
大量のコレクションは飾る・納める
リノベによって、暮らしも生き方も変わる
課題はモノの多さ 2000枚を超えるCDも
削減を求めず、収納するというアプローチ
「リノベーションの事例として、私たちの自宅兼事務所が取り上げられたテレビ番組をご覧になって、お問い合わせをいただきました」と蟻川さん。
施主はYさんご夫婦。埼玉の戸田にある、築24年3LDKのマンションのリノベーションを検討しているとのことだった。
事務所に来てもらい、テレビで見た物件を実際に体感してもらいながら打合せを進めていくと、奥様やご主人から「ウチはとにかくモノが多い」「テレワークのスペースにも不自由している」とのお話が。
「古くなってきたマンションのリノベーションを機にモノを整理したいとの想いで、いくつかの会社にオファーをされているとのことでした」と村田さん。
家の状況確認と物量把握のためご自宅を訪れた、蟻川さんと村田さん。事前にモノが多いと何度も聞いてはいたため、大きな驚きはなかったものの、想像を上回るボリュームを実感できたたという。
家の中には、奥様のコレクションである2000枚を超えるCDと500枚ものDVDをはじめ、20客のコーヒーカップや書籍、衣類など様々なモノがあり、段ボールに納められて出せていないものもあると聞いていた。3つの個室のうち2部屋が埋まるほどで、ご主人のテレワークは、ベッド脇のわずかなスペースで行われているという様子だったという。
「これは、この物量をどうするかが分かれ道になると感じました」と蟻川さん。分かれ道とは、1つが「モノを削減していただく道」。リノベ後の家には「これだけしか入らない」となれば、必然的に減らすしかなくなるだろうという考えだ。もう一方は「なんとか家に納める」という道。蟻川さん自身は「自分はモノを減らせるタイプ」だというが、今回は「収納力をもたせる」というプランを主軸に据えることにした。
「チャレンジングなアプローチでしたが、奥様のお気持ちを大切にしたいと思ったのです」と蟻川さん。
それは、一見無造作に置かれ、溢れかえっているかのようなモノ達が全て、奥様にとっては貴重なコレクションなのだということ。例えばCDなどは、サブスクなどで置き換えることもできるのではないか?と思うが、サブスク化されていないレアなものが多いのだという。
それらを「入りきらないから減らせ」というのは酷な話だ。蟻川さんは「建築の力でモノの多さの問題を解決してほしい」と、助けを求められたように感じたのかもしれない。
こうして方向性は決まったが、蟻川さんたちは、パターンの違うプランも含む3案を提示したという。
「私たちは、プランを複数提出することを自分達に課しています」と村田さん。それは、プランが建築家の「独り善がり」にならないため。建築家として「これがベスト」と思ったことが、必ずしも施主にとって「良い」とは限らない。また別案があったほうが、プランの良い部分・足りない部分に気づきやすいというメリットもある。
こうして、イチオシプラン、標準的なプラン、別角度のアプローチプランという3案が提出された。
「イチオシプランが『他社にはないアプローチだった』と気に入っていただき、受注となりました。プラン以外にも私たちの対応を気に入っていただけたことが決め手の1つだったと伺いました」と蟻川さん。
大容量の収納を中心に回遊型の間取り
「飾る」ことで、好きなものに囲まれて生活
蟻川さんがこの家で提案したのは、1つめのポイントは、従来の3LDKという部屋割りを取り払い、1つの大きな空間とするというアイデア。邸内の中央に大容量の収納を設け、その周りをリビング、ドレッシングスペース、ワークスペース、寝室がぐるりと取り囲むという回遊型のゾーニングだ。大容量の収納は、主寝室とリビングの防音壁の役割も果たすという。リビングでCDをかけたりテレビを見たりしていても、大音量でない限りは、主寝室の隣に設けたご主人のテレワークスペースには影響しないという。
そして2つめは、大量のCDを「隠す」のではなく「収納しながら飾る」こと。天井付近に端から端まで続く棚を設けた。CDの背がずらりと並びショップのような感じとなる。また、テレビ台横には、雑貨を飾るガラス棚も設置した。こうすることで、しっかり収納しながら、奥様がコレクションに囲まれながら生活できるという配慮だ。竣工後、奥様からは「今、1番お気に入りのスペースです」との報告もいただいた。
そのほか、ドレッシングルームには、もともと奥様がお持ちだった洋服ダンスを設置できるスペースや、ごろんと横に慣れる畳スペースも、下部は収納となっている。もちろん、ワークスペースや寝室、キッチンなどあらゆるところに収納を設置し、収納力を飛躍的に向上させた。
この家での生活に奥様から「決して広くない我が家にものすごい収納力!設計の知恵と工夫の為せる業です」「コレクションをディスプレイして眺められるようになって、毎日がハッピーです」「そして何よりも、私の無理な要望を、きめ細かく丁寧に叶えていただきました」とコメントを寄せてくれた。
「お引渡し・最後の打合せのときに『すごく寂しい』というお言葉をいただいたのが印象的です」と村田さん。奥様にモノの量や大きさ長さを測っていただいたり、それに対するフィードバックをしたりと、約1年に渡り毎日のようにやり取りを重ねたという。施主に向き合いじっくりと対話を重ねながら進めていく、蟻川さん・村田さんの仕事に対する姿勢があったからこそ得られた、最大級の賛辞といえるだろう。
さらに奥様は「持ち物の整理ができた。せっかく作っていただいた家を長くキレイに保ちたいと、こまめに掃除をするようになった」とも。
大量にあったモノを「減らせ」といわず「収納する・飾る」というアプローチで解決してみせた蟻川さんと村田さん。施主も大満足の家に仕上げたばかりか、生活まで変えてしまう結果を生んだ。2人の力量には驚かされるばかりだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 飾る家 |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県戸田市 |
| 延床面積 | 60.92㎡ |
| 間取り | 1LDK |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 〜2000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
撮影:中村 晃
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

水郷の暮らしに思いを馳せたプランニング 大きな開口が外部と繋がる、シンプルな平屋
ご両親の家を建て替えることにしたAさま。依頼を受けた建築家の三輪さんは、お住まいになるご両親とAさまのご要望を伺ったうえで、シンプルな平屋を計画。以前の家での生活を尊重し、生活の仕方を変えることなく暮らしやすさのみを向上させた。デザインの要になったのは、川と家が密接に繋がっていた時代だ。

洗練の中に温かなノスタルジー。 和の魅力を再発見する「現代和モダン」な家
和モダンと表現される家は多いが、山上聖司さんが設計したI邸は、よくある和モダンとは一線を画す本物志向の「現代和モダン」。確かな知見で日本建築の魅力をバランスよく取り入れたI邸は、真に上質な空間に住まう幸せを感じさせてくれる住宅だ。

家族がふれ合えるくつろぎ空間が豊富! オトナ家族の家づくり
Kさん一家は、50代のご夫婦と20代のお子さまの4人家族。子育て期を過ぎたご家族の家づくりに臨むことになった建築家の植松利郎さんは、一家そろって、あるいは一人ひとりで快適に趣味や暮らしを楽しめるスペースづくりを提案。将来も見据えたアイデア満載のK邸の魅力とは?

住宅街にありながら開放感たっぷり 八寸角の米松を大黒柱に据えた住まい
兵庫県・加古川市に建つA邸は、atelier thuの坪井飛鳥さん、細貝貴宏さん、上田 哲史さんの3人が手掛けた住宅である。住宅密集地の家にもかかわらず、室内から視線が抜ける開放感。存在感を放つ大黒柱…。3人の個性とアイディアが随所にちりばめられた、A邸の魅力をご紹介しよう。

ホール・LDK、ライブラリー。「3つの集いの場」で家族がつながる家
緑豊かな公園そばの土地に家を建てることを決めたHさんご夫妻。お2人が最初に希望したのは「周囲に対して開かれた住まい」だった。この要望に応えて設計者である角倉剛氏が考えたのが、大きな土間のある玄関ホール、LDK、そしてライブラリー、3つの場で家族や友人が集う住空間だ。随所に斬新なアイディアがあふれる、角倉氏の家づくりを覗いてみよう。

選ばれる物件と快適な自邸を!オーナー邸付き賃貸マンション
自邸付き賃貸マンションの建設は規模も費用も大きいだけに、長い目で見てオーナー自身が住みやすく、かつ、円滑な経営が叶うものをつくりたい。「うちはどちらの点でも大満足です」と語るYさん夫妻のパートナーは、(株)イントロンの立岡陽さん。立岡さんが設計した住み心地抜群のオーナー邸と、経営者・入居者の双方に魅力的なマンションとは?

施主、大工、建築家の「共創」から生まれた 北アルプスを望むハーフビルドの“新築古民家”
北は北海道から南は九州まで、移住先を探すため日本各地を訪ねたというクライアントご夫妻。そしてようやく巡り合ったのが、北アルプスを一望する山間の集落の土地だった。その素晴らしいロケーションを活かした「土間の家」を手掛けたのは、建築家の坂利春さん。さて、どんな家となったのか、これから見ていこう。

おもてなしが溢れる、悠々4台分のガレージと非日常のリビング!
東京・世田谷区の一戸建てに暮らすYさんは、大切な愛車を守る屋根付きガレージをつくりたいと考え、隣接する敷地を買い増し。建築家の金田崇さんにガレージの設計を依頼しました。金田さんの提案は、ガレージに加え、「セカンドリビングのある家」という斬新なものでした。

近隣に家が増えても環境を変えずに暮らせる 壁に囲まれた中庭がある、明るい家
新規分譲地に自宅を建てるにあたり、考慮すべきなのはこれから家が増え環境が変わる可能性があること。お施主さまが要望されたプライバシー性や開放感を実現するため、建築家の池田さんが出した答えは「中庭を壁で囲うこと」だった。完成したのは壁の存在を忘れてしまうほど明るく、風通しのいい家だ。




