
のびやかな空間で豊かに暮らす。
季節を感じ、夫婦がくつろげる住まい

齋藤 文子
さいとう ふみこ
3110ARCHITECTS一級建築士事務所
東京都 板橋区
私たち3110ARCHITECTSは、翻訳家であり、デザイナーであり、指揮者であり、技術者の集団であることを自覚し、クライアントの夢や希望に向きあいます。そして建築物はクライアントの財産であるとともに、風景の一部だと考えます。上質な建築を創り街並みに美しさを添えることが、私たち3110ARCHITECTSの役割であり、社会貢献につながると信じています。
2階建て+ロフト+3つのテラス。
2人暮らしにちょうどいい、ゆとりの空間
住んでいたのは、約20坪の敷地に立つ3階建ての建売住宅。部屋数があっても2人の生活ではもてあますし、そもそも部屋数より空間の広がりを大事にしたい。いちいち階段を使うのも、年齢とともにおっくうになりそう……。
こうしたお悩みを解決すべく建て替えを決意したご夫妻は、3110ARCHITECTS一級建築士事務所の齋藤文子さんに設計を依頼。話を聞き、齋藤さんが提案したのは「ロフト付きの2階建て」。LDKは2階、寝室や水まわりは1階に配するプランだった。
よくあるプランのように思えるが、完成した住まいには、齋藤さんが得意とする「豊かな空間づくり」の魅力が随所にちりばめられている。
まず、2階をロフト付きにした理由を齋藤さんに聞いてみた。
「ロフトをつくると吹抜けができて、天井が高くなりますよね。このお宅のように20坪ほどの敷地の場合、ある程度天井を高くしたほうがおおらかな印象になります。また、南には光を遮ってしまう隣家があるのですが、天井が高ければハイサイド窓で高い位置から採光でき、十分な明るさを得られます」
ロフトは構造強化のためにL字型になっているが、齋藤さんはL字の一辺を収納に、一辺はカウンターを設けることでちょっと楽しい「居場所」にした。このカウンターは正面に屋外を望むハイサイド窓があり、視線を落とせばLDKを見下ろせる。どことなく秘密基地のようでもあり、大人でもワクワクする空間だ。
次に気になるのが、1階の南に1つ、2階の南と東に1つずつ、計3カ所に設けられたテラスだ。なぜ、テラスを小分けにしてつくったのだろうか?
「テラスを設けた南と東は隣家のある方角です。容積率いっぱいに住空間をつくるより、テラスで少し余白を設けるほうが、『お隣さんと離れている』という心のゆとりをもてます。同時に四季の移ろいを感じる光や風、視線の抜けといった心地よさも生み出します」と齋藤さん。
それだけでなく、洗濯物を干す、植物を置いて庭として楽しむなど、テラスごとに用途を使い分けることもできる。齋藤さんは「観葉植物の上に洗濯を干す」といった事態を避けられるよう生活の現実を十分にイメージし、心地よく暮らせることを何よりも大切にしているのだ。
楽しみから実用性まで、
豊かに暮らすアイデアが盛りだくさん
内装は白と木目を基調にしたナチュラルな仕上げ。2階は南のハイサイド窓の下にリビング、隣家のない西の窓まわりにはダイニングや造作カウンターを設け、気分に合わせて好きな居場所でくつろげるようにした。また、南のテラスに面したスペースは天井とテラスの屋根の軒裏を同じ高さにし、かつ、同じ木材で仕上げて「外とのつながり」を演出。空間をよりのびやかに感じられる。
1階の寝室は、「寝るだけのコンパクトな部屋ですが、自分の家らしさがあるとうれしいと思うので」と、天井の構造材の一部を見せてアクセントに。出入口の引き戸や壁の一部は黄色みのあるペパーミントグリーンで塗装し、表情のある空間に仕上げている。
心がほわっと温まる、小さな仕掛けもある。玄関を入ると、正面にコンパクトなディスプレー棚。階段の手すり壁にはかわいい小窓があり、いずれもお気に入りのアイテムを飾るのにぴったりだ。さらに、「垂れ下がる植物を置けるように」と、2階のロフトの手すりにも小窓を設置。ハンギンググリーンのような「垂れるグリーン」を気軽に楽しめるアイデアは、齋藤さんらしい遊び心といえるだろう。
造作収納など実用的なものの設計も丁寧だ。齋藤さんはいつも、施主さまの持ち物を大まかに確認し、どこに何をしまうか動線などもイメージしながら収納を計画する。この家では1階の寝室近くに造作棚をたっぷり設けた納戸をつくり、敷地の形状的にできてしまった三角形のスペースは、ハンガーパイプを付けて衣類用のクローゼットに活用。「三角形は収納ケースが収まりにくいから柔らかいものを」との説明には、主婦業もこなす女性建築家が建てる家の魅力を垣間見た気がした。
竣工後、「家でごはんを食べることが多くなった」という施主さまに招待された際は、ご主人が料理をふるまってくださったという。「以前はご主人がキッチンに立つのを拝見したことがなかったので驚きました」と笑顔で話す齋藤さんは、とてもうれしそうに見える。「心が豊かになる上質な住まいを提供したい」と、常に全力で施主さまと向き合う齋藤さんにとって、住む人のそんな変化は最上の喜びなのかもしれない。
基本データ
| 所在地 | 埼玉県富士見市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 67.5㎡ |
| 延床面積 | 66.17㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 施主 | O邸 |
撮影:新澤一平
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

豊かな緑、心地よい木漏れ日。公園のような環境で働く快適オフィス
ここはオリジナリティあふれるプロデュース力に定評がある、不動産会社のオフィス。建築家の奥野公章さんは建物の中に樹木を地植えし、快適に仕事ができ、不動産会社としての提案力も訴求する空間を実現。公園のような環境を可能にした建築の秘策とは?

夢じゃない? 手が届くラグジュアリーの見本は使い心地も抜
30代の医師夫婦が求めたのは、忙しい日々をリセットできる癒しの住まい。高い塀を配したコートハウス風の邸宅には、ラグジュアリーとリラックスが調和する豊かな時間が流れています。でももちろん、使い勝手は最高。手が届く、いや、手に入れたいラグジュアリーの見本になりそうです。

くの字型で実家の庭や畑を懐に抱く 温かみとモダンさを兼ねた田園の平屋
地方都市では、「注文住宅は住宅メーカーや工務店に依頼するもの」という意識が、都会よりも強い傾向にある。予算やデザインの問題で、思い描いていた家づくりができず、妥協したり諦めたといったケースもあることだろう。施主のYさんもそんな1人。そんな中、Yさんが家づくりを相談したのは、北陸を中心に活動する建築家、ハレ建築デザインの下野さんご夫妻。この相談が、自分達の思いをカタチに変えてくれる結果となった。

窓に大自然、室内にアート!別荘こそ愛着のあるものに囲まれたい
鹿児島・霧島連峰を背に立つ十字形の家。フラワーショップを営むオーナーさまが別荘として使う、この家には大好きなアーティストの作品がふんだんに使われています。「アーティストの作品を活かして是非やってみたいことがある」。別荘づくりは、そんなオーナーさまから建築家の渡辺仁さんへの話から始まりました。

敷地に対し斜めの動線で眺望を確保 大胆な発想で実現した美しく暮らしやすい家
新築する自宅では、夜景を楽しみたいと考えられていたお施主さま。候補となる土地が見つかったものの、当時残っていた家ではとても景色がいいとは思えなかった。同行した建築家の石さんにとっては、この場所こそベストだったという。敷地の形にとらわれず、斜めに向かって大開口したことで思い通りの暮らしを叶えた。

内と外が緩やかにつながった、「空間グラデーション」の妙
施主であるHさんが自邸を建てるために選んだ土地は、住宅街のなかにある角地でした。南北に細長い敷地の南と東に面した道路は、それぞれ幅員4mほど。建築家の植村康平さんは敷地を何度も訪れ、Hさんファミリーが暮らす理想的な住空間をイメージしながらプランニングしたといいます。そうして誕生したのが、道路と庭、室内がゆるやかなグラデーションでつながった「カドニワの家」でした。

開放感も距離感もかなえた斬新な設計 次世代のニーズも満たす、しなやかな二世帯
洗練された商業建築を思わせるこちらの建物は、大阪市内にあるお寺の住職さんの二世帯住宅。高度なスキルを駆使した斬新な設計で、「二世帯の適度な距離感」「間取りの可変性」など多くのメリットを生み出した。その驚きのプランニングとは?

まさか室内に水面!?震災に学んだ、住まいと自然の付き合い方
家の中にプール……ではなく、美しい水をたたえた“水盤”がある。一瞬度肝を抜かれるこの家は、建築家が自邸として建てたもの。さすがは斬新!と思いがちだが、決して奇をてらったわけではない。建築家が水盤を設けたのには、本人なりの強い想い入れがあったからだ。

施主に寄り添いじっくりと下ごしらえ 自然と人に生かされて暮らす、大人の住まい
長く都会に住み続けてきた施主が、自分らしく晩年を過ごす家を求め3年の歳月を過ごした中、出会ったのが市中山居の増木奈央子さん。施主とじっくりと寄り添い資金計画や土地探しという「下ごしらえ」から、対話を重ね出来上がった家は、施主が「不満に感じる点が1つもない」と言い切るほどの、大人の住まいでした。






