
狭小・密集地でこの開放感!
静かな朝の光と緑があふれる家
清々しい朝日と緑に包まれる、特別な家族の時間
しかし敷地の東側には、春には桜も咲く自然豊かな公園がある。設計を依頼された建築家の伊藤悠さんがまず考えたことは、どれだけこの公園を魅力的に取り込むか、だった。
「S様ご一家は、ご夫婦と小さなお子様2人の4人家族。ご夫婦は共働きで、夜以外で家族全員が揃うのは朝食の時間だろうと思いました」
毎日家族が集う食事の場を、東から差し込む静かな朝の光と公園の緑で豊かにしたい──。伊藤さんは陽光の中での食事の風景をイメージし、S邸をプランニングしたのである。
伊藤さんのプランによって完成したS邸は、スペースを有効活用できる3階建て。1階は玄関と駐輪場、バスルームなどの水まわり。2階と3階は中央に吹抜けがあり、2階は家族が集まるLDK、3階は主寝室と子ども部屋。1階に設備関連をまとめ、2階~3階におおらかな暮らしの空間をつくった形だ。
伊藤さんは公園の景色を最大限に取り込むために、東の公園側の中央に、2階から3階まで連続した大きな窓を設置した。その窓際には、滑らかなデザインの白い階段が3階に向かって伸びている。
この階段の内側、つまり、窓から少し離れた場所につくられたのが「家族揃って食事の時間を過ごす」ダイニングだ。窓際は吹抜けになっているため、ダイニングの椅子に座ると、上下左右に大きく開いた窓から見る公園の緑と、心地よいオブジェのような階段が目に入る。
まばゆい朝日が入る時間帯は特に、白い階段の向こうに緑が揺らめき、特別な時間が流れる。爽快な自然とインテリアが調和する清々しい空間が、家族だんらんの舞台になったのだ。
住宅がひしめき合う東京の下町にもかかわらず、S邸には気持ちのよい穏やかな時間が流れている。そういえば、この敷地は約15坪。S邸の室内を彩るのびやかな自然を眺めれば眺めるほど、住まいの開放感は敷地の広さではなく、設計によってつくられるのだと実感する。
機能に必要なものも、暮らしを彩るデザインに
この住宅でいえば、玄関から2階のLDKへの動線がそうだろう。1階の奥に配置された2階への階段をのぼりきると、突然、3階までの吹抜けと緑が広がる大きな窓が目に飛び込む。壁に挟まれた階段からいきなり開放的な空間に入ったときのシーンは劇的で、この住宅を訪れた人に強い印象を残す。
吹抜けの階段と窓越しの景色が一体となったダイニングも、豊かな体験ができる空間の1つだ。伊藤さんは階段にゆるやかなカーブをつけ、かつ、見通しのよいデザインにした。こうすることで3階の奥へ上がる動線と、大きな窓や吹抜けの開放感を両立。階段が窓際にあるため、ダイニングは外部から守られているような落ち着いた雰囲気に包まれている。
この階段は公園の緑を横目に、曲線の階段を行き来するドラマティックな動線が楽しく、お子様たちにとっては座って絵本を読んだりするスペースにもなっているそう。
ダイニングの壁にある大きな凹みも伊藤さんならではの発想が活きている。丸みを帯びた凹みはかまくらのようで、柔らかく守られている安心感もあるスペースだ。
ところが、「ここには耐震用の2つの袖壁があるんです」と伊藤さん。「でも、袖壁がむき出しになるといかにも構造壁のように見えてしまうので……」と、ダイニングの両脇に必要な2つの袖壁を軸に、かまくらを思わせる壁の凹みをデザインしたというのだ。
S様からは、「楽しんで住んでいます」との感想をいただくことができたという。つきつめれば、家は、寝食のベースとして機能すれば最低限の役割を果たす。しかし人生の中で長い時間を過ごす場所が「楽しい」なら、人生そのものまで豊かになるのはいうまでもない。S邸がそんな理想がかなう住まいになったのは、伊藤さんの「暮らし」への詩情と設計スキルがあればこそ、なのだろう。
基本データ
| 所在地 | 東京都荒川区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 50.52㎡ |
| 延床面積 | 97.24㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
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