
旗竿地を強みに。RC造で叶えた住みやすさ
住居と仕事場を併設する家

鈴木 宏昌
すずき ひろまさ
いのはな建築事務所
東京都 東村山市
当事務所は建築設計・構造設計という2つの柱を業務の軸としており、意匠性に優れた開放的な空間と耐震性を両立させたバランス良い設計が得意です。快適で安全な「建築」をご希望の方は、お気軽にご相談ください。
労力を惜しまず、納得いくまで検討。
そのおかげで叶ったデザインとコストダウン
というのも、Oさまはコンクリートの打設が得意な施工会社の社員で、鈴木さんとはこれまでも仕事で付き合いがあったのだという。当初から家はRC造でつくることを決めていたため、RC造や鉄骨造の構造計算の知識が豊富で、かつ、よいデザインの家を設計してくれる人、と思い浮かんだのが鈴木さんだった。建物の安全性を確認する構造計算は専門の人に依頼するのが一般的。だが鈴木さんは、個人住宅はもちろん、大規模建造物の構造設計、計算まで自ら行うエキスパートなのだ。
RC造にこだわった理由は、Oさま夫妻がまだ若く、長く住むための家が欲しかったということ。また、旗竿地で住宅に囲まれているため耐火性が高いほうがいい、という点もあった。さらに、RC造なら構造的に自由につくることができる部分が多く、デザイン性を追求しやすいことも大きなポイントだったという。
RC造だからこそ実現した部分の1つが、家の一角をくり抜くように計画した1階のアプローチだ。車をすっぽり入れられるほど十分なゆとりがあるアプローチだが、角にあるはずの柱がなく、片持ち状態になっている。「これだけ幅がある構造床を、片側の壁だけで支えるキャンティレバースラブとするのは木造では叶いません。RC造でも難しいのですが、エンジニアリングの技術を駆使して実現しました」と鈴木さんは言う。そして、柱を省けたからこそ車を中に入れられるようになったのだそうだ。
実現したいデザインがあるとき、構造計算を自分で行うのは大きな強みだろう。外注する手間がないのはもちろんだが、不可能なように思えるデザインでも、徹底的に時間と技術を費やして自分が納得するまで検討できるからだ。
検討に対する熱量は、コストダウンにもつながる。今回は、既存の家を解体後に普段ならやらない試験をプラスするなど、細かく地盤調査し最良な方法を探った。土地を改良する方法もあったが、この地域の下には頑丈な関東ローム層がある。そこで、普段よりも深く掘り地盤が固い場所まで到達させ、その土を捨てる場合のコストと、地盤改良する場合のコストを比較した。その結果深く掘るほうがローコストであることが判明し、そちらを選択。その比較なり計算なりの手間はかなりのものだったろうと推測できるが「工事にかかる費用が抑えられれば、その分、他の場所に予算がかけられますから」と鈴木さん。
さらに、コンクリートを全面に使った「武蔵関の住まい」だが、竪穴区画の緩和を受けられるよう階段部分で鉄骨造を取り入れ、踏み板を木の板とすることで準耐火建築物とした。また、踊り場まで鉄骨造にするとコストが上がることから、そこはRC造を用いるといった細かな調整がされている。構造上でもコストの上でも、ベストな形が考えられているのだ。鈴木さんの普段の仕事ぶりから依頼を決めたOさまの気持ちがよくわかる。
コンクリート打ち放しの天井と、質感、
色合わせの妙でホテルライクな空間を演出
内装はモダンでスタイリッシュなインテリアで整え、ホテルライクな雰囲気にしてほしいとの要望を受けたことから、天井をコンクリートの打ち放しで統一。床は塩ビタイルを選択した。
最近は、塩ビタイルのバリエーションが豊富で、色味などを細かく合わせやすいのだという。「武蔵関の住まい」でも、スタイリッシュさをより強調したLDKではコンクリートの質感に合わせたモルタル調のものを貼り、ぬくもりをプラスしたい寝室では木目調のものとするなど、シーンに合わせた設えで空間を引き立たせた。
ワンルーム空間としたLDKでは、いかに生活感なく暮らせるかを考慮した。特筆すべきはキッチンだ。背面の収納とともにバイブレーション仕上げを施した鈍色のステンレスが、空間に良いアクセントを与えている。キッチンの裏にはパントリーを配置。冷蔵庫もパントリーに入れ込むことで、さらに生活感を排除。そこに造作した木製のテレビボードがアクセントとして加わり、照明やサッシの黒いラインが空間を引き締める。色合わせやディテールの妙によって洒脱な空間ができあがった。
敷地がコンパクトでも条件を逆に生かし、快適に暮らせるように環境を整えた。例えばLDKは道路に向かって大きく開口。「旗竿地なので、道路まで距離があり視線が気になりません」と鈴木さん。窓からは道路の反対側にある公園の緑が眺められとても贅沢だ。また、隣家が迫る側の壁面にも上部に細長い開口を設けた。キッチンに立ったとき、リビングでくつろぐときでも隣家の植栽のみが見える高さに調整している。視線を2方向へ伸ばすことで、室内の圧迫感をさらに軽減した。
仕事場がある住まいだからこそ
気持ちの切り替えができる仕掛けが必要
玄関を別にし、仕事場を独立した空間にしたのは、もちろん仕事の来客を住居に入れないためだ。しかしそれだけではなく、「仕事場がある住まい」によって生まれた新しいライフスタイルをよりよく確立できるように、という理由もあるのだという。
「2つの玄関はキャンティレバースラブの下、アプローチに面して並んでいます。ある程度の距離を取りながら、完全に離れてはいない。そんなつくり方を意識しました」と鈴木さんは語る。あえて1回玄関から出て、あらためて事務所の玄関へ入ることで、仕事に向かって気持ちが切り替わることを狙っているのだ。屋根があるので天気にも左右されずに、自宅から仕事へ向かうことができる。「気持ちの切り替えって、なかなか難しいんですよね」と鈴木さん。盲点になりがちだが、重要な部分といえるだろう。仕事効率も変わってくるに違いない。
Oさまからは、家のデザインにおいても暮らしぶりにおいても、シンプルな、自分が目指すスタイルが叶えられて大満足だと感想をいただいたとのこと。提案の方法も、色や素材、家具など空間の全てを3Dで写真のようにつくり、見せるのが鈴木さんのやり方だ。わかりやすく、また、ディテールの細かな部分まで設計の時点で調整できるからこその満足度の高さなのではないだろうか。
技術や経験に加えて、並々ならぬ熱量でお施主さまの期待に応える。それが鈴木さんの家づくりなのだ。
基本データ
| 作品名 | 武蔵関の住まい |
|---|---|
| 所在地 | 東京都練馬区 |
| 敷地面積 | 103.03㎡ |
| 延床面積 | 128.96㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | O様 |
撮影:SS(大野 賢一)
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

日本最北端の厳しさでも快適に、デザインも諦めない工夫とは?
毎日、雪かきをしなければ生活できない北海道稚内市の住宅では、雪対策・防寒対策が何よりも重視されます。そうした生活ニーズとデザインの両立は難しいと多くの人が思っていた場所に2014年、機能も充分に満たしたデザイナーズ賃貸が誕生しました。

5年の歳月をかけてこだわりを重ねた 高低差を愉しむ傾斜地のコートハウス
かつては里山だった原風景に想いを馳せ、有機的な素材をふんだんに用いながら、自然の延長線上の空間としてデザインした「蛇篭の家」。「この場所に家を構えたい」と施主Wさんがあえて選んだ傾斜地を前に、建築家の六鹿さんの頭の中にはどんなストーリーが描かれていたのだろうか?

家族が集まる空間を最優先。家族の声があふれる家
富山県砺波市のA様宅は、まだ小さなお子さん3人が元気いっぱいに走り回る家です。モダンさと木の質感がほどよくマッチしたお宅は、自然あふれる住宅地の中でもひときわ美しい家となっています。「ここはすごく自然が多いんですよ。私も山で釣りや山菜採りを楽しんでいます。」と建築家の長守さんが語る町にある、素晴らしいお宅をご紹介します。

狭小でも明るくほっこり 1階と2階が緩やかにつながる家
深い庇に切り取られた豊かな緑が美しい広々バルコニー。木のぬくもりを感じる開放感抜群のリビング。狭小地であることを感じさせない、居心地の良い住宅を設計したのは、ESPAD環境建築研究所の藤江保高さん。狭小・ローコストという難題をクリアし、家族4人が快適に暮らせる住まいの秘密に迫る。

住宅街にありながら開放感たっぷり 八寸角の米松を大黒柱に据えた住まい
兵庫県・加古川市に建つA邸は、atelier thuの坪井飛鳥さん、細貝貴宏さん、上田 哲史さんの3人が手掛けた住宅である。住宅密集地の家にもかかわらず、室内から視線が抜ける開放感。存在感を放つ大黒柱…。3人の個性とアイディアが随所にちりばめられた、A邸の魅力をご紹介しよう。

子育てのしやすさに妻も納得!経年劣化を生かした中古団地リノベ
自ら建築デザイナーとして活躍する金刺久順さんが引っ越しに際して下した決断は、中古団地をリノベーションすることでした。経年劣化を活かしつつ、外部環境をうまく内部に引き込んで出来上がった家は、“団地”へのノスタルジーを残しながら生まれ変わった新たな空間でした。

眺望も心地よさもかなえる新発想。 「斜めの空間」の魅力とは?
眺望を活かしたオリジナリティのある住まいを望んでいた施主さまに、イノウエヨシムラスタジオが提案したのは「空間を斜めに区切った家」。奇抜なのでは? という懸念を吹き飛ばす快適で豊かな住空間の魅力や、全てにおいて「斜めが正解」と確信できる完成までのストーリーを紹介する。

本物の暮らしやすさのためのリノベーション 間取りの変更だけでなく環境の改善が必要
築30年を超えるマンションの部屋をリノベーション。昔ながらの間取りを今の時代に合わせ、開放的に明るくするとともに、動線も整えた。建築家の松下さんは、それに加えて断熱改修も提案。冬暖かく夏は涼しい、全てにおいて上質な部屋に生まれ変わった。

おもてなしが溢れる、悠々4台分のガレージと非日常のリビング!
東京・世田谷区の一戸建てに暮らすYさんは、大切な愛車を守る屋根付きガレージをつくりたいと考え、隣接する敷地を買い増し。建築家の金田崇さんにガレージの設計を依頼しました。金田さんの提案は、ガレージに加え、「セカンドリビングのある家」という斬新なものでした。



