
街と人、路地裏の雰囲気に「なじむ」
距離感が心地いい住まい
人と人を近づける「みち」を介して
街とゆるやかにつながる暮らし
ほとんどの住宅が道路ギリギリまで建てられており、車の通行量は少ないものの、路地を介した住民同士の交流が日常的に行われている。
そんないい意味での雑多感に惹かれ、街の一角に自邸を構えることを決めた建築家の辻林さん。
人と人を結びつける「みち」に対して開けた三方道路の立地は、住民や生活の気配に触れやすく、「街とゆるやかにつながりながら暮らしたい」という想いにフィットしていたそう。
「わたしたち家族はそれぞれが自分の好きなことをマイペースに楽しみ、本、玩具、植栽、楽器、器なども統一感を気にせず自由に集めるタイプです。一つひとつの要素はバラバラだけれどゆるくなじんでいて、なぜか心地がいい。そんな自分たちだからこそ、古い長屋や新築住宅、商店や社寺など多様な建物が混在し、独特の景観を形成しているこの街に、親近感と居心地のよさを感じたのかもしれません」。
関係性のゆらぎとともに
街になじんでいく住宅
そのためにはまず、街と住居の関係性をじっくり検討する必要があった。
不整形地で必要面積を確保するには建物を境界線まで寄せることになるが、その分、街との距離が近くなることから、視覚的にも聴覚的にも「開く/閉じる」のバランスについて慎重に吟味を重ねたという。
大きな窓を設けつつ、垂れ壁やリビング階段で視線をほどよく遮ったり、すだれを下ろして目隠しをしたり。
壁やカーテンで完全に分断するのではなく、プライバシーを守りながらもあえて生活の気配がにじむように開口を設けた理由を、辻林さんはこう説明する。
「街に対して開きたいから開口はほしい。でも外からプライベートを覗かれるのはイヤ。日によって設計する自分の感情にもゆらぎがありましたが、その不安定さこそが人間らしさだなと。『こうあるべき』ではなく、ゆらぎをあるがままに受け入れ、その時々で『相手との関係性』や『心地いい居場所』を選択できる。そんな余白のある住まいをめざしました」。
日々の持続的な関わり合いなくして「なじむ」ことはありえない。辻林さんが考える「なじむ建築」とは、周囲の景色に調和するデザインといった表層的なものではなく、「人と人、人と建築の間にもたらされる、温度感のあるコミュニケーション」にこそ本質がある。
「ご近所には昔から住まれている方も多く、閉じすぎたデザインは怖がられてしまいます。壁の一面が大きいと圧迫感が出るため、多面的な外観形状としたほか、面する道路に合わせて窓の位置や大きさを調整し、無機質な印象にならないよう気をつけました。細い路地は夜道が暗くなるので、窓からこぼれる生活の灯りで安心してもらえたらという想いもありました。あくまで主体となるのは家ではなく、街に暮らす人々と日々の営み。そこにフォーカスし、人の心に寄り添える『なじむ建築』をつくりたいと考えました」。
空間に意図を持たせすぎない
それが居心地のよさの理由
「人と関わり合いたい、ひとりになりたいなど、移ろう心の機微に寄り添えるよう、解放と閉鎖、光と影、喧騒と静寂といった対照的な要素をひとつの建築の中に同居させています」という言葉の通り、天井高・床レベル・照明の明るさに差異をつくることで、ワンフロアの中に生まれる多様な居場所。
「その時々の気分によって落ち着く場所というのは変わるもの。差異をあえてつくることによって『今はこの場所で過ごす』と選択できる余地を持たせています」と辻林さん。
また、「支配的な構造にはしたくない」と語る背景には、「空間の用途を一方的に押し付けるのではなく、人と空間が対話をしながら、よりよいものを一緒につくり上げていく」というイメージが根底にあるという。
「意図を持たせすぎると使い方が限定されてしまって、それ以上の発展がなくなります。使う人の感性によって関係性が変化していくような、人と場所のヒエラルキーがなく対等に会話ができる空間。そんな自然体でいられる住まいが理想ですね」。
いい家をつくるためならば
設計者としての労力を惜しまない
個々の要素が主張しすぎたり、支配的になったりするのではなく、土壁や木といった自然素材のありのままのよさを引き立て合うような空間こそが、辻林さんが理想とする「自然体で過ごせる、心から安らげる場所」。
その意図を正確に現場に伝えるため、施工図を含めた膨大な図面を自らの手で描き切るのも、設計者としての辻林さんの矜持だ。
「自分で施工図まで書くという姿勢は、独立前の事務所で学んだこと。かなりの手間や時間がかかりますが、そこまで自分が責任を持ってはじめて、いい家ができると信じているからです。細かな部材の選定も施工担当者に任せるのではなく、金物一つにしてもショールームに足を運び、自分の目で確かめた上で使用するかどうかを決めています。それがお施主さまに対しての誠意だと考えているからです」。
自分が納得いくまで突き詰めたものを、信頼できる職人とともに、品質をきちんと担保しながら丁寧な手仕事で仕上げていく。その手間ひまがあってこその、街に、家族に「なじむ家」。
「辻林さんならこの場所にどんな暮らしを描いてくれる?」。
想像するだけでワクワクしてくるという方はぜひ、コンタクトをとってみてはいかがだろう。
撮影:Yosuke Ohtake
基本データ
| 作品名 | 如ノ屋 |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府大阪市 |
| 延床面積 | 105.8㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 予算 | 5000万円台 |
設計者情報
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