
家族に寄り添う動線と空間設計
頑丈で機能的、そして美しい二世帯住宅
この土地に長く暮らしてきたからこその願い
災害への不安に応える住まいづくり
家づくりに真剣に向き合っていたお施主さまは、設計のためのヒアリングが始まった時点で、具体的な希望から暮らしのイメージまでをまとめた要望書を用意していたという。その内容を読み解いた塩澤さんは、祖父母・親・子の三世代すべてに寄り添う住まいをつくりたいと考えた。完成したのはボックスを組み合わせたようなフォルムが美しい2階建ての家だ。
数ある要望の中から、まずは災害対策に取り組んだという塩澤さん。この地域は水害のリスクがあり、以前の住まいは被害を受けたことがないものの、周辺では冠水の危険性が高い場所もある。長くこの地に住む親世帯の思いを受け、災害への備えは最優先事項となった。
その対策は徹底している。液状化の可能性を踏まえて地盤改良を実施。地盤を1mかさ上げし、基礎を70cm高くすることで、道路から合計1.7mの位置に建物を計画した。「地盤を上げる」「基礎を高くする」という二段階の対策により、浸水リスクを大幅に低減した。また、1階が浸水した場合に備え、2階には災害用品を収納するロフトを設け、救助が受けられるよう2階のバルコニーからの動線も確保している。
要望のひとつに「ストレスなく暮らせる住まい」を挙げたというお施主さまだが、ここでいう“ストレス”には、日常の使い勝手だけでなく、災害への不安も含まれていたのだろう。耐震等級3を取得した堅牢な構造と合わせ、安心して暮らせる住まいが実現したことは、何より心強いに違いない。
家族が集まるLDK
暮らしを支える、複数の回遊動線
塩澤さんは、家族が自然と集まる暮らし方を大切にしたいと考え、1階のLDKに皆が集まるイメージで間取りを整えたという。ただ、親世帯と子世帯では生活時間帯が異なることもあり、配慮すべき点があった。
そこで取り入れたのが回遊動線。一般的には室内の一部、もしくは建物の大枠を行き止まりなく移動できるスタイルを指すが、このUの家は違う。なんと長短さまざまな回遊動線が細かに設けられているのだ。例えば1階では、玄関からLDKへ進むルートが2つある。「靴庫を抜けてキッチン脇に出るルート」と、「玄関ホールを通り、親世帯の寝室前を抜けてキッチン脇に出るルート」だ。キッチンを軸に据えることで、キッチンとパントリーの間を通る小さな回遊ルートと、リビングダイニングまで広がる大きな回遊ルートが生まれ、シーンに応じて使い分けられるのがありがたい。
靴庫を通れば玄関からパントリーまで最短距離で進めるため、食材をすぐに収納でき、日々の家事がぐっと効率的になる。また、靴庫ルート上には、2階へ上がる階段を配置。親世帯の寝室前を通らずに移動できるため、子世帯が気兼ねなく出入りできる。
さらに、水回りにも回遊動線がある。洗面・脱衣所・ランドリー・ファミリークローゼットをつなげ、身支度と洗濯家事の効率を同時に向上させた。「単純にまとめるだけでなく、流れに沿って動けるように工夫しました」と塩澤さん。外部の物干し場とファミリークローゼットの動線上にアイロンがけスペースを設けるなど、とにかく使いやすい。
2階でも、トイレと洗面を中心に主寝室やサブリビング、子ども室をつなぐ回遊動線を計画。複数の経路を確保することで、家族の動きが自然に分散するよう工夫されている。つながる場所とプライベートな空間のバランスが絶妙で、将来お子さまが成長した際にも、よい距離感を保ちながら過ごすことができるだろう。
長く暮らすためのバリアフリー計画
機能性と優美さを兼ね備えた住まい
これは、塩澤さんの「ひとつ屋根の下に親と子世代が暮らす家だからこそ、だれもが居場所を見つけやすいよう、空間に柔軟性を持たせ、できるだけ角を減らし、住まい全体が自然につながるよう計画しました」というこだわりの賜物だ。加えて、デッドスペースも活用して収納を増やすなど、細かな部分まで意識が行き届いている。
大型の収納のひとつが、キッチン背面に設けられたパントリーだ。以前紹介した塩澤さんの自邸のキッチン収納をお施主さまが気に入り、取り入れられたという。電化製品から家庭菜園で収穫した野菜まで一手に収納できる大容量のパントリー。余計なものをLDKに出さないことで、室内をより美しく、広く感じさせてくれる。
お施主さまの将来を見据えた要望から、住まいはバリアフリーで計画した。道路から1.7m高い位置にある住まいへ、車いすを使用する場面を想定し、無理なく上がれるよう緩やかな勾配のスロープを設けている。
また、室内は玄関脇のロッカールームを除き、すべて引き戸とし、床はフルフラットで計画した。親世帯の寝室には2枚引き込み戸を採用し、車いすでも出入りがしやすい開口幅を確保している。さらに寝室の正面にはトイレを配置し、移動負担を軽減できるよう配慮。面する廊下幅にゆとりを持たせることで、車いすでの方向転換をしやすくするとともに、将来的には介護スペースとしても活用できるようにした。これらの工夫は将来の備えであるだけでなく、現在の暮らしにおいても快適性を高めている。
細やかな動線とバリアフリーの設え、そして豊富な収納が揃ったUの家は、まさに機能性に優れた住まいといえるだろう。塩澤さんの設計力が感じられるのは、それらが優美なインテリアにまとめられている点だ。お施主さまのご意向で選択した明るい色合いの床を基調に、ハイセンスな照明やアクセントとなる壁面を取り入れ、室内は落ち着きがありつつ華やかさも備えている。
安心して暮らせるのはもちろん、家族が集い、くつろげる住まい。一人ひとりに寄り添うその暮らしを、お施主さまの想像を超える表現力と設計力で形にしたのが、このUの家である。
撮影:studio-dot 大須賀
基本データ
| 作品名 | Uの家 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県名古屋市 |
| 敷地面積 | 435.58㎡ |
| 延床面積 | 253.79㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人+両親 |
| 予算 | 8000万円台 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

海外でも注目される建築美。 内と外がシームレスにつながるのびやかな家
ぽっかりと屋根に穴が開いたモダンでユニークなデザインが印象的なY邸。設計を担当したのは、若手建築家の川本達也さん。独創的なアイデアで屋外の開放感を生活空間に取り込んだY邸は、川本さんの建築の魅力がわかる好例だ。

木→コンクリ→ガルバリウム→サイディング 異なる素材を生かしたデザインで個性を演出
区画整理された分譲地だと、敷地形状が同じになるため、隣家の建物との違いを出しにくくなる。その中で建築家の塚本さんが設計したI様邸は、塀や外壁にあえて何種類もの異なる素材を使うことで個性を演出しつつ、奥行きにリズムをもたせる空間表現も考え抜かれた家。室内にも随所に、多彩な工夫が凝らされている。

日常の風景だった竹林が特別な景色に。 程よく遮り、程よく繋がる快適空間の秘密
ご一家で暮らす家をつくるための建て替えを依頼された、建築家の伊原洋光さんとみどりさん。敷地を見に行くと、元の家の背面に美しい竹林があることを発見した。視線や風が抜ける広々とした室内空間に、唯一無二の竹林の景色がプラスされ、機能性と心地よさがハイレベルで両立する家ができた。

公園の借景が育む明るい生活 ほどよい距離感を実現した二世帯住宅
親子3代が明るく快適に過ごせる二世帯住宅を建てたいと思っていた施主のWさんご家族。 Wさんが設計を依頼したのは、自然と調和し、気持ちの良い暮らしを実現することに定評のある、m+h(エムアンドエイチ)建築設計スタジオの林さん。公園前という絶好の立地を上手に活かし、光と風、緑の借景をふんだんに取り込み、家族の気持ちも明るくなるような住まいを実現した林さんの家づくりに迫る。

構造ではなく、素材として魅せる コンクリート壁の可能性
クールでスタイリッシュなコンクリート打放しに憧れる人は多いのではないでしょうか。しかし一般的な木造建築に比べるとRC造(鉄筋コンクリート造)は坪単価が高く、コスト面から諦めてしまうことがあるのも事実。住記屋の鈴木貴晴さんが手掛けた「朝日の家Ⅱ」は、ある方法でその憧れを実現。さて、その方法とは。

土間縁側で内と外がゆるやかに繋がる 夫婦の時間も家族の集まりも心地よい家
昭和初期に建てられた農家建築を取り壊し、夫婦2人の住まいを建てることを計画したMさん。依頼を受けたアトリエウィの宇佐美さんが提案したのは、以前の家の面影が感じられるフォルムを持ち、昔の暮らしぶりを、現代にマッチした形で再現できるような、土間縁側をもつ家だった。

快適コンパクトな2拠点向け規格住宅が誕生 気負わず楽しむ憧れのデュアルライフ
都会と郊外を行き来する2拠点生活の人気が高まるにつれ、気負わずに建てられるセカンドハウスへのニーズも増えている。そんなニーズに応えるために建築家の李孝哲さんが自ら土地を購入、2拠点生活実験ハウスとネーミングをつけ、神奈川県青野原に建てた快適・コンパクトな規格住宅をご紹介。

未来を見据えた、可変性のある住まい。 都市の中で、光と白に満たされる住まい。
「Shinpoの家」は建築家・塩澤さんが自邸として設計した二世帯住宅。塩澤さん一家と義父、それぞれの暮らしに寄り添い、使い勝手を第一に考えて設計された。それだけではない。将来、暮らし方にどんな変化があっても柔軟に対応できるよう、多彩な工夫を随所に取り入れた住まいである。

広々とゆとりあるLDKを実現した、天井とルーフテラスの工夫とは?
視線を遮りながら明るく開放的で、テラスも備えた天井の高いLDKがほしい――。細長い旗竿地で、道路斜線による高さ制限もあるなか、建築家の川本達也さんは施主の想いを叶えた理想のLDKを作り上げました。軒梁を格子状にした天井、内から外へ連続するテラスなど、完成したLDKに隠された多彩な工夫に注目です。
