
余白空間が新たな豊かさをつくる。
暮らしも仕事も妥協しない、店舗兼住宅
周囲の環境が変わっても左右されない建物に
シンプルなフォルムの店舗兼住宅
いつしか仕事で疲れた体を運動によってリフレッシュする大切さを伝えたいという気持ちが高まり、コンディショニングジムを開設することを決意。地元に戻り、店舗兼自宅を建てることにしたのだそうだ。
設計依頼を受けたのは、松尾建築設計事務所の松尾繁さん。敷地を見学にいくと、H邸があるエリアはいわゆる区画整理地で、家など建物のひとつひとつはゆとりある敷地に建っており、またH邸予定地の周囲は建物が少ない状態だった。しかし、建物が正面に建つマンションの共用部と向かい合わせになることに加え、今後周囲に家が増えていく可能性も考慮し、周辺の環境に左右されない空間をつくることが大切と考えたという。
そうして完成した店舗兼住宅は、シンプルな長方形のフォルム。レッドシダーの外壁にすっぽりと覆われた、一目見て印象に残る建物だ。松尾さんの持ち味である親身かつ細やかなヒアリングを通して、先述のポイントをクリアしながらお施主さまのコンディショニングジムへの思いを反映したという。
疲れた体をリセットする巣箱のようなジム
コンセプトや思いを、建物そのもので表現
店舗名は「ネスト」。印象的な外観は「疲れた体をリセットし、リフレッシュした状態でまた羽ばたいていく」というコンセプトを具現化し、店舗名の意味である「巣箱」を表現したものだ。お客さま一人ひとりに寄り添うパーソナルジムであることから、あえて店舗の看板を立てない選択をしたHさま。建物そのものがその役割を担うことで、かえってメッセージがまっすぐ伝わるようになった。
もちろん内部もコンセプトを大切に設計。Hさまのお客さまに寄り添う姿勢を最大限に引き立てている。
お望みだった「施設というより、家のような場所に」という環境を実現すべく計画した、「ネスト」ならではの場所がある。ポーチ、テラスだ。外観より見える、小鳥が出入りするようなかわいらしいアールのデザインが入った入口からジム内のエントランスまでの間に、長く伸びるその場所がある。最奥には坪庭をつくり、その上で景色を魅力的に切り取るための窓を計画した。出入口や窓の円弧を描く開口が光の入り方にも表情を与え、非日常感あるリラックス空間ができたとのこと。トレーニングや施術の後に緑を眺めながら、ゆったりと寛げる場所があるのは嬉しい。また来店時にはこの場所を抜けることで、お客さまも忙しさなどから自分と向き合う時間への気持ちの切り替えができることも狙ったという。
外壁の仕切りや庭を楽しむ窓、スロープなど、アールを取り入れたデザインを豊富に用いたのは、Hさまの人を大切にするお人柄に寄せたからだ。それだけではない。まずお客さまからじっくりと話を伺う場所であるエントランス・ホールは、Hさまのキャラクターや思いを伝えることに重きを置き、インテリアを整えた。サーフボードや洋雑誌などが飾られ、家具も温かみがあるもので揃えられた、まるで家庭のリビングのような一室となっている。
鏡張りの壁面など機材も充実したスタジオは、マンツーマン、もしくは少人数のグループでの対応が可能。ポーチ、テラスへの窓だけでなく反対側にも大きく開口し、日射を取り入れ風が抜けるようにした。将来的には壁面を使ってボルダリングができる備えもあるという。
お客さまにとことん向き合うからこそ、体も心もリフレッシュしていただけるコンディショニングジム。これから、たくさんの人が元気を取り戻して日常に戻っていくのだろう。
秘密基地のような余白空間が生む新しい価値
明るく開放的なLDKでかけがえない家族時間を
それは、主寝室から子ども室まで広がる天井裏の空間だ。それぞれの居室から梯子でアクセスする。余白空間は梁によって緩やかに仕切られているが跨ぐことができる高さで、LDKの吹き抜けまで進むことができる。寝転がればちょっとしたプライベート空間になるのも面白い。「家にいながら秘密基地のような感覚で使える場所になればいいと思いました」と松尾さん。3人の息子さまの格好の遊び場になるだろう。成長するにつれどんなふうに使い方が変化するかも楽しみだ。主体性を持って活用していただけるよう、家の中に仕掛けを用意するけれども、つくりすぎないのが松尾さんのこだわりだという。
また、家族の時間を大切にされているHさまご家族のため、玄関から階段を上がりLDKへ進む動線とした。子ども室や主寝室へは必ずLDKを通って向かうおかげで、コミュニケーションが取りやすい。
家族が集うLDKは、奥さまのお好みである北欧風のインテリアでまとめている。南側に位置するベランダからの日射が入るだけでなく、上部の余白空間いっぱいに設けられたハイサイドライトからも光が落ちて来る。吹き抜けのおかげで天井が高く開放的で、白い壁に光が反射しなんとも家庭らしい温かな雰囲気だ。
そのバルコニーは壁が高く立ち上がり、邪魔するものなく空のみが見える贅沢なつくり。道路側から外観を見たとき、フラットな外壁の裏に位置しているため家族以外はまさかそこにベランダがあるとは思わないだろう。外からの視線を気にすることなく、いつでも外に出られる環境が実現できた。
店舗兼住宅は、ひとつとして同じつくり方になることはないという松尾さん。お施主さまと一緒に答えを探しながら、将来の展望もイメージして妥協なく検討することが大切だと考えている。このH邸を見ていると、お施主さまの店舗のコンセプトやお客さまへの思いも、ご家族に対しての思いと暮らし方についても、等しく第一に、同じレベルで重要と捉えられているのがよくわかる。
そのうえで、新しい豊かさも発見できる家を提案するのが松尾さんの設計スタイルだ。家に店舗にもたらされた余白は、心地よさや暮らしやすさを想像以上に向上させるだろう。それはまた家や店舗への愛着にも繋がっていく。
松尾さんのプランニングには、「建築家に依頼してよかった」と実感する全てが詰まっている。
撮影:脇 秀彦
基本データ
| 作品名 | H邸 |
|---|---|
| 所在地 | 香川県高松市 |
| 敷地面積 | 361.46㎡ |
| 延床面積 | 176.39㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子供3人 |
| 予算 | 4000万円台 |
設計者情報
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