
偶然と必然、
アートと本棚が織りなす世界で一つだけの空間
拘りとコストパフォーマンスを両立させた土地探し
現在の住まいを構えることとなった土地は奥様が見つけたのだという。奥様が地元の不動産屋を何軒も何軒もまわり、その成果として一般公開前の「掘り出し物件」と巡り会ったのだ。
ご主人曰く
「商業地区と計画道路に掛かっている土地で、相場よりも価格が下がるんですね。その分、良い形でコストパフォーマンスが出せたんだと思うんです。」とのことだ。
西荻窪周辺の物件を探している人が多い中で、今回のケースは実に幸運だったというべきだろう(もちろん、奥様の行動力あってのことだ)。
そんな土地探しから行動力を持って行ったO様夫妻の家の設計を託されることとなった、石田設計室の代表としてご活躍される建築家の石田さん。
Oご夫妻との出逢いはどのようなきっかけだったのだろうか?
O様によると「義理の母の親友と石田さんが友人だった」とのことだ。それが縁となり、奥様が主体となってO邸のイメージを創り上げていった。1階は賃貸に。2階が子ども部屋と夫婦の寝室、3階がロフトを加えたリビングという形だ。現在の住まいの大枠は初期のラフスケッチの段階で決まったが、詳細を煮詰めて設計図が固まるまで1年近くを要した。さらに施工期間はおよそ8ヶ月。足掛け2年近くを費やしたという。
南北に縦長の土地をどのように有効活用するか?ラフスケッチには「冬至でも日差しが差し込むレイアウト」や「子ども部屋から見える樹木の借景」、「アート作品を飾るための天井の高いリビング」、「家族が増えた場合を想定して」…等々、注文建築ならではの、O様ご夫妻と2人のお子さんが365日を気持ちよく暮らすための重要なポイントが詳細に書き込まれている。
O様ご一家の暮らしを映すアイコンの役目も果たしているといえる外壁は、ニューヨークのアジアセンターや世界の美術館の壁画の描く30代前半の作家であるDex Fernandez(デックス・フェルナンデス)氏の作品だ。
フェルナンデス氏がO邸の外壁を描くにあたり、奥様から「家族が家に帰ってくるのが嬉しくなる」とリクエストしたところ、このような見事な作品を創り上げてくれた。建築時の足場を解体する日程を2日だけ延ばしてもらい、フェルナンデス氏が一気に描き上げた。当初は他の色(黒)を考えていたが、条例で使えないことが分かり、現在の色合いとなった。結果としてこの方がよかったのではないかとのことだ。壁画には「不思議なところに迷い込んでしまった家族」といったテーマが込められており、よく見るとO様ご一家も描かれている。家という真っ白い外壁キャンパスにして、素晴らしい作品が誕生した。それは、近所の人の目も楽しませてくれる素敵な作品となった。
アートと本、細部までこだわりを追求した住空間
玄関から1階からリビングに通じる階段を登っていくと、壁面が本棚になっている。漫画から小説、CD、アートや美術関連書、お子さんの絵本までまるで図書館のように収められている。本棚の板はかなり厚みがあり、重量のある書籍が収められても反り返る心配はない。また、漫画の単行本に縦幅を合わせて造られており、収まりもよく、見た目にも美しい。
2階はお子さんと夫婦の寝室となっている。女の子2人いうこともあり、北側に面した部屋の窓は採光を意識しつつ、プライバシーが保てるようになっている。反対に、夫婦の寝室は採光を取り、気持ちの良い朝が迎えられそうだ。
3階部分は家族の憩いの場だ。極めて機能的に配置されたキッチンは奥様と石田さんの「作品」といっていいだろう。見せる部分と隠したい部分、すぐに取り出せるものとそうでないもの。女性同士、使い勝手を細部まで煮詰めたに違いない。ダイニングのテーブルは、なんと義理の父のお手製だという。O邸の雰囲気に合う板を探し出し、家族が集う場であることを考えながら造り上げた1点モノだ。失礼ながら、明らかに日曜大工の域を超えている。売り物として展示されていても何ら違和感のない仕上がりだ。
「アート作品を飾るための天井の高いリビング」は、キッチン・ダイニング部分よりも天井高が高く、開放感あふれるものだ。実際、壁面いっぱいのスペースを使って作品が飾られている。O様はここでくつろぐことが多いという。夕食後、家族がここに集い、笑い声が聞こえてくるかのような暖かみの感じられるスペースだ。ロフト部分は天窓もあるため、暖かい日差しが差し込んでくる。ここにも本棚があり、たっぷりと収納できる。また、近隣の家の間を縫うようにしてテラスに通じる窓があり、そこから柔らかい日差しが差し込むようになっている。
つい数年前までは廃屋同然の家があった土地に、こんな素敵な家族と住まいができたことを近所の人も喜んでいるようだ。1階にオープンするはずの店舗にも期待が集まる。2人のお子さんも転校先ですぐに友だちができ、自慢の家に招くことも多いという。自分たちの暮らしを大切にし、周辺への気配りも忘れない。こうした人々の交わりが、いつの時代も西荻窪エリアを魅力的な街と感じさせてくれる大切な要因に思えてならないのだ。
基本データ
| 所在地 | 東京 |
|---|---|
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | O邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

ピアノを楽しみ、お昼寝も。家族をつなぐ吹抜けの広い土間
ハウスメーカーとの打ち合わせで「ピアノの部屋が欲しい」と要望したら、ピアノがぎりぎり入る小さな部屋を提示され、しっくりこなかったSさん。新たに相談を受けた建築家の松岡淳さんが提案したのは、なんとピアノを土間で楽しむという斬新なアイデアだった。しかもこの土間には、ほかにもさまざまな役割があるという。S邸の象徴的な空間となった大きな土間の魅力とは?

若手女性建築家と建てた、女性のための住まい。
実家の敷地に建っていた平屋のアパートを賃貸併用住宅として建て替えることになったNさん。建築好きの父が建てた母屋で生まれ育ち、海外暮らしの経験もあったNさんは、ありきたりの住まいにはどことなく違和感が。賃貸住宅は女性専用と決めていたこともあり、感性の合う若手女性建築家に設計を依頼しました。

ご先祖、面影、家相、耐震!一族の家長ならではのリノベとは?
祖父母の家、両親の家、自分たちが住む家と代々の家が集まって建っている場所。傷(いた)んだ自分たちの家を建て直すことになったご夫婦が設計を頼んだのは、甥にあたる建築家の渡辺仁さんでした。

遠くに見える山並みとも調和した おおらかな大屋根の3世帯住宅
高知と徳島の県境にまたがる高知県の最高峰・三嶺。標高1894mのその頂へと連なった峰々を仰ぎ見る山間の集落の一角に「大栃の家」は立つ。地域の環境とも馴染むように佇むこの家の設計を手掛けたのは、水野淳一建築設計事務所の水野良太さんだ。

木製ルーバーが暮らしを守る、中庭でつながった二世帯住宅+アトリエ
笹野さんの自邸『猪高台の家』は、親の住まいと完全に機能を分離した二世帯住宅+建築事務所からなっている。制限の多い土地条件に対して、過剰な3つの空間を収めた間取りと、それでいて採光や通風といった快適さを損なわない住空間。難解なプランを明快な答えへと導いた、笹野さんのユニークかつ的確なアイデアや工夫を紹介します。

宙に浮いたリビングが叶えた 様々な顔をもつ庭のシークエンス
子供の頃から住み続け、先代から受け継いだ土地の記憶を残しつつも、暮らしやすい家に建て替えたい。そんな施主の思いに応えたのは、物事の本質を見極め、類まれなる発想で、美しく快適な空間をつくりあげる建築家、荒谷省午建築研究所の荒谷さんでした。

ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
窓いっぱいに広がる高尾の自然の景色、家のなかを通りぬける気持ちのよい風。存分に自然を味わえる家は、建築家の望月さんが家族と暮らすならと考えて設計した理想の家でした。

行政も納得!安全と癒しを、街と住み手に提供した奥の手とは!?
O邸では敷地内にあった土留め(どどめ)を直す必要に迫られていました。通行人の安全確保には不可欠な工事でしたが、莫大な費用がかかるうえ、O邸には特に得るところがありません。ところが、建築家の窪田浩之さんが提案した、ある工夫をしたことで誰もが納得のいく改修工事になりました。

あえて収納を減らす、子どもと楽しむ住まいのリノベーション
リフォームして新たに生まれ変わったM様邸。無垢のフローリングにラワン合板のしつらえがとても美しいシンプルなお宅は、木と家族のぬくもりがいっぱいにあふれている。


