
住戸に挟まれたマンションの一室でも
光が届き、風が抜ける環境をリノベで実現
リフォーム済みの物件を購入後、あえて
リノベーションを施して住みやすく整える
リフォーム前の部屋をまるごとリノベーションすることも考えていたが、適した物件が見つからず、購入したのはリフォーム済みの一室。大きな理由になったのは眺望だ。このマンションは都市計画区域から切り替わる場所に立っており、将来的にも高い建物ができる可能性が極めて低い。そのためリビングの窓から見える景色が、都心にあるマンションの4階からとは思えないほどに美しいのだ。また、近くに公園も複数あることや、ご主人が自転車で通勤できることなど、環境も申し分ないことも決め手となった。
床面積が52㎡で少々手狭に感じることはあるかもしれないが、リノベーションを施して間取りを自分たちのライフスタイルに合わせて整えればきっといい住まいになる。そんな思いを胸に、四方さんはプランニングを開始した。
リノベーションにより大きく変わった箇所はまずキッチン。以前は壁に囲われた配置で幅も狭かったが、壁も含めて全撤去してワークトップの向きを変え、ゆとりあるキッチンにリニューアルした。
LDKのほかに2部屋あった個室は間の壁を取り払い、あらたに引き戸を取り付けて仕切った。間の引き戸を開ければ一続きになるこの空間は、リビング側には寝室を、玄関側にはウォークスルークローゼットをレイアウトした。
さらに壁面の位置を変え寝室をコンパクトにすると同時に、LDKを拡張。一般的にマンションの玄関はゆとりあるスペースとはいえないが、ウォークスルークローゼットも少し狭め、その分、新たに土間を設けて空間を確保した。買ってきたものをちょっと置いたり、コートの脱ぎ着などもしやすく、便利に活用している。
壁を取り払うなど大きく手を加える箇所がある一方で、リフォーム済みの強みを生かし、水回りや天井の一部などはそのまま使用している。おかげで、全体的な予算を抑えられた。
空間をシームレスにつなげ伸びやかさを演出
窓が少なくても、光と風が心地よい暮らし
大きな役割を果たしているのが、共用廊下側の窓だ。以前は壁で仕切られた一室についている状態だったが、土間を設けたことで玄関全体に光が行き渡るようになった。さらに寝室とウォークスルークローゼットの引き戸、また廊下とLDKを仕切る引き戸を開け放つと家全体で風が抜け心地よく過ごせる。
廊下とLDKを仕切る引き戸は床から天井までいっぱいに計画し、建具の枠も見えない。すると、廊下からリビングまで一続きの空間となり広々と感じられる。それだけではない。リビングから見ると廊下の奥にウォークスルークローゼットがあるが、土間側からも光が入るために真っ暗にはならない。そのため空間に奥行きが出て、向こうに何があるのかという期待感とともに広さが感じられるという。
寝室と仕切る壁の位置を変え、実際に面積が広くなったLDKは、一角をカーテンで仕切り仕事用のスペースとした。カーテンを用いたのは、気軽に開け閉めでき、かつ全開すればリビングと一体となるからとのこと。現在は主にお子さまの遊び場として活用しており、壁ではないため目が届きやすくカーテンにしてよかったと一層感じているそうだ。将来お子さまが成長して必要となった折には、壁や扉を付ける工事をすることも考えている。
また、このスペースには壁面に横長の鏡を取り付けた。マンション特有の長細い形をしている室内だが、窓をイメージして木製フレームのものを選んだというこの鏡に外の景色や室内の様子が映り込み、横幅にも広がりが感じられるようになった。
リビングにはご主人のオーディオ関係のものを収納するための棚を造り付けた。ただ、壁面いっぱいではなく、右半分は壁面を残してグリーンなどを飾っている。棚による圧迫感を軽減するとともに、白い壁が窓からの光を反射しLDK全体を明るい印象にしている。
リビングの窓のカーテンは、窓枠ではなく天井から吊るして空間の高さを強調した。さらに天井は、廊下からキッチンにかけてはリフォーム後の照明を活用するため残したが、それ以外の部分は取り払った。取り払った箇所はコンクリートの素地が見える程度に薄く白で塗装。室内に表情が加えられたほか「たった5センチ程度だったのですが、伸びやかさの印象が変わったと思います」と四方さん。
リフォーム済みの住居なら、差し支えなく暮らせる。だが、やはり自分たちのライフスタイルに合わせた住まいは住み心地がいい。実際に暮らしてみればその快適さが実感でき「やってよかった」と思うだろう。
厳選した素材と高いデザイン性によって
生活感がないのに機能的な住まい
光によって表情が変わるため、広い面で使用するほうが特性を生かせると考え、廊下からリビングにつながる壁面に取り入れた。光が正面から当たるリビング側は白を基調にした壁面や天井となじみ、手仕事の風合いが室内に高級感を与えている。玄関から廊下の壁を見ると、陰影はもちろん窓からの景色を映しこむ姿の美しさに感動する。
LDKはすっきりと整え、生活感があまり出ないようにしたかったという。夏にしか使用しないエアコンは、リビング壁面の棚に入れ込み存在を隠した。
リビングダイニングと連続するキッチンは、インテリアにしっくりくる「家具らしさ」を重視。たとえば天板は対面のベネチアンスタッコの光沢感に合わせ、人工大理石のコーリアンを用いている。また、吊り戸棚を設けるなど収納は豊富に確保。そのすべての収納棚や冷蔵庫までを戸ですっぽり隠し、雑多な雰囲気を遠ざけた。
こうしてインテリアを整えながら使い勝手のよさも実現させているのが、四方さんのすごいところだ。廊下とLDKを仕切る戸の引き込み部分でできてしまったスペースに棚を付け、スパイスラックに。また、廊下側のカウンターにつけた棚の下には角を丸めたステンレスを取り入れた。デザイン性と実用性を兼ね合わせ、マグネットでメモを張り付けるなどして便利に活用しているとのこと。
「参宮橋の住まい」に住んで4年。「普段は戸を開け放っているので、広々として気持ちよく、すごく暮らしやすいです」と話す四方さん。最近では寝室に窓がないことを生かして、プロジェクターを使い映画館のように映像を楽しむこともあるのだとか。
普段、どんな家をつくりたいと考えているかを伺うと「光が届いて、風が抜ける家ですね。直接光が入らなかったとしても、視覚的に楽しめる、明るさを感じられるようにしたいと思っています」と、まさにこの「参宮橋の住まい」にぴたりとあてはまる答えが返ってきた。
空間は人を変える、と語る四方さん。これまでの経験で、好きな空間をつくり、そこで住むようになると自然と片付け上手に変化して、生活そのものの質が高まったと感想をくださる方がたくさんいらしたという。四方さんのつくる家なら、よりよい暮らしのはじめの一歩となるような、気持ちのいい空間ができるだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 参宮橋の住まい |
|---|---|
| 所在地 | 東京都渋谷区 |
| 延床面積 | 52㎡㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
撮影:原祥子
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

緑あふれるテラスとLDKが1つになる。 家族の憩いを楽しむリゾート風邸宅
「リゾート風の空間で家族の時間を楽しみたい」。施主さまのそんな願いをかなえたのは、内と外のつながりを豊かに生み出す設計に定評のあるdesus(デサス)建築設計事務所。家づくりの新たなスタイルとなり得る「0LDK」の間取りも要チェックだ。

空間づくりの妙が叶えた 子どもたちが伸びやかに過ごせる家
子どもたちが伸び伸びと生活し、家族が仲良く暮らせる家という施主の漠然とした要望に対し、「日本家屋のテイストを取り入れる」「1つの空間の中にいくつもの居場所を設ける」という方法で、見事に実現したのは、キトキノアーキテクチャの小林さんでした。

その土地を知り尽くした設計! 自然と共存し、暮らしを継ぐ家
いまだ自然あふれる東京郊外。その土地に住み兼業で農業を営むSさんは、家の老朽化により二世帯住宅への建て替えを考えていた。しかし、建て替えには難しい敷地条件があり、建築家の大沼徹さんに相談。谷あいという個性豊かな土地で大沼さんが実現した、農家という昔ながらのファクターを受け継ぎながらの新しい家づくりとは?

長細い家の、奥の奥まで光を届ける 壁面いっぱいに広がる光窓
南北に長細いO邸の中でお施主様が一番重視したのは、1フロアほぼ丸ごと使ったLDK。建築家の井上直大さんは、このLDK空間の隅々まで光が届けられるよう、南側の壁面いっぱいに窓を開口した。窓全体から入る光は豊かであるものの、きつく差し込むわけではない。快適な居住空間はどのようにして生まれたのか。

実家の裏庭に建坪わずか15坪 五感で楽しむいくつもの居場所
元は実家の裏庭という限られたスペースに、自宅兼アトリエを建てた建築家の狩野一貴さん。その家は、1つの空間の中に、光や風、見える景色がそれぞれ違ういくつもの居場所を設けた五感で楽しむ家。地方都市において、子育て世代の育児環境を充実させる、家づくりに迫る。

外からの視線を遮りつつ光と風を取り込むデッキテラスのある癒し
多摩市に建つ事務所兼住宅のSさん邸は、3階フロアのみが居住スペース。外から視線を遮るためコートハウスとしていますが、そこにはSさんご夫妻の思いを具現化したさまざまなプランが採用されています。

既存の難点を丁寧に改善することで生まれた 断熱・眺望・団らんを叶えたマンションリノベ
「眺望は良いが、どこか居心地が良くない」。築23年のマンションを訪れた建築家・矢嶋宏紀さんは、いくつかの違和感を察知した。定年を迎えたMさんご夫妻が求めたのは、断熱・眺望・団らんを叶える終の棲家。矢嶋さんは、居心地の悪さにつながる既存マンションの難点を、一つ一つ丁寧に改善することで、眺望を楽しみながら心地良く暮らせる住まいへと一変させた。施主の想像をはるかに超える出来栄えに、家族の絆も深まる家が誕生した。

建築家と共に楽しんだ家づくりで 家族一緒も個々も愉しい居場所がたくさん
家族が一緒に過ごす空間も、個々過ごす居場所も愉しみたい。そんな想いを託されたのが、実績豊富な建築家・松本直子さん。薪ストーブ、造作キッチン、そしてセカンドリビング。施主夫婦のアイデアが随所に息づく住まいは、濃密な対話から生まれた。 だが、このプロジェクトの真髄はそこだけではない。 実は今回取材した施主世帯に加え、母と妹が住むもう1棟を同時に建築。さらに、各棟に賃貸スペースを有する、極めて難易度の高い計画。家族の絆と賃貸経営を両立させた壮大な挑戦に迫る。

施主、大工、建築家の「共創」から生まれた 北アルプスを望むハーフビルドの“新築古民家”
北は北海道から南は九州まで、移住先を探すため日本各地を訪ねたというクライアントご夫妻。そしてようやく巡り合ったのが、北アルプスを一望する山間の集落の土地だった。その素晴らしいロケーションを活かした「土間の家」を手掛けたのは、建築家の坂利春さん。さて、どんな家となったのか、これから見ていこう。
