
構造ではなく、素材として魅せる
コンクリート壁の可能性
コストと施主の希望を両立
アイデアをひねりプランニング
「実は、コンクリートの壁は構造材ではありません。あくまでも素材として使っています」。そう話すのは、「朝日の家Ⅱ」を設計した設計士の鈴木さん。よく見てみると、玄関ホールとリビングを分けるコンクリート壁の上部には隙間があり、天井を支えていないことが分かる。聞けば「構造としては純木造です」と。一体どういうことなんだろう。
「平屋建てでオールRC造の家にしたいというのが、お施主さんの当初のご希望でした。ただ、構造的にすべてコンクリートの家をつくるとなると、予算的にかなりオーバーしてしまいます。しかも坪単価が高くなる平屋ですから尚更です。また、奥さまが居住性などの面から、コンクリートの家に不安を感じていたこともクリアする必要がありました」と鈴木さん。限られた予算内で施主と奥さまの希望をどうやって実現するか。さんざん頭を悩ませたうえで鈴木さんが出した答、それが「構造ではなく素材としてコンクリートを使う」という選択だった。
「目に見える部分にコンクリートの壁が存在してれば、おそらく打放しらしさを感じてもらえると思いました。そこでポイントを絞って、例えばソファーに座ったときにどう見えるか、食卓から見える範囲でどう映るかなどを考えました。室内だけでなく室内から見える外部の塀にもRCの壁を使い、視覚的に壁の存在を多く感じられるように工夫しました」と鈴木さん。加えて、奥さまの不安を解消するためにも、木造の建築のなかに素材として適度のRC壁を配することで、RC造のハードな印象を薄めることにも配慮したという。
いつもは複数をプランを施主に提案して、その中からヒアリングを重ねつつ選んでいくのが鈴木さんのやり方だ。しかし今回は1回目の提案で施主が気に入ったため、ほぼ初期プランで話が進んでいったという。「コストを下げつつ、お施主さんのご希望をどう実現するか。いわば苦肉の策というか、今回はこれしかないという感じだったので、正直ほっとしましたところはあります」と鈴木さんは話す。
コンクリート壁を効果的に見せ、全体としては木造建築とすることは予算以外にもメリットがあった。「木造部分には当然ですが断熱材を入れますので断熱性能に優れます。また、RCでは結露がよく問題になりますが、木造ではそれもありません」。言ってみれば木造とRC造のいいとこ取り。
「構造ではなく、素材として魅せるコンクリート壁」という方法論は、少なくとも「朝日の家Ⅱ」において最適解であったのではないだろうか。
施主と二人三脚で家づくり
施主の数だけ「いい家」がある
「とりあえず大きい窓を付けときゃいいや、じゃなくて、その窓の先に見えるのか、何に対してその窓は付いているのか。やっぱり同時に考えなきゃ、中と外を。そういう意味で等価なんですよ。せっかくの戸建なのですから、小さくても庭はつくりたいですし、木も植えたいじゃないですか」。
「朝日の家Ⅱ」でも、その考え方はもちろん健在だ。家が密集した住宅地のため、立地的に周辺の眺望は期待できない。しかし庭は確保したい。幸い敷地に広さがあったため、鈴木さんは「内部完結型の中庭のあるプラン」を提案。「中庭を設けることでプライバシーを確保しつつ、開放的な生活ができることを意識してプランニングしました」と鈴木さん。
中庭を囲むようにリビングとサンルーム、各個室を配置。中庭が開けた東側にはコンクリート壁を置き、外からの視線を巧みにシャットアウト。リビングのカーテンを開けっぱなしでもプライバシーを確保でき、いつでも窓の外を眺めながら生活ができるのが魅力だ。敷地の北側と南側にも雰囲気の異なる庭を設け、毎日の暮らしに変化と彩りを添えている。
また、「道路から駐車場、前庭、LDK、中庭、個室(寝室/子ども部屋)、南庭へと、各空間がレイヤーの様に重なりつつ、徐々にプライバシーが上がっていくような構成としました」と話す。
「結局は、お施主さんのためにという思いはありつつも、やっぱり自分の気持ちいい空間をまずは提案したいんですよ」と鈴木さん。土地を見て、自分ならこう暮らしたい、こんな家だったら気持ちいいだろうなと想像を働かせるが常だ。
「ただし」と、鈴木さんは付け加える。「僕の気持ちをお施主さんに押しつけるわけではありません。それをやっちゃうと、結局は独りよがりな建築になってしまいます。お施主さんと二人三脚で、一緒にいい家をつくりたいんですよ」。
今回はほぼ1回目のプランだけで進んだが、いつもは初期段階で5~6案を出すのが当たり前。また、施主との打ち合わせ期間は1年以上になることはザラで、長いときは3年もの期間を掛けることもあるという。なぜか。
「家って、1回建てたらそれで決まってしまいます。ですから、プランも複数提案して、何度もヒアリングを重ねて、お施主さんとすり合わせてイメージを共有することが不可欠です。そのためにはやっぱりある程度の期間は必要だと思っています。家を建てたなら長く使って欲しいですし、『いい家だね』って思われたい。でも、いい家かどうかを決めるのは僕じゃなくて、実際にその家に暮らし、日々の生活を送っている方なんです」と鈴木さん。
ただ、鈴木さんは「いい家」の正解はひとつではないとも。
「お施主さんと一緒にベストな家を考えていくわけですけど、施主それぞれによって答が違います。家は不特定多数の人が使うものではありません。ですから、そこに暮らす施主の数だけ正解があって、結局お施主さんがOKならそれが『いい家』なんだと思います」。
「朝日の家Ⅱ」の竣工後、施主からは「自分たちの思いを想像以上の形に設計、建設していただきました。設計だけでなく、庭や家具の相談などにも乗ってもらい最後まで丁寧、親切な対応をしてもらうことができ感謝しています」との言葉をいただいたという。
限りある予算のなかで希望を最大限に叶えたこの家が、施主にとっての正解であり、「いい家」であることだけは、おそらく間違いないだろう。
基本データ
| 作品名 | 朝日の家Ⅱ |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県豊田市 |
| 敷地面積 | 350㎡ |
| 延床面積 | 115㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | A邸 |
撮影:渡辺シンヤ写真事務所
設計者情報
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