
敷地条件が厳しくても、豊富な光の通り道で
余すところなく明るい家
建物の配置と省スペースを意識した間取りで
収納も十分、ゆとりある室内空間に
それもそのはず、このS邸はコンセプト エス アーキスタジオ代表、建築家の芝田知巳さんが自ら設計した自邸だ。駐車場も十分に取られており、家の正面からはゆとりある敷地に建つ家のように見えるが、芝田さんによればなかなか厳しい条件の中で建てられた家なのだという。
「住宅地の中にあり、開いているのは道路に面した北側しかありません。他の方角は敷地ギリギリまで隣家の建物が迫っているので、三方を家に囲まれているような感じなのです」と芝田さん。配置を考えるにあたり、まず南からの光が入るよう庭を設け、南側の家との距離をあけた。加えて北側には駐車場を配置し、南北方向に伸びる敷地の真ん中に家を寄せた形だ。一方で、東西方向には敷地いっぱいに、無駄なく建物を計画した。
さらに、建ぺい率40%、容積率60%と形態制限も厳しく、建物の大きさや床面積に限りがあった。その理由もありS邸は延床面積が約118㎡とコンパクトな家だが、室内空間のつくり方にはそれを感じさせない工夫があふれている。
形態制限が厳しい中でクリアすべき問題のひとつは収納。そこで、2階の上にロフトを設けた。ロフトは容積率の判定に反映されないため、容積率を守りながら約8畳の大きな収納場所を設けることができたという。天井高はロフトとして成立する制限いっぱいの1400mmとし、中で人が動きやすく使いやすいように配慮した。
省スペースにも力を入れた。まず、階段を挟んで両側に1部屋ずつ計画した2階は、通路をなくし居室を広くとった。また、2階からロフトに上がる階段の踊り場には物干し場を兼ね合わせ、床面積を効率的に使用している。
物干し場へは居室を通ってアクセスすることになるが、両方の部屋それぞれに物干し場への扉を設けているため、もし家族がどちらかの部屋にいたとしても気兼ねなく向かえる。この省スペースのアイデアを「夫婦2人で住む家だからこそ可能となったわけですが」と前置きをして芝田さんは語ってくれたが、ライフスタイルや家族形態に合わせて見つけられた解決策こそ、建築家の本領が感じられる部分だろう。
家の外側、中心、上部からも光を取り込み
必要な個所に届ける工夫がいっぱい
以前の住まいでは、家の中央部、北側は昼間でも明かりが必要な環境だったため、奥様が「家中どこでも明るい家にしてほしい」と要望されたのだとか。それゆえ、居室だけでなく本当に家の隅々までが明るいのがS邸のすごいところだ。
明るさをもたらしているひとつに、中庭の存在がある。「家に奥行きがあると、家の中央部まで光が届きません」とLDKと玄関ホールの間、ちょうど家の中心に当たる場所の東面に配置し、光を取り入れている。
2階の物干し場も、三方に窓を設けてサンルームのような雰囲気。芝田さんはそこに入ってくる日光も、室内へ光を届けるために有効活用したという。その方法は、ちょうど光を受ける位置にある、物干し場からロフトへ上がる階段の蹴上に半透明のポリカーボネート板をはめ込むというもの。さらに、その下にある1階と2階を繋ぐ階段はシースルーにすることで、物干し場に入ってくる眩い光が階段を抜けて下に落ちてくるのだ。この仕掛けと、すりガラスにしたLDKのドア、さらには中庭に接する窓のおかげで、1階の玄関ホールや廊下はいつでも明るい。
2階の居室は、隣家との距離がある南北は大きく開口、また物干し場に繋がる扉はLDK同様すりガラスを採用し明るさを確保。使用するのは主に夜間、そこまで明るくなくてもという理由で1階の北側に配置された寝室でさえも、上部につけた横長の窓のおかげで必要な明るさが確保できているというのだから驚いてしまう。
五感を刺激する自然の音や風も取り入れた
気持ちよく、暮らしやすい家
特筆すべきはインテリア性と機能性を両立させたキッチンだ。LDKに一体感を持たせるようシステムキッチンは家具調のものを選び、キッチンというよりもインテリアの一部のようなイメージを与えている。もちろん使い勝手にもこだわり、背面には大容量の収納棚を設置。食器だけでなく炊飯器や電子レンジなどもそこに置き、動線がコンパクトで使いやすいキッチンを実現した。それだけではない。芝田さんは空間全体のインテリア性を高めるため、その背面の棚や引き出しをまるごと隠せる扉を取り付けたのだ。扉を閉めてしまえば生活感が完全に消え去り、LDK全体の雰囲気が変わるという。
インテリアを整えるには、照明も重要な要素だ。LDKは一部ペンダントライトも使用しているが主な光源はダウンライトとした。昼間は明るく開放的なLDKが、夜になるとぐっと落ち着いて大人のムードになるのもS邸が魅力的な理由のひとつだ。
お客様を迎える玄関ホールから眺められる中庭には、モミジを植えた。「小さいスペースで手入れもしやすいので、紅葉して、落葉して、と季節の移ろいがより感じられる樹木を選びました。広々とした南の庭は、手がかからない常緑樹を植えています」と芝田さん。風景を楽しむためでもあり、風を通すためでもあり、さまざまな意味を込めた窓がたくさん設けられたS邸。「主に窓は南北に開いていますから、すごく気持ちがいいですよ」と話す。
通風を確保し日光を家に取り入れるのは、パッシブにより省エネ効果を得ることも狙いのひとつではあるが、むしろサラサラと葉のこすれる音や鳥の鳴き声など、家の中から自然が感じられるようにというほうが、意味合いとしては強いという。大きなトップライトからは、季節ごとの太陽の力や一日の時間の流れを体感する。日差しが強ければロールスクリーンでトップライトを覆い、また開ける、そのちょっとした行動を通して夏の日陰の涼しさや、冬の日光の暖かさの恩恵にあずかる。なんて贅沢な家だろうか。
また老後は1階のみで生活したいと考え、必要な部屋は1階に集めたという芝田さん。住まいづくりのモットーを尋ねたところ「住まい手の暮らし方と敷地の特性、それにプラスして光や風、自然の音を取り込んだ家をつくりたいと考えています」と答えられたが、まさにS邸はその理想そのものを実現した家となった。
S邸は木造だが、鉄骨造やRC造の経験も豊かだという芝田さん。土地の条件やライフスタイルはそれぞれだ。全てにおいて経験豊富な芝田さんならば、家づくりの基礎中の基礎といえる構造から、お施主さまに合わせて、さまざまな、よりよい提案をしてくれるに違いない。
間取り図
基本データ
| 作品名 | Sハウス |
|---|---|
| 所在地 | 静岡県静岡市 |
| 敷地面積 | 200.07㎡㎡ |
| 延床面積 | 118.42㎡㎡ |
| 間取り | 3LDK+ロフト |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 2000万円台 |
| 施主 | S邸 |
設計者情報
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