
豊かな緑、心地よい木漏れ日。
公園のような環境で働く快適オフィス
テレワークが増える中、
「会社で働く価値」を感じられる空間を
ちょっと文学的に紹介したくなるほどインパクトの強いこの建物は、山梨県甲府市にある株式会社ハウス・ネット(以下HOUSE-NET)の本社社屋。同社はデザイナーズマンションなど、オリジナリティのある建築を積極的にプロデュースすることで知られる不動産会社だ。
本社社屋の設計にあたって望んでいたのは、自社の提案力を表現できるような建築をつくること。斬新で魅力あふれるオフィスをモデルルーム的に見てもらうことで、訪れた顧客にプロデュース力をアピールしたいとの狙いがあった。
難度が高いこのオーダーに応えたのは、東京に事務所を構える奥野公章建築設計室の奥野公章さん。プランニングで奥野さんが意識したのは、「テレワークが増えている昨今、会社に来ることに価値を感じてもらえる空間をどうつくるか」だったという。
「会社に来れば、こんなにいい環境で仕事ができる。そう感じていただけるような空間にするために、着目したのが観葉植物です。でも、ただ植物を置いただけではHOUSE-NETさまの素晴らしい提案力の訴求には物足りません。そこで『オフィスに緑を置く』という従来のあり方をパラダイムシフトさせ、『緑の中に働く場がある』という発想でプランニングすることにしました」
奥野さんの言葉通りHOUSE-NETは緑に包まれたオフィスとなったが、すごいのは緑の多さだけではない。驚くことにそれらの緑は全て、完全な内部空間で「地植えされている」のである。
陽光、木漏れ日、きらめく緑……。
息吹を感じる公園のようなオフィス
この各スペースをゾーニングするパーティション的な役割を果たしているのが、屋内に地植えされたさまざまな樹木だ。人がいる場と植栽が交互に並び、植栽の上にはトップライト。鉢植えの観葉植物とは比べ物にならない豊かな緑は、燦々とそそぐ陽光を浴びながら「生きている」。
緑と木漏れ日に包まれたオフィスはまさに公園そのもので、深呼吸したくなるような心地よさ。高木は高い位置に葉がつく樹種が選ばれているため、緑で空間が分断され過ぎることもなく、仕事に集中できるプライベート感、コミュニケーションしやすい一体感のバランスもいい。
こんな環境で仕事をすれば、自宅の一角で日がな一日パソコンに向かうより、いいアイデアが湧いてくるのでは……。そんな風に思えるほど、「会社に来る価値」を十二分に感じさせてくれる空間といえるだろう。
また、贅沢なまでに木々が生い茂る空間は、訪れる顧客にもHOUSE-NETの高い建築プロデュース力をアピール。この点でも奥野さんは、クライアントの願いにしっかりと応えている。
地植えされた緑を建築に溶け込ませるアイデアも秀逸だ。奥野さんは白く塗装した水道管を植栽スペースの柱に見立て、白を基調とした空間と樹木を馴染ませているのだ。
「今回採用した樹木の幹はわりと細めなのですが、建築用の柱には同じようなサイズのものがないんです。でも水道管なら今回の樹木の幹と同じくらいの細さだと気づき、植物と建築を融合させる媒介としてぴったりなのではないかと思いました」
確かに、この水道管の柱があるのとないのとでは、樹木と建築の馴染み具合が全然違う。奥野さんの柔軟で独創的な発想の魅力をあらためて感じるポイントだ。
ほぼノーメンテで緑は生き生き。
うれしいポイント満載の建築テクニック
なぜ、屋根付きの完全な屋内に樹木を地植えすることができたのか。そもそも観葉植物だって手入れが要るのに、こんなにたくさん緑があったらメンテナンスが大変なのではないか……。
奥野さんにこの疑問を投げかけると、こんな答えが返ってきた。
「HOUSE-NETさまの植栽は、軽量土壌のアクアソイル工法でつくっています。アクアソイルは保水性が高く通気・排水にすぐれており、植物に適した環境を保ちやすいんです。私も屋上庭園などによく利用していますが、これまでアクアソイル工法の庭で樹木が枯れたことはありません」と奥野さん。奥野さんはこの工法とトップライトによる採光を組み合わせて、生育に適した環境を整えたのだ。
アクアソイル工法で灌水が要るかどうかは環境や樹種によるが、HOUSE-NETでは自動灌水システムを導入。土壌の保水力のおかげで灌水は週にわずか1~2回。剪定はメーカーのサービスを利用しており、スタッフにしてみれば観葉植物より手間がかからない。また、葉などに埃がたまって成長を妨げるのを防ぐため、奥野さんはエアコンを採用。樹木の埃をはらう自然通風と同様の効果を、エアコンの風で生み出している。
完全な屋内で樹木が生き生きと育つ建築テクニックは、ショッピングモールやホテルなどの大規模施設、和食店などの小規模店舗まで、汎用性が実に高い。建築によって人と自然が共存し、都会にいても、屋内にいても、緑の息吹や四季の移ろいを満喫できる──。奥野さんの知見があれば、そんな素敵な環境づくりがかなうのだ。
間取り図
基本データ
| 作品名 | HOUSE-NET(事業用建物) |
|---|---|
| 所在地 | 山梨県甲府市 |
| 敷地面積 | 662.48㎡ |
| 延床面積 | 199.99㎡ |
| 間取り | 混構造(RC造+S造) |
| 予算 | 5000万円台 |
| 施主 | ハウス・ネット代表取締役 三津橋 智人 |
撮影:小川重雄
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

つくるのは、住まいではなく暮らし 今見直される、これからの暮らしのカタチ
コロナ禍において、通勤することを前提とした住まいが見直されつつある今日。 いち早く都心の喧騒を脱し、ワークライフバランスを確立されている建築家、増木奈央子さん。 街にいながらも、自然豊かな環境でゆったり過ごす「トカイナカ」暮らし。 そこには、ポストコロナに相応しい、人間本来の暮らしがあった。

小さくてもとびきり豊かな住み心地。 家族をしなやかに受け入れる、年齢不詳の家
松本孝充さんが設計した「浦志の家」は、福岡県美しいまちづくり建築賞で大賞を受賞。街に溶け込む控えめな佇まいだが、設計には秀逸なアイデアと温かな配慮が盛りだくさん。家族の変化に合わせて、永く、気持ちよく暮らせる家づくりのヒントが詰まっている。

土手下の三角の土地に理想の我が家を ウイークポイントを個性に変える匠の技
家づくりにおいて土地条件は大きな要素だ。広さ、形状、高低差などの理由から、思い描いていた家が建てられないということもよくある話。「土手下の三角の土地」での建て替えを計画したIさんご夫妻。ハウスメーカーや工務店などと話をするも、希望通りの家にはなりそうもなかったという。そんな中、一縷の望みをかけたのが、土地のもつ力を巧みに利用し、快適な空間を作りだす匠、ア・シード建築設計の並木さんでした。

二世帯、つかず離れず快適に。ジグザグ曲がった大きな平屋
広大な敷地に建つK邸は大きな平屋の二世帯住宅。中庭をぐるりと囲む建物は曲がりくねった独特のラインを描き、民家とは思えないほど洗練されたアーティスティックなデザインが特徴だ。だが設計した清正 崇さんによると、この形は二世帯だからこそ頭に浮かんだものだそう。 “長く、心地よく暮らせる二世帯住宅”は、なぜこの形になったのだろう。

快適に暮らす、子どもが遊ぶ。 大きな木の下で家族が集う、秘密基地
「秘密基地のような家」がテーマのN邸。中心に尖った屋根を擁する個性的な外観もインパクトがあるが、屋根の下にはなんと「大きな木」があるという。設計した井上孝紀さんは、その木の下に家族が集う様子を思い描き、小さなお子さまがいらっしゃるNさまご家族の皆が住みやすい家をつくり上げた。

シャビーな雰囲気漂う 憧れの「サーファーズハウス」
千葉の住宅地に建つW邸は、シャビ―な雰囲気が魅力のサーファーズハウス。設計を担当したのは、長年外房で活躍してきたtai_tai STUDIOの若林秀和さんである。屋外のシャワーや、濡れたまま上がっても平気な土間の玄関。庭と一体化を感じさせる開放的なLDK…。サーファーであるWさんご夫婦のための工夫が随所にこらされた、若林さんの家づくりに迫る。

ワンルーム的大空間で居心地よく 家族が繋がり仲間が集う家
住宅を建てるとき、多くの人は「どんな家にしたいか」を考えることが多いだろう。施主の「こんなテイストにしたい」「子供部屋と書斎はほしい」「抜群の収納力や家事動線」といった建物のスペックに眼が行きがちだが、実は一番大切なことは「暮らし」に眼を向けること。 建築家の石井航さんは、常に施主家族が「どんな暮らしをしたいのか?」を問い、施主との対話でそれを捉え、それを実現すべくプランを提案している。

内と外が緩やかにつながった、「空間グラデーション」の妙
施主であるHさんが自邸を建てるために選んだ土地は、住宅街のなかにある角地でした。南北に細長い敷地の南と東に面した道路は、それぞれ幅員4mほど。建築家の植村康平さんは敷地を何度も訪れ、Hさんファミリーが暮らす理想的な住空間をイメージしながらプランニングしたといいます。そうして誕生したのが、道路と庭、室内がゆるやかなグラデーションでつながった「カドニワの家」でした。

天窓から光がそそぐ、三角屋根の豊かな空間。 家時間が楽しい「屋根裏リビングの家」
家を建てるときに避けて通れない建築規制。この規制を見事にメリットに変換したのが、『屋根裏リビングの家』だ。イノウエヨシムラシタジオ(IYs.inc)の井上亮さんと吉村明さんのセンスと工夫が光る、楽しさいっぱいの住まいの魅力を探ってみた。





