
シンプルだけど単純じゃない
女性のためのこだわりの家
プライバシーと開放感を両立させた
「開く」と「閉じる」
石川さんとKさん母娘との出会いは、栃木県で行われた建築家による住宅相談会に石川さんが参加し、来場されたお2人がたまたま石川さんのブースを訪ねたことに始まった。
「お2人は『三角屋根のシンプルな家が好き』とおっしゃって。だったら私得意です。といった感じで」と石川さん。
実は石川さんは、Kさん母娘が好きな「切妻屋根でシンプルなフォルムの白い家」を提唱し、数多く手掛けてきたその道の第一人者。たまたま訪れたイベントで石川さんと出会えたなんて、Kさん母娘にとっても僥倖だったに違いない。そうして話は、トントン拍子に進んでいったという。
石川さんが設計を行うにあたって、強く意識したことが「開く」と「閉じる」のバランスだという。
女性2人が住む家ということで、プライバシーへの配慮や「家に守られている」という感覚は、とても重要だ。とはいえ、この家の裏側には息子や孫が住む家があったり、ご近所付き合いもある土地柄、「在宅の有無がわかる」「声をかけやすい」といった、オープンさをもつ家であることも必要。もちろん、採光や通風といったことへの配慮も必要だった。
では、石川さんは、どのような手法で「開く」と「閉じる」を兼ね備えたていったのだろう。
まず1つ目は中庭。玄関脇を中庭とし、植栽をウッドデッキで構成した。こうすることで、光が隣家に遮られずに導くことが可能となる。その一方、プライバシーに配慮し木塀で
中庭を囲った。
2つ目はその中庭に大きく明けられた三角形の開口。この家の特徴の三角屋根に合わせたのかと思ったが、それだけが理由ではないのだという。
「当初は四角く開けることも考えました。ただ、四角の開口だと屋根が構造的に弱くなってしまいます。三角のほうが強いのです」と石川さん。
さらに三角の開口は、玄関側により多く屋根がかかることになり、雨風をしのげる一方、中央付近は開口度が高くなり、室内に多くの光を取り込むことができる。光の入り方だって、三角のほうが面白い陰影をつくり出すというオマケまでついた。
まるで空中を歩いているかのよう
リビングを見下ろしながら吹抜けを横断
そしてその空中には、この家の一番のポイントと言ってもいい2階の居室へと続く廊下が伸びている。この宙に浮く廊下からリビングを見下ろしたり、大きく三角にあけられた開口から景色を眺める、この家だけでしか見ることのできない光景だ。
実はこの廊下、家の中心に浮いているかのようであるが、実はそうではない。廊下の片側は中庭のため、構造的には建物の端にあたり、梁でもあるのだ。さらにこの廊下は、中庭側からの光を適度に遮る、庇の役割をも果たすという。
「人は歩く距離が長いと、広いと感じるという特性があります」と石川さん。娘さんは、リビングと自分の部屋の行き来には、必ずこの空中廊下を通る。そのたびに、広い空間であると錯覚するのだろう。
吹き抜けと空中廊下という組み合わせに、いくつもの役割を担わせたばかりか、人間心理をも絶妙に取り入れた石川さんの手腕には驚くばかりだ。
驚くという点では、この家のフォルムにも実は秘密があった。
一見するとシンプルな、切妻屋根の箱型の家かと思ったら、実はこの家は正面の壁と奥側の壁はずれているのだ。見る角度によっては、山が連なっているようにも見える。
これは、部屋の天井高を確保するためと、全体のプロポーションを考慮した上でのデザイン。さらには「母娘2人の家ということで、2つのボリュームがあるという意味を込めました」と石川さん。
Kさん母娘も「シンプルで素敵な家にしてもらった」「デザイン雑貨や家具が好きなので、それらをおしゃれに置ける」とコメント。思い通りの家が実現でき、大満足の様子だったという。
石川さんの建築は、白くてシンプルな見た目の建物が多い。そのことについて石川さんは、次のように語る。
「白などのシンプルな色は、色褪せず、光の陰影も映えます。私は、室内においては、家具や服、そして人が主役だと思っています。白はそれを一番引き立ててくれます」
切妻屋根についても「同じ三角屋根でも、大きさや角度などで表情が違ってきます。そこに面白みがある。さらには日本建築の『蔵』を想像させ、日本人の心に馴染み深いものだとも感じています」と石川さん。
シンプルは、直訳すると単純・簡素、飾り気がないといった意味だろう。しかし、石川さんがつくる建物はそうではない。シンプルに見えて、実はいくつもの要素を兼ね備えたり、複雑な仕掛けや計算をしたりと、手が混んでいるのだ。言い換えれば、複雑なことをやりながらも、シンプルに見せている。それは、本当に確かな腕のあるものでしか成し得ないことだ。
石川さんの本当の凄さを知るのは、石川さんのつくった家に住む人だけなのかもしれない。
基本データ
| 所在地 | 栃木県佐野市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 246㎡ |
| 延床面積 | 125.75㎡ |
| 家族構成 | 母+娘 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | K邸 |
撮影:小川重雄
設計者情報
この建築家が建てた家
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