
LDKを2階に。国道沿いでも
カーテンを開けて生活できる、店舗兼用住宅
お客さまを迎える美容室の営業を
第一に考えた店舗兼用住宅
家のプランニングも、まず店舗ありきで進めた。まず、国道に沿うように横長い敷地に合わせて建物を配置し、国道から入りやすい方角の先端に駐車場を設けた。美容室の入り口も駐車場に面する形で設け、住宅の入り口は美容室の動線に影響しないように反対側、つまりもう片方の先端に計画した。
住宅側の入り口を入ると通り土間が伸びており、その途中に住居に上がる玄関がある。通り土間は美容室への動線としても使用され、突き当りにある仕切り扉から行き来できるようになっている。
十分な広さを確保するためLDKは2階につくることにし、美容室との仕切り扉に近い場所は洗面脱衣室など水回りを整えた。「店舗兼用住宅の利点のひとつは、仕事をしながら家事もこなせることです。美容室でも洗濯物は出ますから、洗濯機の近くに扉があれば流れがスムーズになると考えました」と髙須さん。土足のまま行き来ができる通り土間と並行に室内にも玄関から続く廊下を設け、土間と室内のどちらからでも洗面脱衣室や玄関収納にアクセスできるように計画。また、階段は玄関脇に設置し、1階のどこにいても2階へ上がりやすくした。
LDKを2階に配置したからこその快適さ。
1階と距離を近づけ不安要素をゼロに
まず、屋根や天井を低く設定。それだけでも階段の段数を2、3段減らせたという。さらに、ダイニングは床を1段上げ、逆にリビングでは下げるなど2階を全体的にスキップとすることでさらに段数を少なくした。それだけではない。実際に段数を減らすとともに、土間の上部や階段を吹き抜けとし、緩やかに空間を繋げて心理的にも1階と2階の距離を近づけたという。
自分たち家族の過ごし方を考えると、リビングは独立させたほうがよいと判断した髙須さん。ただ、離しすぎたり仕切りすぎたりすれば一体感が出ない。そこで、キッチン・ダイニングエリアとの間に階段の吹き抜けを挟みながら、壁はつくらずオープンに計画することでLDKがワンルームにも感じられる一体感を生み出した。
同時に、ダイニングは平天井、キッチンやリビングは勾配天井とフォルムを使い分けたうえ、それぞれ天井の質感をはっきりと変えた。おかげでオープンな雰囲気だけれども、居場所ごとにフィットしたくつろぎが得られるようになった。
また、適度な距離感がある空間は、暮らし方の変化にもうまく対応できるという。本来の使い方以外でも、リビングで食事をしたり、ダイニングで仕事をしたりと状況に応じて活用しているそうだ。
2階にLDKを設けたことは、国道沿いという環境においても大きな利点をもたらしている。人通りや車の通りが激しくても、視線が上まで届かないおかげで開放的に暮らせるのだ。国道側にあるダイニングの窓はしっかりとした大きさがあるが、国道の向かいは工場ということもあり「一応カーテンはつけましたが、閉めることはほぼありません」と髙須さん。
大開口した南面の窓から豊かに光が入るキッチンも、2階だからこそ叶えられた。隣家が迫っているものの、視線は建物を抜けて遠くまで伸びる。それだけでも十分に魅力的だが、窓の外には植栽を設け、奥さまの「木々を眺めながら料理がしたい」という要望にも応えている。
素材感を大切に、本物にこだわる。
コストも重視したくつろぎの住空間づくり
たとえば2階のトイレに続く壁面はタイルや壁紙ではなく、本物のレンガで構成した。しかもリサイクル品だという。「汚す前提でこの家はつくりました」という通り、レンガのほかにもモルタルなど傷がつくことを恐れずに扱える素材が多く採用されている。さらには梁や柱は角を落とすなど、スタイルに合うように自身で加工したものを使用した。
素材がもたらす雰囲気が設えと合っているのも魅力的だ。少し煩雑なほうが落ち着いて過ごせるとの思いから、収納は隠さず、醸し出される生活感までもがこの家の味になるように整えた。
空間に統一感があることにも理由がある。キッチンの収納棚は造作したものだが、なんと床材や野地板の余りを活用しているのだ。髙須さんは「塗装も一度にしますから、余った材料が別の現場で使えることは少ないのです。捨ててしまわないといけない場合もあり、とてももったいないですよね」と語る。同じ素材だからこそ、コーディネートはばっちりと決まり、それでいてエコ、コストも下げられる。まさにいいこと尽くめだ。
最後に、店舗を見てみよう。奥さまが1対1でお客さまと向き合う接客スタイルを重視し、待合スペースは2階までの吹き抜けで居心地が抜群。施術中に次のお客さまがいらしても気にならないよう、セットスペースは待合室から目の届かない、階段を上がった中2階に配置した。セットスペースは南に向かって窓があり、植栽を眺めながらリラックスして過ごせる。この窓からはキッチンの窓も見えるが、中2階と2階で高さが異なるうえ、キッチンの窓は通り土間の吹き抜けに面しているため室内まで距離があり、室内の様子は伺えないという。
日ごろからお施主さまのご要望について、何のためにそれが必要なのかを探り、プランに反映していくという髙須さん。それがどのくらい家づくりにおいて重要なのかは、不安要素や立地条件をただクリアするだけでなく、暮らしやすさや快適性にもこだわり抜いてつくられた、この「松坂の家と美容室」を見ればよくわかる。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 松阪の家と美容室 |
|---|---|
| 所在地 | 三重県松阪市 |
| 敷地面積 | 404.75㎡ |
| 延床面積 | 141.67㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 2000万円台 |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

芸術性も居心地も、たいせつな音楽室をとことん優先する空間とは
玄関から階段を降りると、そこは白い壁の明るい音楽室でした。壁には絵が飾られ、グランドピアノの向こうには窓いっぱいに庭の緑が広がっています。自然と音楽が生まれてきそうな、気持ちのよい音楽室は、この家の中心的な存在になっていました。

うなぎの寝床の敷地がこんなにも明るく 家族もペットもそれぞれが心地よい2世帯
家づくりにおける難しさの1つに土地環境がある。裏を返せば、形状や陽当たりなどが厳しい条件下で、どれだけ快適な家に仕上げるかが、建築家の腕の見せ所。これまで数多くの物件を手掛け、施主の想いに応えてきたef設計の木下さんが挑んだのは、いわゆる「うなぎの寝床」を2世帯住宅へ建て替えるというものだった。

二世帯、つかず離れず快適に。ジグザグ曲がった大きな平屋
広大な敷地に建つK邸は大きな平屋の二世帯住宅。中庭をぐるりと囲む建物は曲がりくねった独特のラインを描き、民家とは思えないほど洗練されたアーティスティックなデザインが特徴だ。だが設計した清正 崇さんによると、この形は二世帯だからこそ頭に浮かんだものだそう。 “長く、心地よく暮らせる二世帯住宅”は、なぜこの形になったのだろう。

パノラミックな田園風景の継承と 家族の安心を支える三角平面・大屋根の家
滋賀県栗東市に、独創的な作品が誕生した。前面道路側に象徴的な境界壁を持ち、建物は敷地を対角線に横切る三角形。それ以外は広大な庭とウッドデッキとなっている。 “子どもが安全に過ごせる”ことと、“パノラミックな田園風景を暮らしの中に取り込む”ことを両立した、工夫に満ちあふれるこの作品をご紹介しよう。

施主に寄り添いじっくりと下ごしらえ 自然と人に生かされて暮らす、大人の住まい
長く都会に住み続けてきた施主が、自分らしく晩年を過ごす家を求め3年の歳月を過ごした中、出会ったのが市中山居の増木奈央子さん。施主とじっくりと寄り添い資金計画や土地探しという「下ごしらえ」から、対話を重ね出来上がった家は、施主が「不満に感じる点が1つもない」と言い切るほどの、大人の住まいでした。

築43年のマンションを一新。 やわらかな発想で実現した豊かな環境
建築家の小野さんが70年代の建築にこだわって物件を探し、見つけたのは1977年築のマンション。建物の丈夫さは申し分なかったが、自宅として快適に暮らすためには多くの問題を解決しなくてはならなかった。大規模リノベーションによって生まれ変わった空間を紹介しながら、「豊かな環境」について考える。

家族が集い、ご近所の輪も広がる 新しいコミュニティ型賃貸住宅
防災・防犯・子育てなどの面からコミュニティ形成への意識が高まっている昨今、地域住人との関りが希薄な賃貸住宅でも近隣住人との自然な交流を生み出そうとする物件がある。それが今回紹介する「MOB TOWN ミナミシモハラ」。‟賃貸でも自由に楽しく住む”をコンセプトに建てた井村さんならではの想いやこだわりに迫ります。

旗竿地でも陽光の中でくつろげる眺望抜群のLDK。その秘策は?
建築家の日部(かべ)友裕さんが自邸を建てたのは、周囲を建物に囲まれた21坪の旗竿地。「自分の家だからこそ、あえて狭小×旗竿というハードルの高い土地を選んでみました」。完成した住まいは陽光たっぷり、明るく開放的で眺望も抜群。旗竿地とは思えないのびやかな空間は、いったいどんな工夫で生まれたのだろうか。

中庭に大きく開いた開口部が魅力!構造にヒノキを贅沢に使った上質な住まい
60代のAさんご夫婦が終の棲家として建てた、神奈川県・二宮町の一軒家。土台や柱といった構造部にヒノキをふんだんに使い、細部まで「上質」にこだわった住まいである。設計を担当したのは、建築家の腰越耕太さん。その細部にわたる家づくりのこだわりを、詳しくご紹介しよう。