
大きな開口がなくても閉塞感なく暮らす。
空を印象的に切り取り、光を入れるスリット

藤原 慎太郎
ふじわら しんたろう
有限会社 藤原・室 建築設計事務所
大阪府 大阪市天王寺区
「おもしろい空間」 普通の間取りでも、住むにはこと足りる。店舗だって、おしゃれな家具と照明を置くだけでもよいかもしれない。しかし、巷に安価な物件があふれる一方で、決して安価ではない建築設計もまた求められている。 世の中にはおもしろい空間が欲しいという人がいて、 おもしろい空間をつくりたいと思っている私たちがいる。 そこに他にない体験性があるだろうか。 それは使う人の人生や生活、イメージに合うだろうか。 過ごす人の真の望みを形にして、おもしろい空間をつくりたい。建築によって、日々の景色は変わる。生活はきっと楽しくなる。20年近く実例を積みかさね、その確信は日に日に増していく。

室 喜夫
むろ よしお
有限会社 藤原・室 建築設計事務所
大阪府 大阪市天王寺区
「楽しげな空間」 建築をご依頼いただく際、十人十色のご要望をいただきます。それは眺めの美しさであったり、居心地の良さであったり、あるいは機能性の高さであったり、実にさまざまです。 その度に、建築について考えながら、常に次の時代につながる新しい考え方や独自性を模索しています。その先に目指すものは、私たちが「よい建築」と呼びたいものです。独自の世界観とディテール、さらにそれを支える素材が不可分なくそろい、よい建築は成り立つのではないでしょうか。 そして、よい建築を支えるもうひとつの要素があります。 それは楽しげであること。 楽しいという言葉には、人の数だけ解釈があるでしょう。私たちは建築に対する大きな願いを抱きながら、その建てもので過ごす人にとっての楽しさを大切に考えています。
外観からは想像できない明るい室内。
家の中に光を貫通させる、スリットと光庭
決して広いとはいえない敷地面積、さらに前面道路以外の三方が隣家に囲われている。たとえ大きな窓を計画しても、カーテンは閉め切られたままになるに違いない。そんな厳しい条件の中、プライバシーを確保しながら光や風を家の中に入れる工夫として2人が提案したのは「家にスリットを入れる」という驚きの方法だった。
「豊中の家」は2階建てで、外観はキューブが3つ組み合わさったようなフォルムをしている。外部から見るとダークな色合いの壁面の印象が強く、暗く閉ざされた家だと感じるだろう。
ただ、そのイメージは家の中に入ると覆される。縦に横にと、細長く切り取られた複数のスリットからそれぞれライン状に光が入ってくるからだ。屋根を切り取ったスリットは、真下にあたる2階の床も同じように開け、貫通させるように1階まで光を落とした。
さらに、生活空間である2階の中心に光庭を計画。2階の天井よりも高い位置に大きく開口したトップライトに加えて異なる高さにスリットを組み合わせ、豊かに日光を取り込んだ。光庭は外壁に接する部分以外の3面の囲いをガラスとし、さながらサンルームのよう。雨仕舞をしたうえで、スリットの一部はガラスではなく防虫網を取り付けたおかげで通気も申し分ない。扉を開け放てば外部を十分に感じられる、本当に「庭」なのだ。ご夫妻も観葉植物を置いたり、野菜を干したりと活用してくださっているとのこと。また、もちろん床面もガラスを採用し、1階に光を落としている。
目立った窓がないのにもかかわらず、特に2階はどこもかしこも明るい。そのうえ細長いスリットによって演出された光の美しさには目を見張るばかりだ。「季節や時間によって強さや角度も変わりますから、時間の移ろいをより感じることができます」と2人。視線を遮りながら光を入れるという目的をただ果たすだけでなく、日光がもたらす豊かさも毎日感じられる家は、こうしてできた。
しっかりと高さを確保した1階ガレージ
ワンルームの空間の2階はスキップフロアに
「置いて眺めるだけでなく整備もされるそうなので、1階は天井を一般的な高さよりも高くしました」と2人。ご主人が好みの環境を整えることも楽しめるよう、コンクリート打ち放しのシンプルな空間とした。
エントランスを入ると2階への階段やトイレのほかに、室内からダイレクトにガレージへアクセスできる扉、レセプションルームがある。ガレージに隣接するレセプションルームは様々な用途に対応すべく、室内からの扉に加えてガレージとの間にも扉を設け、2方向から出入りできるようにした。
LDKと寝室、水回りと生活空間が集まる2階は、強固な構造でなくてもOKと木造を選択した。LDKと寝室はワンルームのように繋げている。ご要望から仕切りは設けないが、空間は区切りたい。それを叶えたのがスキップフロアだ。1階の天井が高めに計画されているため、2階は天井をそこまで上げないほうが建物のバランスとしてもよいという理由もあった。
1階からの階段を上がると、まずダイニングキッチンのエリア。そこから床レベルが上がりリビング、さらに上がって寝室に続く。床レベルの切り替わりの位置に先述のスリットがあり、高さとスリットの効果が合わさったことではっきりとエリアが変わった感覚を得られるようになった。
一番高い位置に計画した寝室から室内を見下ろす眺めにも気を配っている。寝室とキッチンはフローリング、間にあるリビングはコンクリートの床と素材を変えてリズムをつけ、さらに温かみもプラスした。リビングのコンクリート床のおかげで、フルオーダーで製作したコンクリートを主としたキッチンとの連続性も生まれた。
スリットは光を取り入れるだけでなく、外部に視線を抜く役割も担っている。「開口部が小さいからこそ、空や街並みが印象的に見えるんですよね」と2人が語るように、天井を見上げると空が気持ちよく見えるのはもちろん、寝室からハイライト越しに見る星も素敵だそうだ。さらには1階のガレージからも、光庭を抜けて空が見える。
視線が抜けるのは上方向だけではない。キッチンからは、寝室の下に設けられたスリットを通して向かいの家の屋根でくつろぐ猫が見えることもあるのだとか。どのように暮らせるかを考え楽しみにされていたご夫妻。趣味を満喫でき、日々の楽しみが生まれる「豊中の家」によって大満足の住み心地が得られていることだろう。
スリットが不思議な浮遊感をもたらした
キューブが組み合わさったような外観
キューブを3つ組み合わせたような、特徴あるデザインはスリットによって実現した。道路側から見て右に位置するのが1階のガレージと2階のLDK、寝室が収まるキューブだ。寝室の下に計画されたスリットによって、1階と2階が切り離され、不思議な浮遊感がある。また左に位置する玄関のあるキューブとの間にもスリットを入れ、まるで母屋と離れのような雰囲気もつくり出した。
合わせて外壁も1階部分は杉板型枠のコンクリート、2階は杉板で計画。質感を変えながら色を統一し、表情豊かな家に仕上げた。
家づくりについて尋ねると「お施主さまの、家が建てたいという気持ちをなによりも大切にしたいと思います」と2人。藤原さんと室さんが2人で1つの家に向き合うからこそ、どれだけ気持ちや要望に応えられているかを客観的に見ることもできるのだという。ちょうど合うものを提案したいという熱意は、この「豊中の家」を見ればすぐに伝わってくる。
基本データ
| 作品名 | 豊中の家 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府豊中市 |
| 敷地面積 | 95.6㎡ |
| 延床面積 | 107.62㎡ |
| 間取り | 木造+RC造 |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 4000万円台 |
撮影:平桂弥(studioREM)
設計者情報

藤原 慎太郎
ふじわら しんたろう
有限会社 藤原・室 建築設計事務所
大阪府 大阪市天王寺区
「おもしろい空間」 普通の間取りでも、住むにはこと足りる。店舗だって、おしゃれな家具と照明を置くだけでもよいかもしれない。しかし、巷に安価な物件があふれる一方で、決して安価ではない建築設計もまた求められている。 世の中にはおもしろい空間が欲しいという人がいて、 おもしろい空間をつくりたいと思っている私たちがいる。 そこに他にない体験性があるだろうか。 それは使う人の人生や生活、イメージに合うだろうか。 過ごす人の真の望みを形にして、おもしろい空間をつくりたい。建築によって、日々の景色は変わる。生活はきっと楽しくなる。20年近く実例を積みかさね、その確信は日に日に増していく。

室 喜夫
むろ よしお
有限会社 藤原・室 建築設計事務所
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