
お気に入りの中古マンションを自分色に
リノベは住宅取得の新たな主流になる
施主の意識が変わった
リノベは住宅取得の新たな選択肢
Cさん夫妻は「そろそろ自邸を」と考えたときの選択肢として「注文住宅」を検討したようだが近年の住宅価格の高騰もあり、「仕事場から離れた郊外の土地をなんとか取得したとして、多額の住宅ローンを抱えて生きていく将来にリアリティを感じなかった」という。また「建売住宅」には魅力を感じず、積極的に欲しいとは思わなかったそうだ。美容師をしているCさんは、家具やインテリアにも興味・関心があり、独自の美意識があるのだ。
そんな悩みを、10数年来の常連客である建築家の花井さんに相談したことから、C邸のストーリーが始まる。
「実は私の自宅兼事務所は、古い団地の一室をリノベしたものなのです。住宅取得の選択肢の1つとして『リノベでもこんな生活が可能なのだ』という参考に、一度遊びにいらしてくださいとお伝えしました」と花井さん。
花井さんの家を訪れたCさん夫妻は「中古マンションでもリノベでこんなに素敵な暮らしができるんだ!」とこれまでの意識が変わったという。
「どのようなことを考えリノベしたかやローンの組み方など、私がこの家で経験したノウハウをお伝えしたことも、『中古リノベもアリだな』と思っていただけたようです」と花井さんは語る。
こうして、花井さんとともに中古マンション探しが始まる。
花井さんは、建築家として家を設計するだけに留まらず、物件探しやローンの手伝いなど、住宅取得に関わるあらゆる事柄に対応する。ときには繋がりのある専門家ともタッグを組み、施主をしっかりサポートするのが花井流。Cさんの案件でも、数カ月ほどかけて5邸ほどのマンションを一緒に内覧。プランの可能性などをアドバイスしていったのだという。
もともと住んでいた賃貸を取得
窮屈な間取りを大らかな空間に
前述のとおり、Cさん夫妻が住んでいたマンションは抜群の環境。「窮屈な間取りをなんとかできれば、素敵な空間に変えられる自信がありました」と花井さん。こうしてCさん夫妻は、「自分達が住んでいた賃貸マンションを購入しリノベーションして暮らす」こととなった。
花井さんのいう、窮屈な間取りとはどういったものだったのか。元の間取りは80㎡の面積に和室を含む4つの個室を持っていた。それぞれが壁やドアでしっかりと仕切られた間取りは、4人家族で子供2人それぞれに個室が必要という40年前の典型的なファミリー像を想定し、広さや環境よりも部屋数重視といったものだった。せっかくの窓からの光の差し込みや眺望を活かしきれていない間取りを花井さんは、夫婦の2人暮らしには「もったいない」と感じたという。
「恵まれた環境を最大限享受して、大らかに暮らす」というコンセプトは決まったものの、とはいえ、ここは中古マンション。壁式構造ということもあり、自由に壁を取り払い1つの空間にすることも難しい。さらには配管などの問題もあり、できること、できないことを見極めつつ空間を設え直すことが必要だ。
個室の必要性については「将来的に仕切れる余地があればよい。当面は広く使いたい」とのことだった。
「私の家でもそうなのですが、部屋を細かく仕切って用途を限定するのではなく、大らかに使えて自由度の高い空間にしています。また、中古マンションのリノベという選択で借り入れを小さくし、身軽でいられることもあって生活の変化に対応しやすい暮らし方ができるようにしています」と花井さん。
人生のステージに応じて、状況の変化を受け入れながら、軽やかに自分らしい暮らしを送る。こんな花井さんのライフスタイルに、Cさん夫妻も共感したに違いない。
こうした考えのもと、花井さんはC邸の設計を始めた。まずは、ヒアリングした内容をもとに、設計プランをプレゼンテーション。花井さんは、提案に対する意見を交わしながらプランをブラッシュアップしていくことが多いという。
「提案をたたき台に具体的に話し合うことで、クライアント自身の細かな要望にも気づいてもらいやすい。丁寧にコミュニケーションを重ね、一緒に磨き上げていきます。また、プレゼンを見ていただくことで、私を『家づくりのパートナーとして一緒にやっていけそうか』ご判断いただくようにしています」と花井さん。
最初のプレゼンでの提案がCさんに受け入れられ、大きな変更もなくほぼそのまま設計は進められることになったという。「私の家を見ていただいていたり、これまでのお付き合いなどで価値観を共有できていたというのもあるかもしれません」と花井さん。
仕切りは家具や建具のみで回遊性を
1ルーム的な空間は光や風が抜ける心地良さ
まずは、部屋数を減らし1つの大きな空間とし、隣り合う空間もできるだけ壁を設けず家具建具で間仕切るようにした。こうすることで、光や風の通り道ができるし、視線の抜けも感じられる。広いワンルームに多様な領域が混在する空間だ。収納と動線空間を中央にまとめ、その周りを生活の場とした。LDKやバックヤード、洗面などの水まわりが緩やかに繋がり、大きく回遊できる形にした。外周を行き止まりなく歩き回れることで、家の中を隅々まで体験でき、広がりを感じられるようになっている。
では邸内を覗いてみよう。玄関を入ると視線の先に明るい光の差し込むLDKが見えてくる。左手には、土間の床が延び、手前にはシューズラックと多目的に使える戸棚。さらに奥には、パントリーや食器棚として使える棚も設けた。こうすることで、買い物から帰ったらそのまま食料を収蔵できる。いわばここはバックヤード。様々なものを収納でき、リビングをすっきりとさせることができる。基本的には玄関からオープンな形となっているが、もちろん目隠しの扉も用意してあり、来客時などのプライバシー確保も抜かりない。
また、バックヤードにある大きな窓の向かい側には、リビングを見通せる棚を設けてある。LDKの見せる収納として役立つほか、窓からの光や風がリビングに入ってくる。ダイニングの椅子に座った視線の先に抜け感ももたらすという一石三鳥にもなる工夫だ。「光が入り暗くない」「風が抜けるので空調を使わなくても気持ち良い」と好評の様子。
LDKは、従来東側にあった部屋を取り払いひと続きの大きな空間とした。3方向から光が入ることで、とても明るい。最上階のため窓から遠くが見渡せるとても開放的な空間に仕上がった。
キッチンは、壁を向かないアイランド型。ダイニングテーブルと一体化したキッチンは「木工ふくなり」で作りたいという夫妻のご希望に応える形で、花井さんが設計したもの。フローリングの床の材質とマッチしている。キッチン上の釣棚には照明が仕込まれ、配線はパイプの中に通し、見えないようにしているという。こういった細やかな配慮があるのも、花井さんの仕事の特徴の1つだ。
こうして小さな部屋に分割され窮屈そうだった部屋が、花井さんのリノベで明るく開放的な空間に生まれ変わった。新居での暮らしにCさんも「家にいる時間がとても気持ちが良い」とコメントを寄せてくれた。家で過ごす時間も長くなったことだろう。でもその家はこれまでと同じ場所にあったはずの家なのだ。
花井さんの手掛けた家は、住まう人にも変化をもたらす。もともと「注文住宅」や「建売」を考えていたCさんに「中古マンションのリノベ」という選択肢の気づきを与え、身軽な状態で今の自分達にとって快適な環境をもたらした。中古マンションのリノベは、「注文住宅」「建売住宅」「新築マンション」といったこれまでの住宅取得の新たなる柱になるに違いない。
花井さんは、リノベだけでなくもちろん戸建て住宅の新築も手掛ける。大きな違いがあるように感じる両者だが「リノベも新築も『元の場所を変えて住まう』という意味では同じです」と花井さんは語る。共に、土地や間取り、採光や通風といった置かれた環境や、施主の要望や予算といった条件を読み解き、最適解を見つけ出すといったプロセスは同じなのだという。
花井さんはこれからも、高いホスピタリティーで施主に寄り添い、高い設計力、優れたアイデアで、素敵な家をつくり続けていく。
間取り図
基本データ
| 作品名 | ルーム Cz |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市 |
| 延床面積 | 80.45㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 〜2000万円台 |
| 施主 | C邸 |
撮影:植村崇史
設計者情報
この建築家が建てた家
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