
開放感も距離感もかなえた斬新な設計
次世代のニーズも満たす、しなやかな二世帯
垂直ラインが美しいモダンな外観
連続する袖壁で、ほどよい距離感
完成した新居の外観は、上品なライトグレーに木のアクセントを効かせたモダンなデザイン。中でも人目を引くのが等間隔で連続する袖壁だ。例えば子世帯のファサードは壁が多く、ともすれば素っ気ない印象になりそうなのだが、リブ状に並ぶ袖壁の垂直ラインが洗練された個性を生み出している。反対に、道行く人から見えない中庭側は、ほぼ全面がガラス窓。「連続するものの美しさ」を体現する袖壁とガラスの繊細なイメージが融合し、高級ホテルやレストランを思わせる素敵な佇まいとなっている。
いずれにせよ道路側も中庭側も、袖壁はこの家を印象付ける外観デザインの要といっていいだろう。ところが、「袖壁をつくろうと思ったきっかけは、デザイン的なことではないんです」と蘆田さんは話す。
二世帯住宅である「長源寺の庫裏」は、どちらの世帯からも中庭の桜を楽しむことができるよう、親世帯・子世帯がL字で中庭を囲み、渡り廊下でつながるプランとなっている。だが、L字で世帯を分けた住宅は、意外と互いの家の中が見えやすい。
「そこで、外壁に袖壁を設け、視線を制御しようと考え付いたわけです」と蘆田さん。家の外側に適度に袖壁を設ければ、ほどよく視線をカットして他方の家の中が見えにくい。それでいて、正面の中庭にある桜や緑はストレートに楽しめて、開放的な視界が守られる──。
つまり、視線をコントロールするために思い付いた袖壁を、蘆田さんたちは外観デザインにも生かしたというわけだ。一石二鳥のアイデアにさすが!と楽しい気持ちになるが、話はここで終わりではなかった。さらに詳しく伺うと、この袖壁にはまだまだ重大な役割があったのだ。
「要素は少ないほうがいい」
多くのメリットをもたらした袖壁の正体
しかし、この家は木造住宅であり、木造住宅は建物を支えるために必要な壁(※耐力壁という)をバランス良く配して耐震性を高めるつくり方が一般的。間取りを変更したくても「この壁は耐力壁だから動かせない」といった課題が生じやすい。
検討の結果、次世代が「動かせない壁」に悩まないですむように、蘆田さんたちが採用したのがラーメン構造だ。大きな柱で建物を支えるラーメン構造は耐力壁を多用しないので壁の取り外しがしやすく、間取り変更の自由度が格段に高まる。ただし、大きな柱が必須なため「部屋の中に太い柱が出てきて邪魔」という状況が起きがちでもある。
ここで、外観デザインの要である先述の袖壁を思い出していただきたい。あの袖壁は、実はラーメン構造の大きな柱。蘆田さんたちは建物を支える柱を部屋の外に出すことで室内をすっきりさせ、さらには、視線制御や外観デザインに役立つ袖壁としても活用したのである。
「住宅は住む人によって完成されていくものだと思うので、生活を束縛する建築的な要素は少ないほうがいいと考えています。今回の『長源寺の庫裏』も、視線を制御するものとリノベの自由度を高めるものが別々にあると、要素が増えて空間のフレキシビリティが損なわれてしまう。1つの要素に必要な役割を重ねられるなら、それが一番だと思うのです」
蘆田さんはそう話してくれたが、言うは易く行うは難し。まず、「柱を外部に出したラーメン構造」という発想自体が斬新で大胆。しかも、この1つの操作で「耐震」「柱の凹凸がない開放的な空間」「間取りの可変性」「視線制御」「外観デザイン」という5つのメリットを享受する。こんなことを思いつき、実現できる設計者は巷にどれくらいいるのだろう。つくづく、蘆田さんたちの発想・知見・技術のレベルの高さに恐れ入ってしまう。
空間を豊かにするアイデアで
楽しい居場所にグレードアップ
子世帯は、2階、3階の廊下も注目したいスポットだ。どちらも広めにつくられており、2階の廊下は正面に中庭の桜が見える場所をカウンター付きのワークスペースとして活用。3階の廊下にはライブラリーコーナーを設け、お子さまたちが自由に使える共用スペースに仕立てている。
「子世帯は、建物配置の関係から横長の形状になっています。主寝室や子ども室のある2階、3階は、廊下の片側に部屋が並ぶいささか単調なレイアウトになりやすいため、廊下も楽しい居場所にしたいと思ってご提案しました」
高難度の設計でいくつものニーズを同時にかなえるスゴ技は蘆田さんたちの真骨頂だ。けれど、この廊下のように柔らかな発想と小さな工夫で、凡庸になりがちな空間を楽しくする手間も惜しまない。技術もアイデアも多くの手札を持ち、施主のニーズに合わせて最適なカードを切ってくれる──。「長源寺の庫裏」には、そんな蘆田さんたちの設計の魅力が詰まっている。
共同設計:川上聡建築設計事務所
撮影者:笹倉 洋平
基本データ
| 作品名 | 長源寺の庫裏 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大阪市 |
| 敷地面積 | 1481.76㎡ |
| 延床面積 | 331.32㎡ |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

設計の力で、変形敷地をメリットに。 リビング感覚で憩えるウッドデッキのある家
建築家の古川真治さんが設計した自邸は、屋外の開放感と室内のくつろぎを楽しめるリビングのようなウッドデッキが大きな特徴。変形敷地の個性を最大限に生かし、理想的な住環境をつくり出している点にも注目だ。

桜並木の絶景を満喫できる2階ダイニングキッチンが一家団欒の場
都心を流れる小川に沿って続く鮮やかな桜並木。その通りに面しているUさん邸。20坪ほどの狭小地に建つこの住まいは、絶好のロケーションを活かして、日常生活をより楽しく、より快適に過ごす工夫がなされています。

ここだから住みたい、ずっと住みたい 永く愛され地域と共に歩む集合住宅
住まう人を満足させるだけでなく、収益性も満たさねばならない集合住宅の建築。とかく、「効率的で利回り良く建てる」ことばかりに眼が行きがちな集合住宅づくりに一石を投じたのは、アリアナ建築設計事務所の三野さん。高いデザイン性とオリジナリティーで「ここに住みたい」と選ばれ、長く住み続けてもらえる住宅が完成した。 三野 貞佳 みの さだよし アリアナ建築設計事務所 大阪市北区

家具や建具は全てオリジナル。フルリノベを 選んだからこそできたフレキシブルな住まい
居を構えるにあたり、中古マンション購入後、フルリノベーションを選択した建築家の池田さん。おかげで、希望するエリアに住まうことができたという。この選択により叶えられたのは立地条件だけではない。ライフスタイルに合わせて自在に変化する家を、こだわりの家具、贅沢な内装でつくり上げることができた。

オーナーの思いを唯一無二の魅力として表現 自然と家族が集まるリビングを内包する家
モダンでシンプルな佇まいの家をお望みだったお施主さま。建築家の山口さんは、線を省き単純化することで要望に応えた。完成したのは、小さなキューブを組み合わせたような四角い家。内部は吹き抜けがあり開放的で、おおらかに空間がまとまっている。自然と家族が集まるリビングはどのように実現したのだろうか。

それぞれの生活を大切に ほどよい距離感でつながる二世帯住宅
長い海外生活から帰国し、実家を高齢のお母様との2世帯住宅に建て替える計画をした施主のKさん。建築への造詣も深いKさんご夫妻が、和のテイストを持ちながら、洋な暮らしをしたいとの思いを持ち、その実現を依頼したのは、大ベテランの建築家、ESPAD環境建築研究所の藤江通昌さん。自然・都市・人間をテーマに、ジャンルを問わず環境にマッチした大小様々な建物を手掛けてきた、藤江さんの仕事の真髄に迫る。

ストーリーを感じる空間は極上の居心地。 視界いっぱいに海が広がる、美しい青瓦の家
沖縄県では珍しいという木造住宅を数多く手がける建築家の岸田さん。優れた性能を確保することはもちろん、デザイン性の高さも岸田さんがつくる住宅の魅力のひとつだ。気候や風土、地域と調和し、住まう人が愛着を持てる家はどのようにつくられるのか。作品のひとつ「グランブルーテラス」を例にとり紹介する。

施主と建築家の切妻屋根への想いが結実 水平の軒がつくる凛とした佇まいの家
この家は、切妻屋根の家を熱望する施主と、切妻屋根の美しさに魅了された建築家の出会いによって誕生した。「平成29年度松本市景観賞 建築物・工作物部門賞」を受賞したこの家は、数多くの独創的なアイデアであふれている。施主の要望をすべて叶え、より快適に過ごすための提案も組み込まれたこの家の誕生秘話に迫る。

のびのびと暮らせる秘密は中庭にあった。 毎日「いいな」と感じる我が家
まんなみ一級建築設計室の堀井博さんが設計したK邸は、外観と内部空間のギャップに驚かされる。外に向かってはほぼ窓もなく閉じた印象なのに対し、家の中は明るく開放的な空間が広がっている。それを可能にしたのは、家の中心にある中庭。中庭を内包する家での暮らし方とは、一体どのような感じになるのだろう。









