
《集合住宅の事例》2階がある!?
一戸建て感覚の空間が楽しい!
斜めにけずられた低い天井を活かし、吹抜けの開放的な住戸に
言われてみれば、いくら外観が洗練されていても、斜めの部分は住む人にとって不便であろうことは想像に難くない。同じ階で天井が普通に平らな部屋より圧迫感がありそうだし、場合によっては家具も置きにくいだろう。
となると、この斜めの形は分が悪い。どうしたって、住みにくい部屋になりそうだ。しかし、集合住宅の設計経験を豊富に持つ谷内田さんは、この斜めにけずられた空間を利用して、なんと「吹抜けのある住戸」をつくった。マンションなのに、である。
発想としてはこうだ。このマンションは6階建てで、日影制限によって斜めにけずりとられるのは5階、6階の一部。ならば、制限で天井が低くなりそうな部分は、思い切って“ひとつ下の階とつなげてしまう”。
つまり、谷内田さんは5階までぶち抜きの高さを持った4階住戸と、6階までぶち抜きの高さを持った5階住戸を設計したというわけだ。
かくして出来上がった天井が斜めの住戸は、高さが1.5~2フロア分ほどあるのでほかの住戸よりも天井が高くなる。5階のJタイプの住戸はこの高さを利用した一例で、マンションには珍しい“吹抜け”と“2階”のあるメゾネット。エレベーターで5階に上がりJタイプの玄関を開けると、まず、廊下、水まわり、寝室、キッチン&リビングなどが広がる。リビングは天井の高い開放的な吹抜けで一角には階段があり、その階段をのぼると2階の部屋に続く。
2階は日影制限で斜めにけずられた6階部分にあたるので、天井の一部は斜めだ。しかし、この斜めの天井には陽光をふんだんに採り込むトップライトが設けられ、青空に手が届きそうな開放感が心地いい。
「Jタイプの場合、2階に行くと壁の向こうは6階の住戸があるわけで、建物全体の構造としては少し複雑ですね。だけど住んでいる人はそんなことは感じないと思います。マンションなのに2階があって一戸建てのような間取りですから、用途やインテリアの楽しみが広がりますよ」と谷内田さん。
同様に斜めの部分をロフトとして活用したGタイプの住戸は、キッチンのカウンターに奥行きを持たせてあり、調理台兼ダイニングテーブルとして使える仕様。キッチンスペースは一段高さを下げているので、キッチンに立つと調理しやすく、リビング側で椅子に座るとテーブルとしてちょうどいい高さになる。
「料理する人と向かい合って食べるのもお店みたいで面白いですし、2人暮らしなら並んで食事してもいい。広さをとれない集合住宅でも空間の豊かさをどう取り入れるか、どんな風に暮らしを楽しんでもらえるか、そのことはいつも考えていますね」
これまでに設計を担当した集合住宅は90棟近く。たとえ賃貸でも、狭小サイズでも、ただ単に小さな四角いハコがフラットに並ぶだけでは寂しい。柔軟なアイデアと豊富な知識・経験で、集合住宅といえども暮らしを充実させる空間を数多く手がけてきた谷内田さんならではの言葉である。
暮らしやすく、いつまでも色あせない洗練空間
壁や天井は、マンション、それも賃貸マンションとなれば白色系のビニールクロスが一般的だが、谷内田さんは壁にコンクリート打ち放しとシナベニヤ、天井は白のペンキ塗装とすることが多い。色味としてはグレー、明るい茶、白の3色になり、コンクリートの質感も効いて単調なクロス張りの空間よりずっと表情がある。
しかし、谷内田さんがこの組み合わせを用いる主な理由は全然違うものだった。「マンション、特に賃貸は、住む人とオーナーの双方にとってもいいものをつくろうと考えます。そうなると、空間として美しく、かつ、メンテナンスの手間や費用を最小限に抑えることが大切になります」
クロスは劣化が目立ちやすい上、頻繁に張り替えると手間も費用もかかる。コンクリート打ち放しなら、20年は見た目がほぼ変わらない。シナベニヤは透明に近い白の塗料で仕上げると汚れがこびりつきにくく、入居者が変わるときは拭き掃除程度できれいになるという。
天井を白くするのは、「あまり汚れないからです。天井ってまず触らないし、ほこりもたまらないでしょう?」。もちろん、狙いは白の効果で明るく広々とした印象にすることだ。
照明は、間接照明を多用する。空間がすっきりし、また、白い天井に光が反射して明るさや広がりをより感じることができる。
谷内田さんは明るさや広さを「感じる」空間づくりに心を尽くす。それは、共用スペースのエントランスでも顕著に表れている。
「このマンションの場合、1階は店舗が入るのでエントランスを広くとれませんでした。そこで、少しでも広く見せるためにエントランスからエレベーターへの通路は構造的に不要な柱も設け、“等間隔な柱の連続”で奥行きを感じられるようにしています」。さらに、通路の突き当りには大きな鏡を設置。連続した柱が映り、一見すると倍の奥行きを感じられる。
鏡には、谷内田さんいわく「まだ続いてると思ってゴチンとぶつかるとかわいそうだから」と、アイアンクロスの飾りを設えた。通路は上部に天井と床を照らす間接照明を配してあり、広範囲に光がおよんで空間全体がとても明るい。そして、光の演出も、鏡の輝きも、クロスの飾りも、目的はどうあれとにかく見た目がカッコいい。
谷内田さんはにこにこしながらこうも教えてくれた。「間接照明の光は曇りガラスを通して通路の隣にある駐輪スペースにも入ります。その明かりだけで十分なので、駐輪スペースには照明をつけていないんです。エコでしょ?」
基本データ
| 所在地 | 東京都世田谷区 |
|---|---|
| 敷地面積 | 320.53㎡ |
| 延床面積 | 1086.94㎡ |
| 施主 | 集合住宅 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

建物の設計・施工・庭づくり・家具製作まで すべてを手がけて実現した、満足度の高い家
宮城県仙台市に、瀟洒な邸宅が完成した。建物と外構は一体的なデザインで統一され、植栽や擁壁を照らすライトも備えられている。洗練された他にはないデザインで、早くも地域のランドマークとなっているそうだ。施主様も非常に満足しているというこの作品が、どのようにして生まれたのか。その背景をご紹介しよう。

ボリュームプラン提出は、わずか 90 分 施主も入居者も満足するすご腕設計力
個人建築家が集合住宅を手がけるのは困難とされる中、土地の図面を受け取ってからわずか90 分という驚異のスピードで、建物のボリュームプランを完成させる建築家がいる。16年で65棟の実績を誇る設計事務所バリカンの中川さん。超高速対応と、施主も入居者も満足させる設計の真髄に迫る。

“視線をコントロールする壁”が創り出す すべての場所で違う景色を楽しめる空間
湯布高原の別荘地に誕生した、豪勢な保養所。建物から飛び出している、多くの巨大な壁が印象に残る。実はこの大きな壁が、この物件の最大の特徴だ。室内から外を見た時、場所によって景色の見え方が異なるように配置されているのだ。最大限に景色を楽しめる、この物件に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

天井高で明るく広々。開放感の秘密は半戸外の土間にあり!
「子どもが元気いっぱい駆け回れる家にしたい」。子煩悩なKさん夫妻の希望を形にしたのは、ガーデナー建築家の勝田無一さん。開放感もプライベート感も抜群の快適な住まいには、「その手があったか!」と膝を打ちたくなるアイデアが満載。独自の手法である“囲いの建築”と、土間を中心とした大胆な間取りの魅力を探る

ご先祖、面影、家相、耐震!一族の家長ならではのリノベとは?
祖父母の家、両親の家、自分たちが住む家と代々の家が集まって建っている場所。傷(いた)んだ自分たちの家を建て直すことになったご夫婦が設計を頼んだのは、甥にあたる建築家の渡辺仁さんでした。

のびやかな空間で豊かに暮らす。 季節を感じ、夫婦がくつろげる住まい
「部屋数はあるけれど住みにくい」と、3階建ての建売住宅を建て替えたご夫妻の新たな家は、3つのテラスとロフトのある2階建て。空間ののびやかさ、季節を感じる心地よさ、使い勝手のよさまでパーフェクトな住み心地をかなえた新居には、設計を担当した齋藤文子さんの豊かな感性が活きている。

光と風を味方に、開放的に暮らす 緑あふれる団地のRC造リノベーション
都心からほど近い団地の一室を、リノベーションで生まれ変わらせた建築家の自邸。住棟間隔にゆとりがあり、周囲が開けた団地特有のスケール感を生かすことで、どんな豊かな暮らしが叶っているのか。また、RC造の制約をどのように魅力に変えていったのか。設計者で住まい手でもある、黒瀬直也さんに話を伺った。

余す余地なし。利回りと満足度を兼ね備えた集合住宅。
道路から奥まった旗竿敷地に建つ長屋、この変形敷地を購入し投資物件を設計してほしいというオーナー様の依頼から奈須野建築設計事務所 奈須野達也さんのプランニングは始まった。不動産会社を経営していて他の物件も持っているオーナー様、当然のことながら投資物件ということで、その要望は賃料を高めに設定できるようなデザインや、空間の感じ方、そして入居者数を増やすことが出来るため、目一杯土地を使った設計を行うことだ

屋外の開放感、お気に入りのアート…。 好きなものに囲まれるくつろぎの住まい
ご紹介するのは半戸外のような開放感とやわらかな自然光に包まれた、気持ちのよい暮らしがかなう家。ところが、この敷地は南側に隣家が迫る厳しい条件だったそう。ハードルを乗り越え、趣味のアートを楽しめる心地よい住まいをつくり上げた谷山建築設計室の秘策とは?

