
標高1230mの山小屋ならではの、
妻や仲間との週末生活とは?
週末にこもる山小屋ならではの採光、暖房の工夫とは
「別荘が立て込んでいるところを抜けた、山頂に近いところです。そこより上にはもう仙人と呼ばれるような人が住んでいるきりで。別荘地ではありますが、先生から言わせると、この建物はいわゆる別荘ではないんです。別荘というものはもっと邸宅のようなところで、これは「山小屋」だ」と樋口さん。
たしかに、5.5m四方の建物は小屋といった方がしっくりくるサイズ感だ。2階は布団を敷いただけでいっぱいになる寝室、1階は最小限の水周りとバルコニーの方が大きい居間。玄関のある地階は書斎スペースとして使われている土間。ほぼ毎週末ここで奥さまと過ごしているというから、これが最小限の大きさだろう。
Yさんは既に退官しているものの、現在も非常勤で都市計画や景観・地域デザインの概論を教えている。土間になっている書斎スペースでは仕事をすることもある。机の前の窓にはガラスはない。板戸をあけると、目に入るのは山の景色が飛び込んでくる。吹き抜ける風が山の空気を運んでくる。隠れ家のような暗い書斎をほの明るくするのは、1階のスノコ床から落ちてくる光だ。「IT機器も昔から使いこなしてらっしゃって、通信環境もご自身で整えられたみたいですね。研究室からかと思ったら、この山小屋からメールが来ていたこともありましワークスタイルとしてもはや固定された仕事場は必要のない時代を先取りしていました。」と樋口さん。
仕事をしたり、草刈りをしたり、薪ストーブに使う薪を割ったり。山小屋で過ごせば、やることは山ほどある。ご自宅マンションを離れ、自然のなかで羽を伸ばせる山小屋はYさん夫婦にとって欠かせない場所になっている。
山小屋がたっている場所は標高が1230mと高く、8月終わりには上着が必要で、冬になると厳しい冷え込みになる。それでも、ご夫婦は山にこもりに行くという。周りが氷点下でも小さな山小屋は薪ストーブを焚けば、すぐに暖まる。教授のアイディアでスノコにした1階の床は、暖かい空気を行き渡りやすくする効果もあった。
Yさんが「山中庵」と名付けたこの山小屋には、学生たちも遊びに来る。雄大な山の景色と一体になれるバルコニー。続きになった居間では、学生たちとお酒を酌み交わす。1階のスノコ床からは下の土間に枝豆が落ちていることもあるのだとか。キャンパスを離れ、山小屋の床に車座になって先生と話す時間は学生にとっては貴重なものだろう。
研究室の学生たちにも親しまれ、そして何より、Yさん夫婦が愛着をもって住まう山小屋。最小限でも豊かに暮らせるとはこういうことかと教えてくれる。
自分の住まい方に責任を持てば、理想の空間を追求できる
この山小屋ができた頃、滞在するお客さんに手渡していた書類があった。それは、ここで何か起きたとしても自分の責任だという趣旨の念書。2階の居間から続くバルコニーは手すりがない。山道にある大きな岩の上にいるぐらいの注意力がなければ、簡単に落っこちてしまう。酔っぱらってフラフラ外に出ないよう自制してくださいねと、遊び心も交えつつ、注意を促すものだった。
小さな山小屋には、一般的な住宅の感覚では住めないところも多々ある。2階から1階に降りる階段は何度も話し合ったところだ。手すりをつけなければ空間をスッキリ広く見せられるが、ちょっと足を踏み外すともう支えになるものがない。フルマラソンも走るほど足腰の丈夫な先生だが、一緒に住む奥さまは? 今後、年をとったら? 設計者としては心配も尽きなかったという。それでも大丈夫という先生の言葉を信じて、手すりは壁側に設置した。水周りも浴槽とトイレはギリギリ足が入るぐらいの近さに寄せている。一般住宅では考えられないが、これも実際に住む先生がメリットデメリットを自覚して選んだ結果。
「住宅って、それでいいと思うんです。メーカーがつくるわけじゃないですから。先生もこちらを分かっていて任せてくれた面もあると思います。これがもし知らない相手だったら、お互いにリスクを考えて、ひたすら安全な方をとっていたかもしれません。それでは楽しくなかったでしょうね」と樋口さん。
もともと研究室を選んだのは、自分の論理を押し付けず学生の意見に耳を傾けてくれる先生だったから。10年を経て、実務経験を積んできたプロとクライアントとして向き合った今回も、話し合いを重ねることで、大人が楽しめる山小屋が実現した。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 山梨県南都留郡山中湖村 |
|---|---|
| 敷地面積 | 423.51㎡ |
| 延床面積 | 71.64㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | Y邸 |
設計者情報
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