
みんなの時間も1人のひとときも楽しい
光と笑顔あふれる大家族の家

田辺 誠史
たなべ まさし
合同会社 TAWs DESIGN
埼玉県 川口市
人と空間が自然環境と交感し、心身共に幸福感で満たされること。日々の生活の営みが、豊かなつながりを育む場になること。伝統や文化を現代のライフスタイルで解釈しながら、ここにしかない価値を創出し、豊かな暮らしへ繋がる場をデザインしたいと考えています。
A3用紙2枚に手書きでヒアリング
対話を通じて施主を捉える
この家を設計したのは、「環境とつながりから想像する場づくり」をコンセプトにその土地の持つ力を読み解き、光や風といった自然環境をうまく取り込み、快適な室内空間を生み出す建築家TAWs DESIGNの田辺さん。
田辺さんがこの家を手掛けることになったきっかけは、ある工務店との仕事の打ち合わせ後のちょっとした会話だったという。
「『娘の家を設計してくれる建築家を探している』との相談でした。良かったらプラン書きましょうか?とお返事し、施主となるご夫婦をご紹介いただきました」と田辺さん。
実は田辺さんに声をかける前に、ハウスメーカーや別の建築家などにプランを出してもらったこともあったが、思うようなものではなかったという。
そんな折、打合せに訪れた田辺さんに声をかけたのだ。実は田辺さんとその工務店とは、そのときまで別件の相談で数回の打合せをしただけで、一緒に仕事をしたというほどの関係ではなかったという。それでも設計依頼をしてみたくなったのは、打合せ時に感じた田辺さんの真摯な姿勢や気さくで話しやすい人柄に惹かれたからなのだろう。
こうして始まったN邸の家づくり。Nさん夫妻が出した要望は3つ。1つ目が、明るく夏涼しく冬暖かい家。2つめが、どこかに「和」の要素を入れたい。そして最後がシンプルなボックス型の外観ということ。
逆にいえば、あれもこれもといった、たくさんの要望や、何か大きなこだわりがあったわけではなかった。
だからこそ、Nさん夫妻が真に望んでいることを的確に捉えるヒアリングが大事になった。
田辺さんは、どの案件でも打合せ前にA3用紙2枚分のヒアリングシートに記入をお願いするという。ヒアリングシートの内容は、幼少期はどんな家庭に生まれ、どんな子だったかというバックボーンから始まり、趣味やよく聞く音楽、好きな色といったパーソナリティー、平日や休日の過ごし方やよく行くところといったライフスタイルまで多岐に渡る。
そして、それをあえて紙で渡して「手書き」してもらうのだという。
「手書きの回答を見ることで、内容以外にもいろいろわかることがあるんです」と田辺さん。
詳しく書く人、少ない人、しっかりとした文字の人、ササっと書いた人など、それぞれ性格が現れるのだという。
こうした情報をもとに、対話を重ね施主や家族のことをさらに深堀りしていく。
「Nさんご夫妻はお2人とも飾らないお人柄で、フランクに会話のキャッチボールができ、とても仕事がしやすかったことを覚えています」と田辺さん。
土間に吹抜け、テラス・バルコニーが
部屋も家族も緩やかにつなげる
シンプルなボックス型の外観とのリクエストに対し、駐車スペースのことも考慮しL字型に。そして開けた隣地に面した南側に大きな軒下をつくり、柱と梁で5×2のグリッド状にした。各グリッドは、テラスやバルコニーがあったり、吹き抜けだったりと、いろんな要素を盛り込んだ。この大きな軒下空間は、夏の日差しは遮りながら、冬には室内に光を導く。さらには、各部屋の延長部分としても使える。1階はリビングを中心としたパブリックゾーン。2階は個室を中心としたプライベートゾーン。1階と2階は、吹き抜けや室内の窓によって、リビングと個室がゆるやかに繋がる設計。
「和」の要素は、玄関と土間で生み出した。玄関には屋根と格子、さらにはモミジを植えて和の雰囲気を。玄関ホールは庭まで続く通り土間。外と中の中間領域でもあり、ちょっとした作業スペースとして活用することや、人を招いてのBBQにも重宝するスペースにもなる。
もともと農家が多かったこの地域には、土間をもつ家がたくさんあったに違いない。この地域で生まれ育ったお2人にとっては、どこか懐かしく心に馴染むものだろう。また、アウトドア好きなご家族にとって土間は、さまざまなアウトドアギアを気兼ねなく持ち込んだり、作業できたりする懐の広さをもつ。田辺さんは、そんな思いで土間を提案したのだ。
「土間のないもう1つのプランも出しましたが、このプランの模型を見て即決され、ほぼこの提案どおり採用されました」と田辺さん。
こうしてできあがった、N邸を詳しく見ていこう。
玄関を入るとあるのが、約7畳の土間。構造の現しの天井もより一層「和」を感じさせてくれる。
この土間の隣には、離れのような洋室はご主人の部屋。夜遅く帰ってくることが多いため、家族に迷惑をかけないようにとの配慮だ。
反対側の扉を開くと、光あふれる大空間が広がる。家族みんなが集まるリビングだ。2階まで吹き抜けになっており開放感抜群。さらにテラスの窓、上部の窓、インナーテラスの窓からも光が降り注ぐ。
リビングの北側には、ダイニングテーブルにもなるアイランドキッチン。奥様こだわりの3連コンロも利便性が高い。
キッチン真上は天井が低くなっているものの、一部が吹き抜けとなっており、閉塞感はない。
このLDKは、2階の各部屋と吹き抜けに面した室内窓で繋がっているため、どこにいても家族の存在が感じられる。ゆるやかな繋がりは、家族の一体感をも生んでくれるだろう。
リビングから階段を上がると見えてくるのが、インナーバルコニー。ここだけ屋根がくりぬかれた天空の吹き抜け。部屋1つ分もあるスペースを吹き抜けにしてしまうなんてもったいないと感じてしまうが、あえてそうしないほうが豊かなのだ。このインナーバルコニーは、室内に光を導くという大きな役割がある。また物干し場でもある。そして何より、各々が好きな時に好きに過ごしてよい、気持ちの良いスペースなのだ。実際、お兄ちゃんがここでハンモックを楽しんだりしているという。
廊下の吹き抜けに面した場所はフリースペース。いずれはライブラリやスタディコーナーになるなど、いろんな活用ができることだろう。
子供部屋は双子のお姉ちゃんの部屋は左右対称に。現在は1つの空間として使っているというが、将来は壁を設け2分割できるよう、ドアも2つある。広いバルコニーは屋根もかかり、部屋の延長としても使える。お兄ちゃんの部屋は北側。ロフトを設けることで、不公平感もなくしたという。
そして、家族の一員でもある猫ちゃんたち。猫専用の設備は設けなかったというが、図らずもテラスの梁をキャットウォークよろしく渡ったりしているのだとか。
この家には、LDKを中心に、LDKとゆるやかにつながるいくつもの居心地の良い場所がある。みんなで集まる時間も、1人で過ごすひとときも、どちらも快適に過ごせる家になった。
この家の出来栄えに「希望を超える設計をしていただいた」「住んでみて改めて良いデザインで満足しています」とコメントを寄せてくれた。
「ご自宅にお邪魔させていただいた際『改めていい家だなー』とおっしゃっていただいたのが、印象に残っています。この仕事をきっかけにご主人とは、一緒に飲みに行くような間柄にもなれてうれしく思っています」と田辺さん。
大家族の家となると、個室を軸とした閉じた空間になりがちだ。しかし田辺さんは、屋内外の関係にメリハリやグラデーションをつけることで、部屋も家族もゆるやかにつながる家を生み出してみせた。まさに、Nさん家族の関係性に相応しい家だ。
田辺さんはこれからも、施主の要望を的確につかみ「環境とつながる」「家族がつながる」家をつくり続けるだろう。
撮影者:吉田 誠
間取り図
基本データ
| 作品名 | 間がつなぐ住まい(2025年 第13回埼玉建築文化賞 優秀賞) |
|---|---|
| 所在地 | 埼玉県春日部市 |
| 敷地面積 | 220.44㎡ |
| 延床面積 | 140.77㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども4人+猫2匹 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | N邸 |
設計者情報
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