
芸術性も居心地も、
たいせつな音楽室をとことん優先する空間とは
家族と仲間が集える、家の導線は音楽室を中心に
この家の隣に建っているのは、2002年に日本建築学会賞も受賞しているW・HOUSE、渡辺さんのお父さまである渡辺明さんが設計した集合住宅だ。かつては、そこに渡辺さんも住んでいて、「簡単にいえば、お隣さんですね。小さい頃から良く知っていて、その関係でご依頼をいただきました。」という。お父さまの事務所を引き継いだ渡辺さんは、隣に建つW・HOUSEとの関係性にも常に気を配った。
新たな家を建てるスペースは決して広くはなかったが、盛り込みたい要素は多かった。娘さんが使う音楽室をはじめ、家族が集える和室、駐車場…。特に、音楽室ではちょっとした発表会もできたらという希望があった。初めは8畳程度だった音楽室は検討を重ねるうちに大きくなっていき、最終的には10畳ほどの広さに。1階の大半を音楽室が占めることになった。その代わり、居住スペースを最低限にとどめることでバランスをとった。母家があるので、浴室はなく洗面シャワー室のみ、キッチンも簡易的なものだ。
フルートの演奏家で、教室も開いている娘さんにとって、音楽室で過ごす時間は長い。広さだけでなく、居心地の良さも重要だった。そこで、半地下の音楽室には外の緑が見える窓をつけ、明るく開放感のある空間に。絵画を飾るためのピクチャーレールと暖炉をつけたいという希望も叶えられ、特に演奏をしない時でもゆったりくつろげるような部屋になった。「先日、1年検査で伺いましたが、やっぱり音楽室はいいとおっしゃっていましたね」と渡辺さん。広々と快適な音楽室は、フルートのレッスンや演奏仲間との練習などで、日々、活用されているそうだ。完成時にはオープニングコンサートを催し、部屋に入りきれないほど、お客さんがつめかけたという。
人が集う音楽室は、この家の中心的な存在。そこで、渡辺さんは音楽室へ至るまでの経路にもひと工夫した。「玄関を道路面よりも高くしていて、一度あがってから玄関にはいるんです。そして、音楽室に階段を降りて入っていくという演出を考えました。生徒の親御さんが迎えにくると、まず玄関まであがって、階段室のドアを静かに開ける。すると、壁に小窓がついていて、階段を降りる途中で、音楽室のなかの様子を伺うことができます」。レッスンが一段落したところでドアを開ければ、演奏を中断せずに済むというわけだ。
この家は娘さんがメインに使う建物だが、ご家族も使う。そこで、2階にはご家族の希望も反映された。洗面シャワー室には奥さまがご友人とともに絵付けをしたタイル。「タイルに絵を描きたいというのは、最初からおっしゃっていました。そこで、床一面にタイルを広げて絵を描いていただいて。それをそのまま壁に貼るようにしました。1枚も欠けたり、割れたりすることなく見事に1枚の絵になりましたね」と渡辺さん。
演奏家の住まいには、音楽室を中心として、芸術を楽しむご家族のセンスがあちこちに発揮されていた。
家族が集う和室には、かつての面影も残して
基本データ
| 家族構成 | 夫婦 |
|---|---|
| 施主 | W邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

手間暇惜しまず、じっくり寄り添い 施主の理想を実現した整骨院と自宅
柔道整復師・スポーツトレーナーをされている施主のTさん。出身地である古河市で、自宅兼整骨院を建てようと依頼をしたのは、茨城県結城市を中心に地域や風土に根ざした家づくりを行っている建築家、NIDO一級建築士事務所の飯野さんでした。

穏やかな光と爽やかな風が入る家を、建物に囲まれた旗竿地で?
建物に囲まれた旗竿地に建築家の多羅尾直子さんがつくったのは、2階の書斎を中心とした明るく爽やかな住まい。在宅中はほとんど書斎で仕事をしている大学教授と、ガーデニングや家庭菜園が趣味というご両親が、心地よい光と風と共に快適な暮らしを楽しんでいる。

画家夫婦のこだわりと創作を支えるのは、快適なOMソーラー!?
アトリエ付の自宅を建てることにしたYさんご夫婦。夏は涼しく、冬は暖かい家が欲しいと考えたときに、1人の建築家の顔が浮かびました。

どんな季節でも、雨の日でも。 閉塞感なく暮らせる、通り土間がある家
雪国と呼ばれる地域では、一年の中でも雪深い冬をどう過ごすかが重要だという。建築家の堀井博さんが新潟に建てた自邸は、雪国で生まれ育ったからこそといえる工夫がたくさんある。それだけではない。開放的な通り土間がある家は、毎日の暮らしを快適に過ごすためのヒントにあふれている。

薪ストーブの周りを部屋が囲む 家族がほどよくつながるスキップフロアの家
「薪ストーブのある暮らしがしたい」「地面に近い位置に書斎がほしい」という施主の要望を叶え、家族が程よい距離感で過ごせる家を作った荒谷省午建築研究所の荒谷さん。困難かと思われた2つの要望の両立を成立させたのは、家の中心に設置した薪ストーブをぐるりと取り囲むように、スキップフロアの部屋で取り囲むという、画期的アイデアでした。

家の中に公園があるかのよう。 子どもがのびのび遊べる住まいのつくり方
ノアノア空間工房の大塚泰子さんがプランニングしたのは、敷地内の高低差を活かし、中庭を周遊しながら2階に上がっていくスキップフロアの家。大人が心地よくくつろげて、子どもはのびのびと育つ──。中庭はつくり方次第で暮らしの豊かさに大きな差が出ることを実感する、魅力的な住まいのポイントを聞いた。

光、風、音を感じながら、自然と共に暮らす森の中の別荘
暑い夏、涼しい場所で過ごしたいとの思いで別荘づくりを決断。 自然に囲まれ、光や風、音を感じながらの生活に魅了され、ついには移住を決断するまでに。 そんな別荘を設計したのは、TAWs DESIGN代表の田辺誠史さん。 田辺さんの自然を上手く取り込んだ家づくりに迫る。

広いウッドデッキと室内が一体化 開放感溢れる店舗併用二世帯住宅
福島県に建てられたO邸は、4人家族のOさんが理容室を経営しながらご両親と暮らす店舗併用二世帯住宅です。「住む人の心地よさ」を最優先に考えるという清建築設計室、清利幸さんがつくりあげた、家族みんなが快適に過ごすためのプランとは? その詳細をご紹介します。

コンクリート・土・木という素材を共存 将来の家族の暮らし方に配慮した家づくり
不変性の高いコンクリートをコアにして、可変性の高い木造、土壁を組み合わせる設計は、今回紹介するT様邸の実例だけではなく、既掲載のK様邸の家づくりにも共通している。そこには、今の暮らしだけでなく何十年も先の暮らし方や、建物の行く末までを見据えた、建築家・浅井さんの建築思想が深く根付いている。




