
戸建住宅?実は集合住宅!
唯一無二のサーファーズハウス

田辺 誠史
たなべ まさし
合同会社 TAWs DESIGN
埼玉県 川口市
人と空間が自然環境と交感し、心身共に幸福感で満たされること。日々の生活の営みが、豊かなつながりを育む場になること。伝統や文化を現代のライフスタイルで解釈しながら、ここにしかない価値を創出し、豊かな暮らしへ繋がる場をデザインしたいと考えています。
戸建と集合住宅の良さを引き出した
集合住宅の進化系
家々という表現は、正確ではない。並び建つこれらの建物は、実は1つの集合住宅なのだ。
クライアントからの元々の依頼は、家賃収入を得ながら自分たちの理想の暮らしを実現できるよう「オーナー住戸+賃貸住宅1部屋」がセットになった建売住宅を7棟建築するというものだった。
クライアントへのプレゼン時、当初の要望どおり敷地を7分割しそれぞれ独立した住戸7棟を均等に配したプランを説明した後、田辺さんはこう切り出した。
「実は、もう1つご提案したいプランがあります」
そう言って別プランの模型を取り出したところ、クライアント一同の目が点となり、しばし無言の時間が続いたという。
そのプランとは、敷地内に共有の庭であるコミュニティスペースを設けるというコンセプト。コモンテラスと名付けられたこの共有庭を取り囲むように7つのメゾネット住宅が連なる。住宅同士は界壁とバルコニーで少しずつ繋がり、全体は1棟の建物とする画期的なアイデアだった。
この建物のアプローチにはいくつもの方法がある。海からテラスを通る動線、駐車場側から入ってくる動線。バルコニーの下を通るルートもあり、まるでトンネルをくぐるかのようでもある。自分の家に行くのに、別棟の前や横を通るといった、下町情緒やキャンプ場のような雰囲気も持つ。その一方で、敷地の外からの視界は、建物や駐車場の配置で上手く遮られ、プライバシーが確保されているという、絶妙な配置だ。
ここは、サーフィンという共通の趣味をもつ人々が集う住宅。であるならば、サーファー同士・家族がバーベキューをしたり、夕涼みをしたりと、サーフィン以外の時間を共に過ごせる住宅があってもいいのではないか。単なる住宅が集まる場ではなく、この場所をコミュニティの場としたいと田辺さんは考えたのだ。
実は田辺さんは、建築家としての顔だけでなく、地域のまちづくりやコミュニティづくりの活動もしている。そんな田辺さんだからこそ、このサーファーズハウスでのコミュニティづくりに大きな可能性を見出だせたのだ。
こういった思いから生まれたプランに、クライアントは「こんなプランが出てくるとは」と驚きを隠せない様子だったという。元々の計画とは違うため、数回打ち合わせを重ね、集合住宅案の採用に至った。
このプランついて田辺さんは「決してイチかバチかではなく、きっと採用してくれるという自信がありました」と語る。
当初の戸建住宅案では各住戸が独立しているため、家と家の間や道路といった無駄なスペースが生まれてしまう。一方で、アパートのような集合住宅にしてしまうと画一的な部屋となり、それぞれの独立性が失われる。
「このプランでは、戸建住宅のように多方向に開口を設けることができます。そのため、それぞれの住戸に合った採光、通風や換気が実現でき、自然環境とマッチした住宅にもなるのです」と田辺さん。
このプランは、戸建住宅と集合住宅のデメリットを解消するばかりか、コミュニティスペースという大きなメリットまでついてきた。クライアントがこのプランをボツにするわけがない。
こうして、日本中を探してもここにしかない、唯一無二のサーファーズハウスが生まれた。
メゾネットで解決した
利便性と環境調和との両立
その中で挙がった「あったらいいよね」をこの家に積極的に取り入れた。
海から帰ってすぐにシャワーを浴びられるよう、外に共用の温水シャワーを設置したり、外からダイレクトにお風呂場に入れる扉も設置した。また、1階にはサーフボードやウエットスーツなどの道具を収納できる倉庫もある。なんと3m近いロングボードもしまえる設計だ。他にも、ボードや道具の手入れ、ウエットスーツを干すことなどに使える、大きなウッドデッキも備え、利便性にも徹底的にこだわった。
もう1つ、取材の中でわかったことがあると田辺さん。
「本格的にサーフィンをやっている人は、常に自分自身と向き合うストイックさを持ち、環境や自然を大切にする心を持っているというのです」
ではどのような方法で、サーファーの流儀に寄り添ったのだろう。
その解決方法の1つとして、建物をメゾネットにした。この家は、1LDKの母屋と倉庫付き1ルーム賃貸住戸がセットになっている。そしてその両者が共にメゾネットだ。
母屋は、1階にリビングと水回り、そして2階が寝室。一方賃貸住戸は、1階が水回りと収納で、2階が居室とした。さらには接している部分には、水回りを配置するなど、メインですごす部屋が、隣家と近くならないように工夫がされている。
「木造は、RC造ほど上階の歩行音の遮音性が高くありません。そのため、世帯を上下に分けるのではなく、両者メゾネットにすることで、その問題を解消しました」と田辺さん。
メゾネットの利点は、遮音だけに留まらない。住戸が2階建てのため、母屋はリビングの一部を吹き抜けとし、開放感を出した。また、高窓を設置し、採光と風通しという自然の力を上手に活用した、心地よさをも実現させたのだ。
内外装もあえて落ち着いたトーンで統一した。サーファーズハウスというと、ウッディなアメリカンテイストなものにしがちだが、サーファーは本質的には自然やサステナブルな思考をもつ。であるならば、自然由来の素材を使い、落ち着いた雰囲気を作り出すほうが良いのではないかと考え、リサイクル材を使ったサイディングを取り入れたという。
あえてサーフィンに寄せに行かずとも、本質的な部分でサーファーが共感でき、心落ち着く家に仕上げた田辺さんの力量には、驚かされる。
建築当初は、分譲予定だったこの家は、現在賃貸住宅として貸し出されているとのことだが、多くのサーファーからの支持を集め、満室状態が続いているという。
田辺さんは、クライアントの要望・入居者が望むことを、ストレートに形にするのではなく、上手く汲み取り、本質的な部分で理解ができる。そして真に叶えたいことを満たすアイデアを持っている稀有な人材だ。
これからも、住む人がずっとここにいたいと思えるような、唯一無二の家がつくられていくだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | Ichinomiya town house |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県一宮町 |
| 敷地面積 | 1365.31㎡ |
| 延床面積 | 691.18㎡ |
| 予算 | 5000万円台 |
設計者情報
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