
建物を白いシェルで包みプライバシーを確保
中庭から光が届く、里山の暮らしを楽しむ家
視線を気にせず開放できるのは一方向のみ。
中心に設けた中庭で、家中を明るくする
しかし、家を建てるにはクリアしなければいけない点もあった。設計を担当した株式会社seki.designの石憲明さんによれば「人通りが多いわけではないのですが、畑や家などと隣接しており、完全に里山の自然だけを楽しめるのが北東の里山を望む一方向しかありませんでした」とのこと。
そこで石さんは、里山のみが見える視界をうまく切り取り、その風景を生かした家にしようと考えた。大胆にも大きく開口した里山側以外には、家の外側に向けてほとんど窓を設けなかったのだ。里山を美しく眺められる大きな開口に接してはLDKが配置され、明るく大らかな空間となっている。ただ、明るいのはLDKだけではない。里山に向く窓から離れれば暗くなりそうだが、家全体が明るい光に包まれている。
その秘密は家の中心に設けた中庭にあるという。
犬をのびのび遊ばせたいと、ご夫妻が当初から要望されていた中庭。家の中心にロの字につくった中庭は広さを十分に取り、一日を通してさんさんと日が射し込むように計画。そのうえでLDKに面する部分はもちろん、四方のすべてを開口して家の中心から室内へ光を届けることを可能にした。
プライバシーをしっかり守りながらも開けられる方向は最大限に開口したからこそ、この土地が持つ素晴らしい特性が存分に楽しめるようになった。LDKで過ごしていると視界いっぱいに里山の景色が広がり、周りが家や畑に囲まれていることをすっかり忘れてしまう。そればかりか中庭を通して風が抜けるおかげで、他の三方が閉じられていることも全く気にならない。
お施主さまご夫妻の「緑の中で暮らしたい」という希望を、最良の形で叶えたといえよう。
日射や視線をコントロールする機能性と
洗練されたデザインを両立した白いシェル
「ロの字型の中庭を取り入れた家ですから、そのままだと四角いコンクリートの箱のような家になってしまいます。それは、この風光明媚な土地には似合わないと考えました」と石さん。RC造の建物がシェルに包まれるイメージで、白い壁をデザインしたという。
中の躯体がきっちりした長方形であるのに対して白いシェルは敷地の形状に合わせており、コンクリート壁にぴたりと沿う部分もあれば、大きく張り出している個所もある。面白いのは、環境を引き立たせる洗練されたデザインだと感じられるそれが、庇として機能的にも大きな役割を担っていることだ。
例えば駐車場からエントランスへ続く長いアプローチは深く覆われ、ドラマチックに演出されている。同時に、日差しはもちろん、中の躯体から雨汚れからも守ることに役立っているという具合だ。さらに畑や家がある方向に設けた窓にも、白い壁の上部に開口を設けることで外部からの視線を遮りながら光を届けることを実現している。庇を庇と感じさせたくなかった、と石さん。プライバシーを守る部分とそうではない部分を壁の高さや幅で調節し、さらにそれをリズミカルなデザインに反映した。機能とデザインを結びつける石さんらしい設計に、クールでスタイリッシュな外観を希望されたご主人もとても喜ばれたとのこと。
白い壁の奥にRCの躯体が見える構造は複雑そうに感じられるかもしれない。しかし、先述の通り殻のように包み込まれているだけであるため、そう複雑な形状でもないのだと石さんは話す。こんなにもデザイン性の高い家がコストを抑えつつ建てられたことは、お施主さまにとっても嬉しい驚きだったに違いない。
ライフスタイルを反映し、家事動線も短く
暮らしを楽しむことを第一に考えた家づくり
エントランスから右へ進むとLDKへ、左に向かうとご夫妻それぞれの個室や水回りなどプライベートエリアに続く。廊下を省き、主に部屋を繋いで室内を通って回遊できるようにした。エントランスもウォークスルーのシューズクローゼットが隣接しており便利だ。
主寝室からクローゼット、洗面脱衣室と風呂、LDKへと一直線に繋いだ動線はご夫妻だけの生活だからこそともいえる。必要なときのみ扉を閉めることにし、普段は開け放しておけば必要な場所へするすると進めてとても便利。加えて家事動線が最短にまとめられたことで、効率も上がった。それだけではない。「この動線をコンパクトにまとめたおかげで、生活を楽しむLDKに、より広さをもたらすことができました」と石さん。
そのLDKだが32畳、60㎡近くあり本当に広い。天井高も広さとバランスが取れるよう2,7mと高めに設定しており、より空間の大きさが実感できるという。里山側も中庭側も同じ特注のサッシを用いた大きな窓がまた素晴らしい。「切り取った景色を生かし切りたい」と石さんが意図する通り、視界に余計なものが入ることが極力抑えられ、里山の景色や中庭の明るさを存分に堪能できるようになった。
また室内の床と里山側に設けたテラスを違和感なくフラットに仕上げた上、室内の天井と外部の白い壁も高さを揃えて繋げた。おかげで、テラスもリビングの一部のように感じられ、より開放感が得られる。
望み通りの暮らしができる家が完成し、現在は庭づくりに励むなどより生活を楽しまれているというご夫妻。お施主さまのライフスタイルと、お好みのデザインを的確に読み取り、高い機能性も兼ね備えた家として表現する。石さんの設計だったからこそ、これだけ満足度が高い、未来も楽しくなるような家づくりができたのだろう。
撮影者:福澤 昭嘉
間取り図
基本データ
| 作品名 | 西宮・里山の白い平家 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県西宮市 |
| 敷地面積 | 597㎡ |
| 延床面積 | 196㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | T邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

小さな家でも広々と暮らしたい。 中庭を配した、開放感あふれる住まい
栃木県に立つK邸。延べ床面積は86.74㎡と決して広くはないが、両サイドから明るい光が入るLDKは、開放感に満ちている。LDKに廊下の役割を兼ねさせることで効率的に広さを確保するなど、技とアイディアに満ちた、吉田裕一建築事務所の吉田裕一さんの家づくり。その詳細をご紹介しよう。

とことん拘ったローコスト住宅!建築家が自分の為に建てた家とは
建築家が自分の為に建てたローコスト住宅。拘った部分や反省点、そして建築に掛った金額など、普段はあまり聞けない部分も丁寧に説明をして下さる建築家石田摩美子氏。敷地の魅力を最大限に生かすことを心がける石田氏の住まいは、土地探しに1年、条件の厳しい立地に工夫を重ねた拘りの家だ。

クローゼットを楽器の練習場所に 対話が育む施主づくり家づくり
よい家づくりには「施主力」も必要だと語るのは、人の力設計室の小林さんと片岡さん。彼らは徹底的に人と寄り添った住宅をつくり続けている。普通の家で思いっきりトロンボーンを吹きたいという、施主の願いを叶えた家づくりに迫る。

設計事務所が自社で施工まで デザインも性能も「あきらめない」家づくり
家を建てるとき、ハウスメーカーにするか? それとも設計事務所に頼むか? どちらにも良さがあり、実に悩ましいところです。とくに本サイトをご覧になっている方ならなおさらでしょう。アイネクライネ一級建築士事務所の伊藤克弘さんが手掛けた「下平尾の家」に、その良さを両立するヒントが隠されているかも知れません。

沖縄の気候風土、文化を熟知した匠がつくる 混構造と赤瓦屋根の二世帯住宅
本土と気候風土や文化が大きく違う沖縄の家づくりには、沖縄ならではの知識や工夫が必要。沖縄で生まれ育ち今も沖縄を中心に活動を続ける建築家、山城さんは建築士歴50年を超えるベテラン建築家。沖縄を熟知した匠の家づくりに迫る。

自慢したいデザインと心地よさ。空間を洗練させるプロの技!
「家づくりのために貯めた大金を、規格住宅に使いたくない」。それは、唯一無二のわが家を求める施主様がふと漏らした本音。建築家・松岡淳さんはその思いを真摯に受け止め、家中のどこにいても快適で心地よく、それでいて自慢したくなるほど「カッコいい」家を完成させた。制約の中で広さ・快適性・美しさを実現した、松岡さんならではの家づくりとは!?

娘が望んだ南欧風に、父が望む和の空間はどう収まったのか!?
古くなった家を建て直すことにしたHさんご一家。仲の良い家族ですが、生活スタイルや好みは親世帯と子世帯では異なります。大半は共有するけれど、それぞれがこだわるプライベート空間は残す、それがHさんご一家にとってのベストバランスでした。

歴史ある土地建物を驚きのバランスで守る!?セカンドハウス作り
先祖から受け継いだ300坪以上の敷地に建つ家を、セカンドハウスとして建て替えたい。そんな要望を受けて建築家の北園徹さんがつくった住居は、伝統的な日本家屋でありながらエキゾチックで前衛的。遠い過去と現在が、不思議なバランスで邂逅する空間だ。

家とともに人生を歩む。 日ごとに愛着が増す、ゆとりある家
小山田剛さんが自宅兼事務所として建てたのは、温もりあるシンプルな家。建築家としてだけでなく、夫、そして父親としての目線からも考えられた住まいは、大らかに家族を包み込んでいる。小山田さんが家の中に散りばめた「小さな豊かさ」をひも解くと、家と暮らしにおいて本当に必要なことは何かが見えてくる。









