
鎌倉の地に馴染む"ハイセンス和モダン"。
細い路地の奥に佇む平屋の注文住宅
かつてM邸を手掛けた大工さんに再び依頼できるという喜び
「M邸の前に車を横付けできないため、できるだけ近く場所まで車で移動し、あとは手作業で資材や道具を運ぶ。さらに、M邸まで続く細い路地にはコーナーになっているところがあるんです。そのため、長さがある資材を運び込むことができませんでした。今回、M邸を手掛けた大工さんのご兄弟は、30年ほど前に1軒目のM邸を手掛けた地元の方でした。30年ほど前に建てた1軒目のM邸は、現在の住まいの向かいにあります。大工さんが地場の方で、周辺の環境を把握していたことは心強かったですね」と秋山さん。
しかし、30年ほど前に1軒目のM邸を手掛けた大工さんのご兄弟も、70代になっていた。体力的、肉体的にも、当時と同じパフォーマンスを発揮するのは難しいと考えるのが自然だろう。
「上棟前は棟梁にあたるお兄さんも不安を感じていたようですが、その後はすごく元気になっていました。電気工事の担当の方は78歳でしたが、それはもうお元気で(笑)。一人一人の職人さんとたくさんの議論を重ねる現場というのは、最近では珍しいですね」と秋山さん。Mさんご夫妻さんも「今回、どうしても1軒目の家を建ててくれた大工さんにお願いしたかったんです。それが実現できたのは嬉しかったです。それから、最近は簡略化される傾向にありますが、地鎮祭と上棟式もきちんと執り行いました」と語ります。
今回、M邸をつくるにあたり、Mさんご夫妻がこだわったのは"平屋であること""家相"そして"和モダン"だった。30年前につくりあげた1軒目のM邸は2階建て。今後のことを考えて、平屋を希望するのは自然の流れかもしれない。さらに、家相についても、風通りや方位方角をしっかりと整えたうえで間取りを決めている。"和モダン"についても、Mさんご夫妻ならではの美学があったようだ。
「洋風または和風に偏りすぎるのもピンときませんでしたし、いわゆる"和モダン"というくくりにしてよいものか?といったイメージが固まるまで夫婦で悩みました」とMさんご夫妻。「今回、Mさんご夫妻の"こういう住まいにしたい"というリクエストやイメージ像が明確になってご依頼いただいたこともあり、とてもやりやすかったです。実は、"好きにしていいよって"ケースが困ることもあるんですよ(笑)」と秋山さん。
平屋の家にこだわった住まいは、鎌倉の地に馴染む"ハイセンスな和モダン"
「今回、M邸のハイライトのひとつである"どのようにして軒を出すか?"にはこだわりました。木組みの見せ方もかなり検討を重ねました。外壁は杉板を使用しています。またMさんのこだわりで、門扉は格子状の引き戸にしました。いずれにしても、大工さんの腕が確かなので、完成後もその仕事ぶりがしっかりと見えるようにという点も考慮しています」と秋山さん。
絶妙なバランスの"調和"は、室内においても同様だ。1軒目のM邸で使用していたアンティーク品、Mさんの奥さまが愛用してきたものなどが、現在のM邸に馴染んでいる。玄関からリビングに入ってすぐのところに位置する"紫雲庵"は、Mさんの奥様が茶道を嗜んでいたことにちなんで名付けられた。このスペースに腰を下ろしていると、柔らかな照明と、大きなテーブルが中央に鎮座していることに気づく。
「京都の三浦照明さんで購入したものです。実は、秋山さんと一緒に京都まで赴き、この住まいにあうものを選びました。こちらの照明は、祇園のお茶屋さんなどでよく使われているんです。以前の住まいでも使っていましたが、今回は、置き灯籠と玄関、そして"紫雲庵"の照明は三浦照明さんのものを選びました。そして、リビングのテーブルですが、素材は花梨です。引き出しが付いているテーブルが欲しかったんです。そこで建具屋さんに作ってくれないかと話をしたら、"ウチにあるよ”ということで、破格値で譲っていただきました。実は重さが200キロもあり、ピアノを運送する業者さんが4人掛かりでようやく運び入れました。重量がかなりあるので、この位置から動かせないんです(笑)」とMさん。
この花梨のテーブルの存在が、M邸の室内の雰囲気や色合いを決める鍵となっていったようだ。事実、ウォルナットの無垢のフローリングや珪藻土の壁、神棚、Mさんご夫妻の親族の仏壇、そして高身長のMさんご夫妻が使いやすい高さに設えたキッチンなど、1つの空間にあるさまざまな要素が見事なまでに調和している。その中心にあるのがこのテーブルというわけだ。まさに、M邸のシンボルといってもいいかもしれない。
平屋であるM邸は、息子さんの部屋、書斎、リビングダイニング、Mさんご夫妻の寝室、2つのトイレ、洗面化粧台およびバスルームという構成だ。M邸の北側は山の斜面になっており、Mさんご夫妻が小まめに手入れをしているという。そのため、春の新緑、秋の紅葉など、室内から四季折々の自然の移り変わりが楽しめる。
「住みはじめて間もなく1年になりますが、断熱にかなり気を遣ってもらったお陰で、夏は涼しく、冬は暖かいですね。家の動線が非常に考えられているお陰で、動きやすく、掃除がしやすいです。居心地が良いので、このテーブルで過ごすことが多いです(笑)」とMさん。そして奥さまも「どなたがいらしても"ここは落ち着く"って言ってもらえます。なかには"守られている感じがあるね"と言ってくれる友だちもいますよ」とのことだ。
「もっとも重視したのは、Mさんご夫妻と何度も話し合いを重ね、そこから何を汲み取れるか?M邸の敷地から見えるもの、どのような風通りか?それをていねいに読み取っていきました。大工さんたちも、「楽しませてもらった」と仰っていました。それだけ愛情を持って取り組んでくださったのでしょう。ただ、すぐ隣にある30年ほど前に手掛けた1軒目のM邸の存在も気になるようで…。2軒目となる現在の住まいをつくっている最中でも"1軒目の家のここも直そうか?"ということもありました(笑)。やはり、自らの手でつくりあげた家ですから、愛着があるんでしょうね」と秋山さん。
M邸の室内は清々しい空気が流れているように思う。それは自然に囲まれていたり、空気清浄機が作動しているからという理由ではない。"良い気に満ちあふれている"といったイメージだ。M邸を訪れる多くのゲストが"何だか落ち着く""居心地が良い""初めてきたとは思えない"など、不思議とリラックスした気持ちになることも理解できる。
それはおそらく、M邸を手掛けた秋山さん、大工さん、家相にこだわったMさんご夫妻、それぞれが理想の住まいを求めて協力し、見事に"調和した住まい"だからこそ醸し出せる空気感であることは間違いなさそうだ。
基本データ
| 所在地 | 神奈川県鎌倉市 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
| 施主 | M邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

パーゴラ、円形の吹抜けリビング…。 ホテル以上にくつろげる、リゾート風邸宅
オン・オフの切り替えができる住まいを望んだ施主さまに、ホテルのようなリゾート風の邸宅を設計したのは、東京・世田谷に事務所を構える株式会社フレイム。玄関を入る前からくつろぎの時間が始まる、上質な空間づくりのポイントを聞いた。

職人の手仕事と自然素材で子育て!家族の安心安全を守る家とは?
幼いお子様が安心して暮らせる住環境を求めて、それまでの都会暮らしから、緑の多い郊外への引越しを決意したUさんご夫妻。木や漆喰などの自然素材でつくるローコストの企画住宅「1.5階建て住宅」を新築し、ノビノビ子育てを満喫されています。

東京から山梨に移住した家族が目指したのは、地域とののりしろ空間。
Mさんご夫婦と小さなお子さんの3人家族が、それまで住んでいた東京から移住先に選んだのは山梨だった。都市部では人間関係が希薄になりがちな印象だが、移住先によっては、地域との結びつきが大切になることも少なくない。そのことを何より重視し、何らかの方法で住まいにも投影できないか?そんなMさんご夫婦の想いを形にしたのが建築家の稲山貴則さんだ。地域の人から愛されつつ、季節を問わずに快適に過ごせる理想的な家づくりをご紹介します。

室内を区切るものは壁ではなく、光と影。 美しい景色を、より魅力的に切り取る家
目の前に広がる田園風景と、裏山の間に位置するE邸。ハナトアーキテクツの保科陽介さんと堤理紗さんは、田園と裏山の空気感を繋ぐような家にしたいと考えた。異なる素材を使い分けて両者の特徴を入れ込んだ室内空間には、夏はひんやり冬暖かくと、快適に暮らせる工夫も隠されている。

つくるのは、住まいではなく暮らし 今見直される、これからの暮らしのカタチ
コロナ禍において、通勤することを前提とした住まいが見直されつつある今日。 いち早く都心の喧騒を脱し、ワークライフバランスを確立されている建築家、増木奈央子さん。 街にいながらも、自然豊かな環境でゆったり過ごす「トカイナカ」暮らし。 そこには、ポストコロナに相応しい、人間本来の暮らしがあった。

家の中心にある通り土間を、風が吹き抜ける 四季と眺望を楽しめる高機能住宅の誕生秘話
岐阜県関市に、独創的な家が誕生した。高機能・高断熱住宅であるのに、家の中心には南北に通り土間があるのだ。扉を開けると、心地よい風が通り抜ける。通り土間を進むと、眼前には美しい田園風景が広がる。この眺望を最大限に満喫できるよう、外構も同時に考えられた。この独創的な家の秘密を、ご紹介しよう。

夫婦2人暮らしにうれしい工夫が満載。 豊かな居心地を楽しめる田園の平屋
ご実家を建て替え、当面はセカンドハウス、いずれは終の住処にしたいと考えていた施主さま夫妻。依頼を受けた建築家の谷山武志さん・裕子さんがつくり上げたのは、心地よい光や緑に包まれながら、いくつになっても安心・快適に暮らせる家だった。

父娘の創造力を刺激する!「大きな屋根裏」と和の空間
デザインの仕事に従事するTさんと、昆虫研究にいそしむお父さま。建築家の李 孝哲さんが二人のためにつくったのは、ちょっと変わった大きな屋根裏のある住まい。光の表情を楽しめるシンプルでおおらかな空間は、Tさんの仕事の充実度にも一役買っているようだ。

何かが違う…。何が違う?木造に見えない、上質モダンな木造住宅
「木造に見えない木造住宅」という施主のリクエストに応え、まるでRC造のようにモダンな住宅をつくった建築家の八田政佳さん。どんな希望も全力でかなえようとする設計姿勢、技術・デザインの引き出しの多さで人気を博す八田さんの家づくりの魅力とは?









