
公園の緑を生かすカギはスキップフロア
家族一緒も1人でも自然を感じる快適生活

並木 秀浩
なみき ひでひろ
株式会社ア・シード建築設計
埼玉県 川口市
私たちの創る家(建築)は、「人(使い手)」と「場所(環境)」から発想します。私たちの目的は人にやさしい建築を施主と共に2人3脚で創りあげてゆくことです。そこには施主の考えを建築家が増幅させ個性のある建築が実現できるものと考えています。
自然を感じながら暮らしたいという思いで
環境・意匠・機能、三位一体の建築家へ依頼
施主のYさん夫妻は、それまで東京で暮らしてきたというが、子どもができたことをきっかけに、自然を感じながらゆったりと暮らしたいという思いが強くなり、土地探しをスタート。樹々が生い茂る緑豊かな公園に隣接したこの分譲地に惚れ込んで購入を決めたのだという。
自分達が思い描く家づくりを誰に託すか。その候補となった建築家の1人が、土地の持つ力を最大限利用し、快適な空間を生み出すパッシブデザインの匠、ア・シード建築設計の並木さんだった。
「ホームページや雑誌をご覧になって、私の家づくりに共感いただきお声がけいただいたようです」と並木さん。
並木さんはこれまでの長いキャリアで、数多くの住宅や別荘の新築・リフォーム、さらには幼稚園やショールームなど、幅広い建物を手掛けてきた。
そのどれもが、光や緑といった自然を感じられる豊かな「環境」と、シンプルで美しいデザインでありながらも、温かみをかんじられる「意匠」と、パッシブデザインや1つの造作にいくつもの要素を取り入れるといった「機能」の三位一体を兼ね備えている。
その卓越した手腕と豊富な実績が「この人に家づくりを頼みたい」と思わせたのだろう。すでに数名の声をかけた建築家がいたようだが、並木さんへの依頼をすることとなった。
公園の緑を環境装置としても利用
スキップフロアによる立体的空間が刺さる
そしてそれを叶えるこの土地にも特徴があった。北と西、さらに南東側に隣家が迫るこの土地は、東側に敷地が飛び出すような変形地。その飛び出した部分の先が、公園の木立になっており、豊かな緑が得られるものだった。
「この東の緑はぜひ生かしたい。一方で隣家が迫っていることもあり、夏に熱くなった隣家からの輻射熱を遮断することも必要だと感じました」と並木さん。
こうして導き出されたのが「公園のある東側に開く」「スキップフロアで、家の西側からも立体的に東側に開く空間構成とする」というプラン。
土地の出っ張った部分に階段室をもってきて、そこに大きな窓を設け、リビングに緑と明るさをもたらす。そして開放的なダイニングへと繋げ、さらに公園の緑に開くルーフバルコニーも設けることで、さらなる光や緑を取り込むと共に、風の通り道にもなる。自然の風を活かしたパッシブデザインでの計画だ。
そして、各ゾーンには、家族みんなが集まれる場所だけでなく、1人になって籠ったりのんびり過ごせるような場所も散りばめた。それでも1つの大空間の中なので、家族の気配は感じられるということにも配慮されているのだ。
このプランや模型を見た奥様も「いいですね。ワクワクする!」とコメント。このプランがベースとなり家づくりが進んでいくこととなった。
「こちらからの質問にも的確にお答えいただいたり、説明をしっかりとご理解していただいたりと、楽しい対話をさせていただきました。単なる建物づくりではなく、空間づくりをしていることをご理解いただいたんだと思います」と並木さん。
光や風、緑を感じながら暮らす
家族一緒も1人でも快適ないくつもの居場所
建物や窓、宅配ボックスなどキューブ状で統一された外観をもつY邸。白い外壁は汚れにくい光触媒の左官材を用いた。リビングに光を採り込むための窓には、夏の日差しや西日を防ぐために、L字型の庇を設けた。大きな窓1つにせず、開いて通風がとれ掃除もできる配慮も。
ガレージは、「将来、夫婦2人でハーレーに乗りたい」というご夫妻の願いが叶えられるよう、広くとり、多量のアウトドア用品もしまえる高さ3.5mの天井までの大容量収納も完備した。
玄関はレッドシダーの軒天と石調の土間、ナラ材の収納など、自然な風合いを感じさせる空間。窓からの光が生み出す陰影が美しい。玄関扉も、断熱性の高い木製のものを採用した。
邸内に入った1階は、夫婦それぞれの個室と、浴室、洗面、ランドリールーム。洗面はあえて廊下部分にオープンにすることで、帰宅後にすぐ手洗いしやすく来客時も重宝する。また、階段からの朝の光を感じながら気持ちよく身支度が行える。ランドリールームが反対側にあり、直線レイアウトで動線も抜群だ。
階段を上っていくと、大きな窓から公園の樹々の緑が目に入ってくる。生い茂った樹々が公園を取り囲むようになっており、ちょうど目隠しの役割も果たしてくれている。実はこの階段部分は、土地の出っ張った部分につくられている。こうすることで、死角になりがちな土地を有効活用するとともに、より公園の緑に近づけることにもなっているのだ。
階段を折り返した先、中二階に当たる部分にあるのがリビングと子供部屋。リビングはL字にカーテンレールが仕込まれており、仕切ることで個室化が可能。親戚や友人が泊まるなどの客間として使うことができる。
またリビングの一角には、本棚とデスクが設けられた子供たちのスタディーコーナー。部屋に籠らず、リビングで勉強できる環境だ。本棚の一部は、バルコニーへの階段としても利用。デスクの足元には、スキップフロアで出来る段差を利用した収納も設けるなど、創意工夫が散りばめられている。
階段を数段上った先にあるのが天井高3.6mのダイニングキッチン。
四方の窓から光が入ることや、上下方向に視線の抜けもあり抜群の開放感だ。無垢の木材やホタテ貝パウダー配合の壁材など、自然素材を使った、シンプルでスタイリッシュでありながらも、どこか温かみを感じる空間。
横長のキッチンの背後には、大容量の収納を設け、さらに奥にはパントリーも。食器やキッチン家電、食材などが全て収納できるため、生活感を出さずにすっきりさせることができる。
南の窓側には、ちょっと座ったり寝転んだり、さらには来客時に便利なベンチ。ベンチ下は、ワンちゃんのスペースや大容量の収納とした。奥には籠れる空間であるヌックも設けた。ヌックには本棚もあるので、お子さんたちや読書好きの奥様の絶好の読書スペースとなることだろう。
そして階段を上った先にあるのが、ルーフバルコニー。公園の樹々が間近に迫る気持ちの良い空間。ハンモックを設置できるスペースや、カウンターもある。緑や風を感じながら読書やスマホをいじったり、仕事をしたりすることもあることだろう。夏には子供たちのプールを設置したり、友人を呼んでBBQすることだってできる。生活に豊かさをもたらしてくれる空間だ。
この家には、家族みんなの時間も、1人ひとりが好きなことをできる、いくつもの居場所がある。そしてそれは、樹々の緑や差し込む光、そよぐ風を感じられる自然と隣り合わせの家だ。
この家の出来栄えにYさんも「緑と空間の気持ち良さを感じながら暮らせている」「自然の風で夏の冷房も少なく、高気密・高断熱で冬も暖房が少ない快適さを感じている」とコメントを寄せてくれた。
並木さんはYさん夫妻が思い描いていた、自然を感じる豊かな暮らしを見事に実現してみせた。それはきっと、最初の想像以上だったに違いない。
並木さんは、施主の「期待を超える」という、建築家に家づくりを依頼する醍醐味を味わわせてくれる稀有な建築家の1人だ。
撮影者:守屋 欣史
間取り図
基本データ
| 所在地 | 埼玉県富士見市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 100.06㎡ |
| 延床面積 | 112.14㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供2人 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | Y邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

子育てと旗竿地の問題に回答を!3階建て×スキップフロアの家
採光や開放感の確保が気になる敷地。でも、駅徒歩圏で子育てや教育を含めた周辺環境は理想的。そんな土地に家を建てることになったSさんは、頼れる専門家を求めて建築家・近江利雄さんに相談する。近江さんの提案は、木造3階建てのスキップフロアの家。採光と共に空間の一体感を大切にした開放的な住まいには、さすがのノウハウが盛りだくさん!

どこにいても何をしても、なんだか幸せ。暮らしのワンシーンが絵になる北鎌倉の家
生活の何気ないシーンを心地よく過ごせて、しかも、家の中のどこを切り取っても絵になる──。建築家の藤田敦子さんが設計したF邸は、そんな理想を形にしたような住まい。家そのものにいのちが吹き込まれるような、藤田さん厳選の自然素材も必見だ。

設計は建築家、内装・外装はデザイナー。子どもが元気に遊べる「小さくても広い家」
自邸建築にあたり、内装・外装は自らが手がけることを計画していたインテリアデザイナーのIさま。建築家の菅家 幹さんは空間設計のみを引き受け、床面積の数字以上に広く感じる「小さくても広い家」を実現。Iさまのセンスが光る内装デザインも必見だ。

何かが違う…。何が違う?木造に見えない、上質モダンな木造住宅
「木造に見えない木造住宅」という施主のリクエストに応え、まるでRC造のようにモダンな住宅をつくった建築家の八田政佳さん。どんな希望も全力でかなえようとする設計姿勢、技術・デザインの引き出しの多さで人気を博す八田さんの家づくりの魅力とは?

家の中心から外へ伸びるスキップフロア。 空間を仕切ることで実現した広がりのある家
広さ以外は申し分ない条件の土地を見つけたお施主さま。お施主さまは平屋を希望していたが、依頼を受けた建築家の神谷さんは、その理由を伺ったうえで不安を払拭した2階建てをつくることを提案。家中が8の字に繋がるスキップフロアを計画し、2階建てでありながら段差が負担にならない家をつくり上げた。

防火地域の10坪の土地に豊かな空間を 不可能を可能にした「天空の光庭」という発想
家づくりはときに、厳しい現実に直面することがある。土地条件や予算により、ハウスメーカーから「その条件では無理」と言われ、思い描いていた家を諦めたり妥協したという人も多いことだろう。Oさんもそうなりかけた1人。そんなOさんの救世主となったのは、キトキノアーキテクチャの小林玲子さんだった。

【注文住宅の事例集】ナチュラル 戸建て 東京 水石浩太さん
内と外、2つを交差する境界があることによって、家の中にも外のような空間のある不思議なお家。建築家、水石さんの事例を是非見てください!

眺望を味わい尽くす、没入感ある大開口。 構造体を外へ出したシンプルかつ豊かな家
絶景に魅了され、崖の脇の土地を購入されたお施主さま。建築家の中野さんは安全を確保しながら景色を楽しめる家にしようと考えた。また、家具をたくさんお持ちで、魅力的に見せたいというご要望もあり、スキップフロアを採用した開放的な空間をつくり上げた。それを実現したのは「構造体のアウトソーシング」だ。

開放的なガラスのアトリエで在宅ワーク 光と緑に満たされる、五感に心地よい住まい
松並木を望む築40年のマンション住戸を、光と視線が抜ける開放的な住まいに一新したのは建築家の佐藤真紀さん。前職で大型プロジェクトを多数手がけてきた佐藤さんの豊富な知見を反映した、ナチュラルモダンな空間の魅力を紹介する。



