
お施主様ご夫妻の暮らしに寄り添う、
「ふたり」と「それぞれ」の寛ぎがある家
そこに暮らす人々が大切にする精神も
デザインに込めた家づくり
2人が設計したI邸のリビングからは、真鶴半島の先端とゆったりした海という絶景が楽しめる。家の正面からは、エントランスアプローチの先に素晴らしい眺望がのぞき、ふと通りかかった人にもはっとするような感動を与えている。
予定地へ下見に行くと、敷地から真鶴半島の先端がとても印象的に見えた。これは計画上の大きなキーワードになると考え、写真を撮ったという2人。また、敷地の公図を見ると西側に畦畔(けいはん。その土地が田畑(もしくは農地)として使われていた時代のあぜ道のこと)の表記があったため、住宅地として開発されるまで人々はここを通るたびに半島の景色をみてきたに違いないと想像した明美さん。プランを考えるうち、その軸線を海のほうへ伸ばすと、神聖な土地と知られている半島先端の「お林」、さらに「景勝三ツ石」までまっすぐに繋がることに気が付いた。家をここに建てるならこの特性を活かしたものにしたいと、初回のプラン提案時、プランの表紙に下見で撮った写真を採用。「アプローチを抜けると、まさにこの景色が見えます」と軸線のストーリーも説明しながらご説明したという。するとI様は「それはいいね」とおっしゃってくださり、最後まで変わることない大事なコンセプトとなった。
「美の基準」も意識した。数あるキーワードから、例えば屋根と壁を同素材で連続させ流れるようにデザインし「舞い降りる屋根」を、屋外には真鶴産の石材である本小松石を使用して「地の生む材料」を表現している。
オープンな空間の中につくった
めいめいが自分の時間を持てる場所
それに応えるため、核になったのは全体的な空間の構成だという。1階と2階を吹き抜けで繋げ、大きな1つの空間にしたうえでそれぞれの場所をつくった。「一緒に過ごす場所があって、各人の居場所があって。別々のところにいても、お互いの気配が感じられるようにしました」と明美さん。
南に位置するオープンキッチンとダイニングは、パブリックかつご夫婦がともに過ごす場所。全体的に落ち着いた雰囲気の室内で、唯一ともいっていいビビッドなアイランドキッチンの赤が目を引く空間だ。窓からは初回の提案で提示した写真そのものの、海と半島の景色が楽しめるようになった。家の中でも天井が低いところにあり、落ち着いた雰囲気の中ゆったりと過ごせる。
プライバシーを保つため、人の出入り時に家の中が見えないように玄関を道路に対し直角に位置する西側に配置した。玄関を入ると、目の前には吹き抜けのリビングが広がる。ご主人が希望した「ヴィラのような雰囲気の中、ごろりと横になってテレビが見られるところ」だ。天井が高く開放感に満ちているのに加え、フローリングの一部に段差なく敷かれたカーペットと、特徴的な三角形の背もたれでリゾート気分も高まる一角となっている。背もたれは実際にモックアップで使い勝手を確かめながら設計した造り付けだ。
奥様の居場所は趣味の洋裁をするためのミシンコーナー。家の東、家事室の手前にありキッチンにも近いので、洗濯や台所仕事の合間でも趣味の時間が持てると喜ばれているそう。引き戸を開けておけば閉塞感なく家の中の様子を感じながら作業でき、閉じてしまえば散らかしっぱなしでも大丈夫というところも気に入られているとか。
リビングやダイニングは、I様ご夫妻や訪れた方々が半島の眺めを楽しむ寛ぎの場所として、生活感のない心地よい空間になるよう工夫されている。階段を支える壁の向こうに洗面、トイレ、家事室などにつながる廊下を設け、それぞれの引き戸はリビングから見えないところに配置した。自然な動線で行き来できつつ、リビングやダイニングからはプライベートな部屋の存在が感じられないよう配慮されているのだ。「ひらけた空間のなかで扉を見えなくすることで、日常生活の暮らしのエリアを少しだけ非日常っぽく、よりヴィラ感を出せるのではと思いました」と統さん。
主寝室の位置にもこだわり、パブリックな場を通らなくても玄関からダイレクトにアクセスできるようにした。明美さんは「もし、帰宅したときにご家族がダイニングでお友達と過ごしていたとしても、顔を合わせることなくクロゼットへ入り着替えることができます。洗面所で手を洗ってリビングに出ても、寝室に戻ってもいいですよね」と話す。
デザインされた光の計画で
洗練された空間と暮らしやすさを追求
階段のスリットから1階部分を明るく照らす天窓は、2階の収納にも南側から光を落とす。そのため窓がなくても十分に明るく、南側が抜けているので狭さも感じない。「収納としていますが、I様も充分に居室にでも使えるいい部屋だとおっしゃってくださいました」と明美さん。
2階に見える高窓も、ふたつのエリアに光を注いでいる。ひとつは1階のリビングダイニング、もうひとつは2階の客室だ。客室には北側に大きく窓があるが、廊下に面した反対側上部のスリット部分にその高窓があり、細長い天窓のような役割をしている。「入ってくる面積は少なくても、太陽の光には力がある」と統さんは言う。
家づくりの途中I様ご夫妻からいただいた、とても嬉しかった言葉があるそうだ。やむなくご予算などの関係で調整せざるを得なくなったとき「最初の提案で示されたコンセプトや、何が大切だったかをもう一度振り返り、それを損ねないようにしたい」とおっしゃってくださり、背筋が伸びるような思いだった、と明美さんは語ってくれた。しかしそれは、それまでの過程でお互いに理解を深め、信頼関係が築かれていたからだといえる。「家づくりを楽しんでいただきたい」と話すteam AeOの2人。お施主様の要望に応えるのは当然のことで、それにプラスして、お施主様の想像をちょっと超えたような空間の提案をすることが大事だと考えている。驚きがワクワクするような楽しさに代わり、毎回の打ち合わせを楽しみにしていただけたら嬉しいという。
team AeOは明美さんと統さんご夫妻の事務所だ。家づくりにおいては、男女両方いることにメリットがあると明美さん。「女性だから台所のことは詳しいとかそういうことではなくて、女性から男性に相談しにくいこともあるでしょうし、もちろんその逆も。同性だからこそ微妙なニュアンスまで理解できる話もあるのではないでしょうか。それぞれがそれぞれに響きやすく、調整できるのは強みだと思っています」
間取り図
基本データ
| 作品名 | 半島を望む家 |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県足柄下郡 |
| 敷地面積 | 197㎡ |
| 延床面積 | 115㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | I邸 |
設計者情報
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