
2つの中庭に挟まれ、まるで外にいるよう。
内と外が一体となる、開放的な平屋
豊かな自然をまるごと家に取り込む
すべての居室が庭と繋がる大胆な間取り
そのSさまが工房と自宅を一緒の場所にと考えて購入したのは、建物付きの土地。既存の建物はそのまま畳工房として使用し、畳工房の前に自宅を新築したいと考えた。
イメージしたのは「自然の環境と調和する平屋」。この土地は小さな山の中腹の集落にある。山の緑に恵まれた環境を存分に楽しめるような、かつ、風景に馴染むような家をお望みだったという。そこで西本さんは、外部空間と家の中が一体となるような平屋を計画。ダイナミックな発想で、自然の中に溶け込む家を叶えた。
「まず、敷地の中にできる限り大きな四角を取りました」と西本さん。道路に面した北側は駐車スペース分を空け、畳工房がある南側は建物同士で陰ができない距離をとってアウトラインとした。西側と東側も道路や隣家から定められた距離をラインとして、大きな四角いスペースを確保。さらにこうしてできた四角を、タテ・ヨコ2本ずつ線を引くイメージでマス目のようにエリアを仕切った。
ここからがおもしろい。マス目のうち駐車場側の列の真ん中部分と、畳工房側の列の真ん中と西端の部分を中庭としたのだ。こうすることで、駐車場側はコの字型、畳工房側はL字型で中庭を囲うことになり、居室のすべてが中庭と繋がる。
庭に面した窓は大きく開口し、さらに中庭を挟んで対になる箇所には必ず窓を配置した。そのおかげで、視線が庭の向こう側にある反対側の居室まで、さらにはそちら側の部屋に設けた開口から外部まで長く長く伸びるようになった。道路側の中庭には季節が感じられる樹木も植えられており、室内からグリーン越しに反対側の居室が見えるため、室内にいながら外部を感じられる。
駐車場からは、2つの中庭を介して畳工房まで見通すことができる。邸内に入らずとも家の前に立っただけで、どこまでが家の内部でどこからが外なのか曖昧で、自然の中に身を置くような感覚になれる住まいだと直感的にわかるだろう。
半外部の中庭が家と工房を繋ぎ、
敷地の全部が大きな1つの空間になる
軒天と天井は同じ高さにしてあり、天井が高く開放的な雰囲気。同じ素材でつなげ、壁面と接する部分はガラスの欄間としているため自然と意識や視線が外へ誘われる。さらには、外壁と同じ杉板を室内の壁面に使用している箇所もある。これらの工夫で内と外の境界線があいまいであること」が強調され、キッチン・ダイニングは室内というよりも半外部と呼ぶほうががしっくりくる空間となった。
キッチンとダイニングの脇にはリビングと和室を配置した。工房側の中庭に面した掃き出し窓は、既製のサイズで一番大きな、高さ2200mmのもの。「この窓と天井の高さを合わせると空間が美しく見える」と西本さん。ガラスの欄間分だけ天井が上がっているキッチン・ダイニング空間とひと続きになっているため、低めの天井でも圧迫感がなく、心地よい落ち着きだけが得られる。さらに、この天井高のコントラストでキッチン・ダイニング空間の開放感がより高まった。
畳工房側の庭も「裏庭」ではなく「中庭」と呼ぶのは、建物の関係性からだ。家と畳工房は別のものではなく、2つで1つとして考えたかった、と西本さんは語る。そこで、家と畳工房を繋ぐ渡り廊下のような役割も与え「工房側の中庭」としたという。
人が集まり、行き交う場所にするために工房側の中庭にはウッドデッキを配置。縁側のようにちょっと座っておしゃべりしたり、時にはバーベキューをすることもある。もちろん、家と畳工房の行き来には玄関ではなく中庭側の掃き出し窓を使用しているとのこと。
家と工房を大きな一つの建物として捉えるために、購入時から手を加えずに使用している畳工房の雰囲気を大切に考え、家の外壁は板張りとし、屋根の色味もトーンを合わせた。床のレベルも工房と揃えたことで、視覚的にもつながりを強く感じられるようになった。
完成したそのときから、環境に溶け込む
自然素材に囲まれて暮らしを楽しむ家
また、周辺に立つ家々との調和も意識したという。板張りや瓦屋根の昔ながらの家が並ぶというこの集落に馴染むよう、外壁に使用した杉板には「ウッドロングエコ」という保護剤を塗布。木の表面が酸化し、家がある程度の時を経てきたかのような表情を得ることができた。まるでずっと存在していた家のような風情で、冬野の平屋はそこにある。
大胆な外観、間取りの冬野の平屋。Sさまはプラン案を見た当初、驚かれたのではないかと尋ねてみた。
「最初に必ず、コンセプトを表した模型をつくるんです。立体的に見ていただくと、わかりやすいですから。もちろん、最終的には間取りなどが変化することも多いですが、最初の模型でしっかりとコンセプトを共有することで、スムーズにプランニングを進めることができます」と西本さん。Sさまも最初のコンセプト模型を見て、いいですね、と納得して喜んでくださったそうだ。
もちろん、竣工した家をとても気に入ってくださっているという。特に、キッチンとダイニングの半分屋外のような空間が気持ちよく、よい時間を過ごせているのだそうだ。「住むことを楽しんでもらいたいですね」と西本さんは言う。自然素材に囲まれ、見通しがよく家族のコミュニケーションも取りやすい冬野の平屋でなら、存分に暮らしを楽しむことができるに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 冬野の平屋 |
|---|---|
| 所在地 | 和歌山県和歌山市 |
| 敷地面積 | 288.73㎡ |
| 延床面積 | 94.17㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども3人 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | S邸 |
撮影:今西浩文
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

空間の変化とつながりが 家族の心地よい居場所と時間をつくる家
一般的に住宅は、四角い部屋を整然と並べただけのシンプルな平面が多い。しかしアトリエスピノザのつくる家は、部屋の形状がL字だったり、天井高も違ったり、隣や上階の部屋と一部が繋がっていたりと実に複雑。施主が、空間の多様性と光の変化に驚いた、図面からは想像もつかない快適空間に迫る。

想いを最大限に具現化する 「十人十色」の家づくり
いくつもの設計事務所やハウスメーカーに足を運ぶも、なかなか納得できなかったというNさま夫妻。しかし、インカラーアーキテクツの遠藤彰さんが提案したプランはひと目で気に入り、ほぼ即決したという。めぐり巡ってようやく手に入れた、Nさま夫妻の“理想の家”を拝見してみよう。

こんなところからも光が? 8つの光庭をもつ白い家
人生には、いくつかターニングポイントとなる出会いがある。Kさんにとってのそれは、先輩であるSさんの家へ行き、その家に魅了されたことだろう。この家を手掛けたのは、シンプルな外観からは想像もつかないほど、豊かな空間を作りだす「ha」の保坂さん。S邸を訪れる前にKさんは、自分も保坂さんに家づくりを依頼するとは思っていなかったに違いない。それだけ、保坂さんがつくる家は、人を虜にする。

細長敷地の二世帯住宅をセオリー破りで解決 家族の一体感もそれぞれも楽しめる暮らし
「家づくりに正解はない」という言葉がある。これは正しくは、施主の要望や土地環境、予算などの条件がまちまちで、そのベストな解決方法を1つに絞ることができないということだろう。唯一解がないとはいえ、このケースではこう解決するという常道、いわゆるセオリーは存在する。細長敷地では、中庭をつくるというのもその1つ。建築家の安部秀司さんは、施主のことを考え抜いた上で、あえてのセオリー破りで見事に理想の暮らしを実現してみせた。

狭小いびつな土地で叶えた、家族4人の快適ハイブリット住宅
狭小な三角形の土地に、施主家族4人の住まいをプランニングすることとなった建築家の竹内直樹さん。高さ制限、土地のいびつな形状や高低差など、厳しい条件をクリアして完成した3階建ては、鉄筋コンクリート造と木造のハイブリット住宅でした。狭小な土地にありながら、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫ります。

縦にも、横にも、上下にも広がる空間使い 敷地の周囲の緑を暮らしに取り入れた家
「どういう家なら楽しく住めるか」を考え、住むプラスアルファの要素を加え、他人に自慢できる家をと、常に住む人の暮らしのことや家づくりの満足度を意識しているという建築家の塚本さん。そんな塚本さんが設計事務所を起ち上げて最初の顧客となるM様邸は、敷地条件を生かしたコンセプトワークにも注目してほしい。

30年後も安心して暮らせる 「無色」からの家造り
Oさまファミリーが暮らす「平屋の家」を手掛けたのは、クライアントの希望に沿ったプランニングと、完成したあとのアフターフォローも万全の体制で臨む家造りに定評があるインカラーアーキテクツの遠藤彰さんだ。

眺望も明るさも! 無柱の開放空間をかなえた“キール”とは?
見晴らしがよくて、明るくて、開放的。家族の居場所がゆるやかにつながる一体感や遊び心もあり、夏も冬も快適に過ごせる──。施主様の理想をかなえたY邸ですが、実は西向き・傾斜地など気になる条件もあったのだそう。そんな懸念材料をメリットに変え、魅力的な住まいをつくり上げたのは建築家の蘆田暢人さん。「これぞ建築家の建てる家!」といいたくなる、高度な設計ノウハウと発想力に迫ります。

快適性、機能性、デザイン性が三位一体 夫婦も鳥たちもずっと巣ごもりしていたい家
注文住宅づくりにおいて「どんな家にしたいか」ということと同じくらい重要なのが「誰に依頼するか」だろう。東京都内に住んでいたTさんご夫妻が、家づくりのパートナーに選んだのは、インターネットで見つけた茨城県土浦市を中心に活動する建築家、e do designの江ケ崎雅代さんでした。



