
神は細部に宿る──。施主の“美意識”を
チーム一丸となって形にした崖の上のヴィラ。
Atelier Tete (アトリエ テテ) 一級建築士事務所
コンペ形式ではじまったプランニング
ディスカッションを繰り返し方向性を模索
「施主のFさまから最初にお電話でご依頼をいただいた時には、土地の資料が送られてきて、崖地なので使える面積が少なく平たい土地も少ないので30坪ぐらいの平屋で、凝ったものではなく白い四角い箱でいいというお話でした。また、ディスカッションしながら進めたいので、完成されたプランではなくラフプランの段階で提出してほしいとも言われていました」と、一級建築士事務所 Atelier Teteの山本さん。
施主は県外に住まわれていたため、打ち合わせは主にZoomでのやり取りだった。初回の打ち合わせからディスカッションを重ね、さまざまなアイデアを提案。そうしたキャッチボールを繰り返すなかで、施主が頭の中に思い描くイメージを丁寧に掬い取り、初回のプランを提出。そのプランは現在の完成した建物より2回りほど小さな規模だったという。
「ラフプランでいいというお話でしたので、本当に手書きをちょっと図面化したぐらいのものを提出しました。そのプランをベースにまたディスカッションをするのですが、2回目、3回目と打ち合わせが進むうちに、当然ですがどんどん要望が出てくるんですよ。友人みんなで楽しめる建物にしたいとか、プールやジャグジーもいいよねとか。そしてだんだんと方向性が固まってきて、3回目に提出したプランで、現在のような形に落ち着きました」と、打ち合わせ当時を振り返る。
5社によるコンペ形式だったが、3回目のプランを提出したタイミングのあたりで「じゃあ、もう契約しましょう」という話になったそうだ。しかも突然に。
「弊社が選ばれた理由ははっきり分からないのですが、雑談するなかで『スピード感があり、レスポンスが早かった』というようなことは言われました。なにせ3回目のプラン提出まで1ヶ月程度のスパンでしたから。他社さまは最初から“ザ・プレゼン資料”みたいな完成されたプランを出されたようですが、先程の通り弊社はラフに近いプランでした。ただ、打ち合わせの度に出てくる施主さまのアイデアを細かく反映していましたので、それも決め手になったのかな。何より『一緒につくっていこう』というフィーリングが合ったのかも知れません」と、お二人は話す。
建物の大枠の方向性は決まった。しかし、ここからがさらにお二人の頭を悩ませることになる──。
話し合いを重ねるなかで浮かび上がった
施主が希望する3つの要件を実現するには?
①友人たちとみんなで一緒に楽しめる空間にしたい。
②室内外の仕上げは角をなくして有機的な空間にしたい。
③崖地で海が見えるロケーションを活かした建物にしたい。
ということ。
ひとつ目の要望を実現するため、広いLDKを玄関から入ってすぐの建物の中心に据え、キッチンをその一角にレイアウト。料理をしている人も孤立することなく、みんなで楽しみを共有できる造りとなっている。一方で、ゲストが気兼ねなく過ごせるよう、それぞれの個室はLDKを挟んで反対に配置し、個室の扉を開け放していてもホストとゲストがお互いに気を遣うことなく過ごせる距離感を確保。個室の引き戸をすべて開けると、フロア全体がワンルームにもなる。
ふたつ目の「室内外の仕上げは角をなくして有機的な空間にしたい」という要望はかなり難題だった。
「施主さまは『ありとあらゆるコーナになるべくアールをつけてほしい』とのご希望でしたので、できる限り丸くしました。ただ、建物の角にアールを付けるにしても、型枠の段階でやるのか、左官の仕上げでやるのかとか、施工会社さんと型枠屋さん、左官屋さんを交えすごく話し合いました」と話す。
アールを反映したパースも一応つくったが、やはり分かりづらく、丸みの説明ができない。結局現場に足を運び、1箇所1箇所その場で全員で話し合いながら進めるしかなかったという。建物は大きく、工期が夏だったのでコンクリートが固まるのも早い。それゆえ総勢15名もの左官職人が作業にかけつけた。
「デザインに強い左官屋さんとつながってたので、施工をお願いしたらすごく楽しんでやってくれました。『こんな依頼やったことないから、やりがいある』って。それで、みんなでいろんな角度から見て、ここにトップが来るのが一番きれいだよねみたいな感じで進めました」。
3つ目の要望には、崖地だったこともあり、ドローンを使ってLDKから一番きれいに海が見える高さのシミュレーションを行った。各部屋からもテラスに出られて、海が見えるように部屋を配置。また、海に向かってプールとテラスが張り出すような造りにすることで、崖下の集落が視界に入ることなくプール越しに海が眺められるようにした。リビングの開口部は幅約8.0m、高さは約2.9m。窓を開け放てば、段差のない部屋とテラスがつながった気持ちのいい大空間が生まれている。
『The VILLA Okinawa』に携われたことは
大きな喜びであり、得がたい経験になった
部屋の端から端まで通貫した3本の梁はヒノキの丸太。壁に埋め込んだ部分を含めると長さは8m以上。そんな丸太は材木市場に出回らない。建材に使用するヒノキは長くても6mまで。それ以上のものは競りにもなかなか出てくることはないという。いろんなところに問い合わせるも空振りが続いたという。しかし探しはじめてしばらく経った頃、ある材木屋さんから「宮崎で8m以上のヒノキが4本出た」と連絡があった。
「材木屋さんも、『タイミングよく競りにこんな丸太が出てくることはなかなかない」と驚いていましたから、もう奇跡ですよ。山から切ればありますが、それを切っても1年以上乾燥させないと使い物になりません。ですので、すぐさま現地へ赴き手に入れました。失敗が許されませんから、製材の場にも立ち会いましたね」と、山本さんは話す。
LDK開口部のサッシや網戸も特注品だ。サッシは高さが約2.9mもあり、一般住宅に採用されるのはここ「The VILLA Okinawa」がはじめてだったという。また網戸も当時はそんなに大きなものは国内になく、全国の業者に問い合わせても「無理」という返事しかもらえなかった。
「それでもいろいろ調べていたところ、オーストラリアで特注でつくっている会社を探し当てました。しかも、たまたま日本に代理店ができたタイミングだったんです。こちらもすぐに問い合わせ、3ヶ月間ほどかけてオーストラリアで制作し、日本へ送ってもらいました」。
ほかにも、深いところで水深2mあるガラス張りのプールや、エゾジカの角を何本も使ったハンドメイドのシャンデリア、1階に設けられたドライサウナなど、一般的な住宅建築においてはおよそ規格外なものばかり。
「施主さまは世界中でビジネスを展開している方。海外各地で得たインスピレーションを持ち帰ってきては『こんなことができないか』と、たびたび相談されました。なにぶん過去に事例がなく、経験したことがなかったものが多かったので正直大変でした。できないと断ることは簡単です。ただ、施主さまから『こういうことはできますか、やってもらえますか』って聞いてもらえることが、設計を依頼してもらえる醍醐味だと思っています。建売りではなくマンションでもなく、設計事務所にお願いするっていうことは、やはりこだわりを形にしたいという思いがあってこそ。その強い思いをどう実現するか。とても大変なんですけど、それ以上に楽しみでもあります」と、お二人は語る。
Atelier Teteのお二人は口を揃える。「もう一度同じものをつくれと言われても無理かも知れません。同じ材料を揃えるのも多分不可能ですしね。施工会社さんも職人さんたちも、資材業者さんも、みなさんの理解と協力があったからこそ、この『The VILLA Okinawa 』は完成したのだと思います。チーム一丸となって、ある意味こういった普通じゃない、固定概念にとらわれないおおらかで自由な建築物に携われたことは、私たちにとって何物にも代えがたい喜びであり、得がたい経験になりました」と。
基本データ
| 作品名 | The VILLA Okinawa |
|---|---|
| 所在地 | 沖縄県 |
| 敷地面積 | 624.56㎡ |
| 延床面積 | 408.99㎡ |
設計者情報
この実例を見た人はこちらも読んでいます

閉ざしているようで、閉ざしていない 壁に囲まれていながら光と風を感じる家
佐賀県佐賀市の住宅街に、白い瀟洒な邸宅が誕生した。その外観には窓がなく、まるで洗練された店舗のようだ。最大の特徴は、壁で家が囲まれ外からの視線が気にならないのに、光や風が入り、外の気配を感じられることだ。この住宅に込められた工夫の数々をご紹介しよう。

天窓から光がそそぐ、三角屋根の豊かな空間。 家時間が楽しい「屋根裏リビングの家」
家を建てるときに避けて通れない建築規制。この規制を見事にメリットに変換したのが、『屋根裏リビングの家』だ。イノウエヨシムラシタジオ(IYs.inc)の井上亮さんと吉村明さんのセンスと工夫が光る、楽しさいっぱいの住まいの魅力を探ってみた。

建築家が一度は止めた崖の上の土地に ここでしかできない、豊かな3層の家が
土地が二転三転しても、施主は建築家・岩瀬英志さんのもとを離れなかった。長い時間の末に見つかったのは、細い路地の突き当たりにある傾斜地。だが岩瀬さんは、この土地を勧めなかったという。それでも施主は、ここに決めた。道路より低い敷地、打てない杭、高低差が生む法規の制約。ひとつひとつを解いていった先にできあがったのは、外観からは想像もつかない、3層の住まいだった。

これぞ、リノベーションの醍醐味。逗子・葉山を見渡すヴィンテージモダンな家
desus(デサス)建築設計事務所が設計した『TIME』は、築45年の日本家屋をフルリノベーションした住宅だ。贅沢な眺めを生かした開放的な設計と、新築では難しい「リノベーションだからできる空間デザイン」の魅力を解き明かす。

東京・軽井沢の2拠点生活を満喫。緑に包まれたアウトドアリビングのある別荘
軽井沢に別荘を建て、東京との2拠点生活を計画していたAさま一家。設計を担当した奥野公章さんは、環境を読み解き快適な住まいをプランニング。高原リゾートの非日常感と、テレワークをしながらの日常生活、2つのライフスタイルを包み込む家が完成した。

遠くに見える山並みとも調和した おおらかな大屋根の3世帯住宅
高知と徳島の県境にまたがる高知県の最高峰・三嶺。標高1894mのその頂へと連なった峰々を仰ぎ見る山間の集落の一角に「大栃の家」は立つ。地域の環境とも馴染むように佇むこの家の設計を手掛けたのは、水野淳一建築設計事務所の水野良太さんだ。

高さ約4mのガラス張りで圧倒的な開放感 上質な素材使いが魅力のコートハウス
desus(デサス)建築設計事務所が設計した『CH6』は、逗子海岸近くの住宅街に立つモダンな一軒家。中庭と一体化するLDK、ジャグジー付きルーフバルコニーなどのリゾート空間から、チーク・天然石といった上質素材の使い方まで見どころが満載だ。

見せる家!借景もアートもセンスよく調和される空間づくりとは?
更地の状態が長年続いていたWさんの所有地は、ひな壇の斜面地にあり、草木のうっそうと生い茂る公園に隣接するという立地条件。この環境のメリットを最大限に活かした新居を建てるべく、建築家の市川均さんに設計を依頼することに。結果、「明るく、風通しがよく、開放的で、眺望のよい」住まいが完成しました。

隣地の建物の影響をなくし、抜群の景色を 逆インフィニティプールが叶えた沖縄の別荘
海を望む敷地に浮かび上がった、海側隣地の建設計画という難題。壁で視界を守れば、非日常感は損なわれてしまう。Sデザインファームの鹿内健さんが導き出したのは、壁を伝って海の水がプールへ流れ込む「逆インフィニティプール」という発想だった。実現の裏には、レベル差わずか1ミリにもこだわった手仕事があったという。困難な条件を武器に替え、ここにしかない非日常空間となった沖縄・瀬底島の一棟に迫る。
