
若手女性建築家と建てた、
女性のための住まい。
“女性の住む家は女性建築家と建てたい”という結論に。
「新宿の『OZONE』にあるショールームに行ったり、住宅展示場を訪ねたりして、まずはパンフレットを集めて情報収集をしました。その過程のなかで建築家の考える賃貸併用住宅が紹介されていたことがあって、三村由起江さんのことを知りました。そのとき紹介されていた事例を見て、“こんなふうに素敵なもの作ってくれる人がいるんだ”と、とても印象に残ったんです。というのも、今回の建て替えにあたって母とふたりで考えていたのは、せっかく作るのだったらちょっと斬新でおしゃれな感じにしたいということ。実のところ両親は前に建てたアパートはあまり気に入っていなかったこともありましたし、今回はさらに自宅兼用でもありましたから、もう少し自分たちが愛着を持てるような家を作りたいという気持ちがあったんです。」
三村さんのことは気になりながらも、ハウスメーカーやほかの設計事務所にも相談するなかで、次第に自分たちが求めている家づくり、住まいの形が明確になってきた。
「ハウスメーカーは賃貸併用住宅を組織で手掛けているからでしょうか、単に建物の建築だけでなく、税理士事務所や不動産会社も一緒になっていろいろ提案してくれて話は早いんですけど、実際できる建物のプランは? というと、部屋を単に四角く区切っただけで、家の形も窓も決まっている中から選ぶという感じ。正直、面白みにかけるものでした。でも見積もりを見るとけっこうな金額で、これだけの費用をかけてもこんな普通の家になってしまうのかと驚いてしまって。もうひとつ相談していた別の設計事務所もあったんですが、ものすごいアグレッシブに進める男性建築家で、結局これだと言いたいことも言えない、希望が通らない家になってしまうと不安になってしまって。そんなことが続いたこともあって、母が“やっぱり三村さんに建ててもらいたいね”と。確かに私も母も女性ですし、賃貸住宅は女性専用として作ることに決めていましたから、感性もスピード感も合う女性建築家がベストなんじゃないかと思いました。気を遣ったり妥協しながら家づくりをするのはいやだなと。それで、最初から私たちの基本的な希望と合った自然素材の提案をしてくれていた三村さんにお願いすることにしました。」
言葉の裏側にある本当の気持ちをあぶりだしてくれた。
「単に賃貸併用住宅1棟の設計ではなかったので大変だったと思います。母屋は父親が生前にとてもこだわって作った住まいでしたし、庭もとても大切にしていましたから、母屋と庭を台無しにするような建物が建ってしまっては困りますので。難しいことを要望しましたが、三村さんはたくさんの要素をとても上手にまとめてくださいました。その提案を初めから大きな模型で説明してくださったのもとてもよかったところ。それまでのプラン提案というと、図面とイメージの写真やイラストなどで、素人にはなかなかうまく空間として思い描けない部分もあったんですね。それが三村さんはすぐに理解できる模型を使って説明してくれて、母屋との関係性もとてもよくわかりました。私と母がそれぞれ言いたいことを言いますから大変だったと思いますが、じっくりと私たちの気持ちを細やかに汲み取ってくれて、何を決めるにしても急かされなかったのもよかったですね。ゆっくり考えられて、テンポも合っていたのだと思います」とNさま。
また、一から建築家とともに作り上げるプロセスでも、三村さんの手腕に大いに助けられたという。
「自宅部分では、私が要望していた自然素材に対して素人では探せないさまざまな素材を提案していただきました。リビング、ダイニング、キッチンもとても素人には思い描けないような開放的な空間を提案してくださって、こんな方法もあるんだなって感心しました。そして一番驚いたのがキッチンです。私たちはキッチンといえばキッチンメーカーのショールームに行きますが、そこで要望をそのまま伝えて見積もりをいただいたらものすごい金額だったんですね。それを見た三村さんが、“これだったらオーダーで作りましょう”とすぐに代案をくださって。素人はオーダーで作ったらもっと高くなると思いますけど、実際はこだわりがあるほどオーダーのほうが融通が利くうえにコストもかからない。そんなことは知らなかったので、本当にいい提案をいただいたと思っています。賃貸部分にしても、女性の住まいということで前の道路と直接窓が接しないようにルーバーのある光庭を作ってくださったり、ワンルームを水まわりで仕切ってパブリックとプライベートを分けてくださったり、女性だからわかる小さな不安を汲み取ってくれたプランになっていて、女性の建築家にお願いしてよかったと改めて思いました。」
初めての建築家との家づくりを経験したNさんの感想は、充実感と安堵で満ちていた。
「終わってみて感じたのは、建築家の力の大きさです。建築家って図面を引くだけじゃないんですね。プランを考えて、図面引いて、それを実現する手段を考えて、施主と交渉して、建設会社とも交渉して、実際の現場で指示をして、とても広い範囲のことをやってくれる。これをうまく統制して進められるかが建築家の力量だと思いますが、三村さんは独立したばかりでしたが、それまでの経験が豊富だったのだと思います。計画段階から完成まで時間もかかりましたし、やはり自由に作れるということは気力も体力もいるので大変な部分もありましたけれども、だからこそこうしていい家ができたのだと思います。あとはやはり、感性が合っていたいうことも大きかったですね。私たちは聞かれれば思いつくままに要望を言いますが、自分でも何が一番優先したいのかを意外と整理できていなかったりするものです。でも、三村さんは私と母と対話するなかで要望の優先順位をつけて、さらに言葉の裏側にある本音まで察してくれて、一番こだわっていることに対してはどこまでも付き合ってくれました。それこそ終わってみてから“私たちはこれがやりたかったんだ”と、自分の本当の要望があぶりだされた感じがしたくらい。出来上がった住まいは木の香りに満ちて本当に気持ちのいい空間になりました。友達には軽井沢にある別荘みたいな家と言われています。もちろん母も大満足で、毎日のように母屋から遊びに来ています。」
【建築家 三村 由起江さんコメント】
「母屋の敷地内に建てる賃貸併用住宅だったので、新築する建物はボリュームと配置に制約がありました。お施主さまの居住空間は基本的に2階のワンフロアにならざるを得ないので、ワンフロアで出来る空間の豊かさをどう実現するかを一番に考えました。中庭などの外部空間を取りこむ方法もありましたが、お子さんは成人していますし、Nさまとお母さまの人となりやライフスタイルを見て、どちらかというとしっとりとした大人の空間のほうが合うと思い、シンプルに心地よい空間を作り上げることに徹しました。たとえば、2階のリビングに面しているバルコニーは前面道路と賃貸住戸の光庭より奥まったところに配置し、居住スペース全体に落ち着きがでるようにしています。バルコニーもあえて外に開き過ぎないように作りました。また、賃貸住戸は女性限定ですから、やはり心地よさとプライバシーが一番。玄関横にルーバーで前面道路からの視線を遮った光庭を設けることで、LD空間を光庭に対して開放的にすることができます。そうすることで、LD・玄関土間・光庭が一体的になり、LDは実際の床面積より広く感じられます。今回の計画はお母さまとNさまのご要望、そして賃貸住宅と要素がたくさんありましたが、女性3人で楽しみながら進められたと思います。」
間取り図
基本データ
| 所在地 | 東京都文京区 |
|---|---|
| 家族構成 | 一人暮らし |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | N邸 |
撮影:アトリエあふろ(古川公元)
設計者情報
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