
築48年の空き家がパッシブデザインで蘇る
若い世代が入居し、街の再生にも

並木 秀浩
なみき ひでひろ
株式会社ア・シード建築設計
埼玉県 川口市
私たちの創る家(建築)は、「人(使い手)」と「場所(環境)」から発想します。私たちの目的は人にやさしい建築を施主と共に2人3脚で創りあげてゆくことです。そこには施主の考えを建築家が増幅させ個性のある建築が実現できるものと考えています。
「この街をなんとかしたい」の思いに応え
築48年の住宅をリノベーション
実はこの住宅のリノベーションを依頼したのは、個人ではなく、四日市で約50年に渡り地域に根ざした住宅を作り続けてきたホームビルダー。
この会社との関わりは、並木さんが大手住宅設備メーカーとコラボしたスマートハウスのモデル住宅で行われた講演会に遡る。その席で、並木さんはパッシブデザインを取り入れた家づくりについてのスピーチを行ったところ、勉強のために聞きに来ていたホームビルダーの社長が感銘を受け「ぜひ我々と一緒に仕事をしてくれないか?」と声をかけてきたのだという。
社長の思いとは、「自分たちの地元の街に増加している空き家を、若い家族が居住してくれるような家にリノベーションしたい」そして「街に人々が増え、かつてのような賑わいを取り戻したい」というもの。愛する地元の「地域再生」の第一歩のプロジェクト。そのパートナーとして、と並木さんの力を借りたいと願った。
これまで、長年に渡り数多くの家を作り続けてきた経験から、地元の建築家とも仕事をしてきたことだろう。ましてや、打ち合わせのしやすい名古屋などの建築家に依頼することもできたはず。それでも、並木さんを頼ったのは、自分たちの理想を叶えられるのは並木さんしかいないと思ったからに違いない。
並木さんの家づくりに対する考えや方やこれまでの実績は、家づくりのプロからも高く評価されていることの現れだろう。
旧宅の庭木もパッシブデザインに利用
土地を読みこの場ならではの魅力を活用
この土地ならではの環境を生かしたことの1つに旧宅に植えられていた庭木の再利用がある。元の庭をウッドデッキで覆い、アウトドアリビングとして使える場としたが、一部の木はそのまま活用した。これは、植栽を観賞用としてだけでなく、リビングや寝室が丸見えになることを避ける目隠しの役目も果たす。さらには、直射日光や道路・隣家の輻射熱を除ける「木陰」をつくることで、周囲の温度を下げるという、環境装置の役割も果たすのだ。パッシブデザインの匠の並木さんだからこそ為せる業といえるだろう。
「庭木は一朝一夕にできるものではありません。長い月日で育ってきたヴィンテージでもあるんです。その価値も残していきたいのです」と並木さん。
古い庭木は家を建て替える時には、邪魔者扱いされがちなものでもある。しかし、その庭木にいくつもの新たな役割を与えることで、その価値をさらに高めた。リノベーションでは、庭をそのまま活かせるというメリットもある。
また並木さんは、パッシブデザインを実現すべくLDKの上部に塔屋を新設し高窓をつけた。屋根上を流れる風を利用し、この開口から室内の空気を吸い出し、日陰からの涼しい空気が入り込むという自然な空気の流れを生むのだ。さらにこの塔屋は、光を取り込むことや、縦方向の開放感をもたらすことにもつながるのだ。
並木さんのつくる家は、1つひとつの造作に必ず意味がある。さらには、いくつもの役割を持たせてしまう。そのうえでデザイン性も兼ね備えてしまうのだから驚きだ。
「これと同じものをウチの土地に」
この家から始まる、新時代の家づくり
また、この家は思わぬ副産物を生んだ。リノベーション案件だけでなく、ホームビルダーに新築の依頼も増えたのだという。中には、同じ四日市市内で「この家と同じものをウチの土地につくってほしい」という施主も現れたのだとか。
「広さや環境条件も違うので、同じ形ではありませんが、外と中が一体化した空間デザインや、庭木を使ったパッシブデザインの家を創らせていただきました」と並木さん。
「あなたに家をお願いしたい」と言わせる建築家は数多くいるだろう。しかし、「これと同じものをウチにもつくってほしいと」言わしめる建築家はどれだけいるだろう。並木さんはそんな稀有な建築家の1人だ。それは、並木さんのつくる家の完成度が高いことの現れ。
若者の間で、古着文化が定着しているように、近年、「新しいものを古くなったら買い替える」というモノ消費するという価値観から、「できるだけ長く使う」「修理や手を入れ使い続ける」という価値観も多く見られるようになってきた。住宅においても、「住宅は新築するもの」が当たり前だった時代が、「リノベーションをして価値を高めて住む」という選択肢も増えてきている。
並木さんがこの家で行った、パッシブデザインの要素を取り入れたリノベーションのように、古い住宅に新たな価値を与え蘇らせることが、空き家問題の解決や地域の再生にもつながることが証明された。並木さんの家づくりは、これからの日本の家づくりの新たな潮流となるに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | saisou house |
|---|---|
| 所在地 | 三重県四日市市 |
| 敷地面積 | 222.78㎡ |
| 延床面積 | 67.38㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
撮影:鈴木 敦司
設計者情報
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