
ライフスタイルの変化にあわせて住み替える
資産価値の維持も考慮した、フルリノベ作品
テーマは「賃貸する自邸」
その考えに至った理由とは
この作品の特徴は、冒頭で概略をご紹介した通り、将来の賃貸を前提に考えられた野崎さんの自邸である点だ。建築家が自邸を設計することはよくあるが、その自邸を将来賃貸に出す前提とする例は極めて稀だ。野崎さんは、なぜこのような考えに至ったのだろうか。
野崎さんはその理由を、次のように語ってくれた。
「家は長く使うものです。ですので、一般的には子供部屋など、最大の人数が使うことを想定した設計が多くなります」。
「しかし本当にそれがベストなのかと私は考えました。最大人数で家を使う期間は、長い年月の中では一瞬だとも言えるからです」。
たとえば子どもが独立すれば、子供部屋は使われなくなる。高齢になると、2階の部屋が使われなくなるケースもある。であれば、ライフスタイルや家族構成の変化に合わせて住み替えてもよいのではないかという発想だ。
野崎さん一家の場合、子どもが小さい時に遊んだり勉強をしたりする場所は子供部屋ではなくリビングやダイニングだろうし、そういった時間も家族で一緒に過ごしたい。そこで子供部屋を作らず、明るく50㎡もの広いファミリールームを中心とするプランを考えた。
そして子どもが成長した時には、この作品を賃貸に出して自分たちは引っ越す。引っ越し先は子供部屋が確保できる、より広い家になるだろう。
野崎さんはこうした発想について、こうまとめてくれた。
「建築物がいろいろな意味で長く使われるようにあるべきことは、全くそう思います。でも家を長く使うという点では、どちらも同じではないでしょうか。ある家族がずっと使うか、同じような家族構成の人が賃貸で代わる代わる使うかの違いで、本質的には変わらないと思っています」。
こうして新しい発想の、リノベーション・プロジェクトがスタートした。
賃貸を前提としている作品ならではの
住みやすさに対する細かな工夫の数々
通常、注文住宅はお施主様の家族が住むことを前提に設計される。しかしこの作品は、状況が異なる。当面は野崎さんたちが住み、その後は賃貸に出して別の住民が住むことになるからだ。
つまり野崎さんは、自分たちの家族が快適に生活できるだけでなく、将来入居することになる住民にも受け入れられる家にする必要があったのだ。そこで住み手を、野崎一家という特定の家族だけではなく、自分たちと近いDINKsや小さな子どもが一人いる世帯と想定した。
こうした属性の家族ニーズを満たすためのプランや工夫は、次のようなものだ。家族が日常のほとんどの時間を過ごす場所として広く明るいLDKをメインに配置し、ファミリースペースと名付けた。玄関土間もファミリールームと一体にして、空間に広がりと通風を生む。その他の寝室やドライルームといった機能室は必要最小限に。家族はファミリースペースで豊かなコミュニケーションをとることができる。
キッチンやクローゼット等は現代人の体格やライフスタイルの変化に合わせて一般的な住宅標準より高さのある寸法とし、扉のない収納はフレキシビリティのある使い方ができるようにした。インテリアはフルハイト建具に統一、床はフルフラット、枠や巾木は最小限とするなど余分な要素をそぎ落とし、シンプルなディテールを選んだ。想定した住み手(もちろん野崎一家も含まれる)が、汎用性とクオリティのバランスした空間で、満足感の高い快適な毎日を送れるような工夫を施した。
“将来の賃貸”を前提とすると、その他にも工夫できる点が多数あった。家具の造作も極力少なくし、照明もあえてシーリングに。ピクチャーレールはリビングとダイニングの壁一面に設置し、入居者が気兼ねなく、好きな場所に絵などを飾ることができる。
これらは将来の住まい手が自由に使いやすくするためだ。いわゆる作品性のクセを少なくすることで、賃貸市場で扱いやすい形を意識したのだ。
こうした工夫の詳細は、ぜひ写真の説明文をご参照いただきたい。
将来の入居者が暮らしやすいようにと考えた設計が、実は野崎さん一家にとっても快適で便利な空間となったことがよくわかる。
ヴィンテージマンションを現代基準に底上げ
資産価値を保ち、市場価値を得るリノベとは
実はこのマンション、1980年代に建てられたヴィンテージマンションだった。つまり、通常のリノベーションでは、現代の基準には達しない部分があちこちに出てくる。そこで野崎さんは、将来賃貸に出した時点でも、現代のマンションと変わらないレベルにまで全体を底上げするフルリノベーションを実施することにした。
その範囲は、室内のほぼ全てに及ぶと言ってよいだろう。ごく一部をご紹介すると、断熱・開口部改修による温熱環境の改善、既存スリーブを活用した24時間換気、衛生面に配慮した非接触水栓やスイッチ類、オール電化、内装仕上げの素材を極力非石油製品とするなど、現代の基準でも十分に通用する内容だ。
また、ヴィンテージマンションであるがゆえに入居者が抱くであろう不安を取り除くことにも配慮。特に改修前の住宅性能と改修後の住宅性能について、客観的な評価を受けることで入居者が安心して住めることを目指した。
たとえば改修前の住宅性能について、耐震基準適合証明書により、本建物の設計は現行基準(いわゆる新耐震基準)に適合していることを確認している。また、宅建業法で規定されるインスペクションにより、取得前の建物状況を確認した。
改修後の住宅性能の評価についても一部ご紹介しよう。改修工事時に行政主体のリノベーション推進事業等の補助金を活用したことで、リノベーション設計の仕様が、現代社会の求める環境性や生活性を一定レベル満たしていることの、客観的な証明になった。例えば、子育てに対応した居住性や窓周り断熱性能(Uw値)など、入居者に伝えにくいポイントを分かりやすく説明できることは、賃貸価値の担保にも寄与するだろう。
これらの施策により、この作品はヴィンテージマンションの魅力と現代の住宅性能を併せ持つ住宅として誕生した。これは将来、極めて魅力的な特徴を持つ物件として市場価値を獲得することも意味する。
野崎さんはこの作品に限らず、注文住宅やリノベーションのプロジェクトを進める際にいつも心がけていることがあるという。
ひとつは、多くの要望や難しい要望を深く考え、同時に解決するプランを提案することだ。まさに今回の作品で考えられたプランが該当するだろう。
また、もっとも大切にしているのは、お施主様とのコミュニケーションだそうだ。その会話の中でお施主様の趣味や嗜好などを知り、ヒントを見つけ出すためだ。これを言語化し、アイデアを出し、建築に反映させることを心がけているという。
自分たちの多くの要望を理解し、深く考え、実現してくれる建築家。自分たちの感性までをも理解し、プランに反映してくれる建築家。そのような建築家を探している方は、一度コンタクトしてみることをお勧めしたい。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 桜坂のN邸 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡市中央区 |
| 延床面積 | 88.52㎡㎡ |
| 間取り | 1LDK+ワークルーム+ドライルーム |
| 家族構成 | 夫婦+子供1人 |
設計者情報
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