。建て替えが済んだら当面はセカンドハウスとして使用し、ゆくゆくは終の住処にしたいと考え、『谷山建築設計室』の谷山武志さん・裕子さん夫妻に設計を依頼した。
場所は小学校や神社、昔ながらの商店などがある100世帯ほどの集落の中心部で、周囲には田畑も広がる。施主さまは「この田園風景に溶け込む住まいにしたい」との要望をもっており、まず、建物は木造の平屋にすることが決まった。
完成した『逢瀬町の平屋』は東西に長く、庭に面した南から見るとかなりの横幅がある住宅だ。また耐久性やメンテナンスの利便性を高めたいという要望に沿って、屋根や外壁には黒いガルバリウム鋼板を使っている。
建物のボリュームがあり、かつ、エッジが効いたデザインになりやすいガルバリウム鋼板で仕上げた家は、ともすれば田園風景で浮いた存在になりかねない。しかし谷山さん夫妻はそんなハードルをものともせず、設計の工夫で見事にランドスケープに馴染ませている。
ポイントは、屋根を北から南にかけて下がる勾配屋根とし、南の軒も大きく深くデザインしたことだ。おかげで、この家の顔となる南側は高さが抑えられ、ゆったりとした軒の効果もあって奥ゆかしい印象に。山間に佇む高級旅館のようなファサードは控えめなのに人目を引き、帰ってくるたびに幸せな気持ちになれる穏やかな佇まいに仕上がった。
メインの生活空間をワンルームに。
老後を快適に暮らすための配慮が満載
プランニングで谷山さん夫妻が最も大切にしたのは、60代のご夫妻が、永く、快適に住めること。
間取りは、東西に伸びた横長の建物の真ん中がLDK。その東側は玄関ホールと客間用の和室、西側には主寝室や水まわり、外納戸がある。
「お子さま一家も遊びにいらっしゃいますが基本はお2人暮らしですから、生活空間がコンパクトにまとまったワンルーム的な造りが便利だろうと考えました」と谷山さん夫妻。
その言葉通り、メインの生活空間がLDKのまわりに集中した間取りは無駄な動線がない上、ご夫妻が思い思いに過ごしていても互いの様子が視界に入ってコミュニケーションが取りやすい。2人暮らしにぴったりの、快適で合理的なプランといえる。
加えて、この間取りは打ち合わせの際に施主さまがおっしゃった「以前の家は寒かった」という言葉に対するアンサーでもあったという。
谷山さん夫妻は冬の寒さが厳しい郡山でも暖かく過ごせるよう、屋根や壁にグラスウールの断熱材をたっぷりと充填した。だがそれだけでなく、生活空間を客間用の和室と外納戸の間に置く──つまり、別の空間でサンドイッチ状に挟んで囲むことで、生活空間の断熱性をいちだんと高めたのである。
いずれは終の住処になることを踏まえ、高齢になっても安心して暮らせる工夫もふんだんに盛り込んだ。
床は段差のないバリアフリーで、廊下や間口は車いすでも十分通れる横幅を確保。建具にドアは使わず全て引き戸にするなど、足腰が弱った場合も問題なく暮らせるように配慮した。さらには、キッチン奥のパントリーにはすぐに駐車場に出られる勝手口を設け、必要に応じて車から邸内への車いす用スロープを設置できるスペースも取っている。
将来のどんな変化も受け入れる包容力を備え、快適な生活を送るための心遣いにあふれた『逢瀬町の平屋』は、終の住処を見据えた家づくりの理想形ではないだろうか。住まう人の暮らしを思い、丁寧にプランニングしていく谷山さん夫妻の設計の魅力が存分に発揮された住宅といえるだろう。
居心地や見える景色に変化をつけた、
心豊かに暮らせる住空間
『逢瀬町の平屋』で「心豊かに暮らせる空間デザイン」を実感するのは、やはり、生活のメインスペースとなるLDKだろう。
LDKはウッドデッキと庭に面した南側がリビング、北側がダイニング。西側には造作のテレビ台で仕切った書斎コーナーがあり、その傍らには薪ストーブも。大きなワンルーム空間でありながらそれとなくゾーニングされ、さまざまな居場所がある。
加えて注目したいのは、居場所ごとの居心地が全く異なる点だ。
リビングは、南の庭との一体感が高い開放空間。南の大開口は木製サッシを使っているから、豊かな緑が額縁の中の絵画のように映えて美しい。そして北に視線を移せば、北に向かって高くなる天井上部のハイサイドライトから爽やかな空が見え、上への開放感もあって気持ちがいい。
一方、北に配したダイニングは庭と少し離れているが、腰高の窓一面に北側の竹林が広がり、清々しい緑に包まれて食事ができる。
西側の書斎コーナーは、ちょっとこもり感があって読書に最適。オーダーであつらえた薪ストーブ周辺も豊かなくつろぎスペースで、冬はゆらめく炎を眺めて過ごす極上のひとときを楽しめる。
ワンルーム空間でも単調にならないのは、谷山さん夫妻が開放感・こもり感といった体感にバリエーションをもたせ、適切な窓計画で見える景色にも変化をつけたからにほかならない。しかも視線の抜けや天井高などの空間ボリュームもうまく利用しており、生活空間をコンパクトにまとめているのに「コンパクトに感じない」。
施主さま夫妻は、居心地満点の住まいに生まれ変わった『逢瀬町の平屋』に足繁く通うようになり、遠方のお子さま一家も遊びに来るのを楽しみにしているそう。いずれ本格的に暮らし始める日が来たときも、この家は豊かで穏やかな日々をもたらしてくれるに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 逢瀬町の平屋 |
|---|---|
| 所在地 | 福島県郡山市 |
| 敷地面積 | 867.42㎡ |
| 延床面積 | 140.36㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | E邸 |
撮影:朝日カラー 伊藤秀樹
設計者情報
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