
プライベート空間でも、もてなしの場でも
濃密な自然を五感で楽しむリトリート施設
建物が点在する広大な敷地を活用。
陰と陽2つのエリアに合わせた癒しの場
世界自然遺産に登録されているこの豊かな地域に、自然と向き合うためのリトリート施設をつくりたいと望まれたお施主さま。購入されたのは、以前は陶芸やキャンドルづくりの体験施設として利用されていた4400㎡以上の面積を持つ広大な敷地だった。
敷地内に希望されていた棟は、主に3つある。まずはヨガやイベントを行う「MEDITATION PAVILION」。ゲスト用の宿泊棟「GUEST PAVILION」、それから母屋となる「RETREAT HOME」だ。
お施主さまは海外生活が長い方だ。この「屋久島・Creekside Retreat」実現にあたり、滞在時に住居スペースである「RETREAT HOME」で過ごすことはもちろん、屋久島での活動拠点にもなっている。
依頼を受けたのは株式会社seki.designの石憲明さん。まずは現地を視察し、要望と照らし合わせつつ「RETREAT HOME」は新築し、他は既存の建物をリノベーションにより再活用することを提案した。
もちろんそれは敷地の特性などを生かしたうえで、だ。実際に赴いてみて、敷地の東側はほぼ手つかずの自然が広がっており、静寂で厳かな雰囲気だと感じたという石さん。一方西側は、整備された環境で明るく活力があり、開放的だった。陰と陽、全く異なる印象の2つのエリアと目的をマッチさせ、屋久島の自然をより五感で楽しみ、その中に溶け込むことができる場所にしたいと考えた。
例えば「MEDITATION PAVILION」は、「陰」のエリアにある。リノベーションにより現しとなった梁の流れが美しい建物だ。木材がふんだんに使用されているうえ、鬱蒼とした木々に囲まれた緑豊かさも連続した壁面の開口から存分に感じられる。室内ながらまるで自然の中に入り込んだようにアクティビティが行えるのだ。
さらに、そこからは川や滝を眺めるのにちょうどよい「Creekside Deck」まで小径が伸びている。原生林の中に徐々に没入して行くような道行の体験も含めて、お施主さまが望まれていた自然との向き合い方ができる、最良の場が完成した。
手つかずの自然を眺めと音で楽しめる個室。
広いからこそ生活空間をまとめ暮らしやすく
「へ」の字の頂点でエリアを分け、西側に和室と洋室をひとつずつ、ゲストルームとして配置した。長い辺を持つ東側はパーソナルなスペース。ご要望から主寝室は浴室と隣り合わせに、かつ行き来ができるよう計画。寝室と浴室を一続きにつくるのは、海外ではよく見られるプランニングなのだとか。またこれらを「陰」のエリアが迫る東端に配置したことで、より自然を身近に感じリラックスできる環境を整えた。
「かなり広い平屋ですから、生活空間をまとめて暮らしやすくしました」と石さんが語る通り、日常においてランドリー以外は東側のみで生活できるようになっている。また、ゲストルーム側にもシャワーとトイレを設け、プライベートな空間を維持した。
そのうえで、バスルームは寝室からだけでなく、LDKからダイレクトにアクセスできる扉を設け、独立したバスルームとしても扱えるよう計画。さらに、主寝室やバスルームのすぐ脇に大型のウォークスルークローゼットを設けるなど、暮らしやすさを重視し動線をまとめた。
室内の設えにも、石さんの「屋久島ならではの表情を生かした場をつくりたい」という意図がよく表れている。岩盤でできた島であり、木々が生い茂る屋久島。高い天井をさらに折り上げた部分には、岩を模したモルタル仕上げと木材の塊を組み合わせ、ラグジュアリーでありながら自然の力強さを室内に盛り込んだ。
「コロナ禍でしたから、実はお施主さまにお会いできたのは着工の直前だったんです」と石さん。そのような状況の中でもわかりやすい、密な打ち合わせから、要望だけでなくお施主さまのお好みを的確に把握。キッチンとリビングを軽く仕切るアイアンとテーパー加工を施したガラスを所々に使ったパーテーションは、お施主さまのアイデアをもとに石さんがデザインした。
他にダイニングテーブルを照らす照明なども、全て石さんのデザインによる職人の造作だという。お施主さまは一点物のインテリアの数々を気に入り、とても大事に扱ってくださっているそうだ。
地域の特性を考慮してデザインに取り込み
自然に溶け込む建物を計画
年間降雨量が多く湿度も高いこの地では、外壁にコンクリートの打ち放しやサイディングなどを使用しても、素材が苔むしてしまいメンテナンスに手間がかかるのだという。石を積み上げたこの姿ならば、経年による苔の付着などは建物の趣を深めるものになるだろう。
川の上流からの土砂流入も考慮し、建物はRC造で計画。基準を上回る強度を確保した。しかしそれ以上に、どっしりとした雰囲気の家からは視覚的にも頑丈そうだという安心感が得られるのではないだろうか。
「陽」のエリア、駐車場に近い場所には「GUEST PAVILION」を計画した。「MEDITATION PAVILION」と同じようにこちらも梁と小屋組みの美しさを生かした内装にリノベーション。壁一面に開けられた窓の前にはゆったりしたカウンターも設けられている。リラックスしながら程よく集中できそうな室内は、語らいの場として、また仕事の場としても最高の居心地が得られる空間となった。3室並ぶ個室へ誘う廊下との仕切りは一枚の壁とせず、天然木のパネルをランダムに配置。原生林の表情を室内でも表現した。
お施主さまの望む暮らしが、またお客さまを最良の体験でもてなしたいという心が、的確な表現や演出によって叶えられた「屋久島・Creekside Retreat」。石さんによれば、島だけに搬入や素材の加工など苦労した部分も多かったというが、そこに妥協はない。その仕事は、アジア3大デザイン賞の一つに数えられる「K-DESIGN AWARD 2026」において、上位1.2%の作品に贈られるGOLD WINNERの受賞という形で、国際的にも評価された。建築家による仕事の意義をより強く感じた。
撮影者:Akiyoshi Fukuzawa
間取り図
基本データ
| 作品名 | 屋久島・Creekside Retreat (受賞:K-DESIGN AWARD 2026 GOLD WINNER) |
|---|---|
| 所在地 | 鹿児島県熊毛郡屋久島町 |
| 敷地面積 | 4479㎡ |
| 延床面積 | 207㎡ |
設計者情報
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