
2人だけの日常も大人数が集まるひとときも
夫婦の願いを叶えた数寄屋造りの邸宅
プランを出すのは、仕事のほんの一部
お客様に寄り添い、知ることを大切に
そのような出会いから、山口さんに設計を依頼することなったIさん。Iさんからのリクエストは「数寄屋造りの家」ということ。
「これまで、さまざまなタイプの家に住んできたが、人生のエンディングを悠々自適に過ごす家は、日本人のDNAに染み込んでいるであろう、数寄屋造りの家にしたい」とのことだったという。また、基本的には夫婦2人の生活だが、子や孫、友人など来客も多く、それも楽しめ、来る人々をおもてなしできる家にしたいという思いもあった。
そして早速プランに取り掛かったのかと思いきや、山口さんはすぐには図面を描かなかったのだという。何をしたかというと、Iさんとひたすら向き合い、時を共に過ごしたのだ。時にはお宅に招かれ食事を共にしたり、数寄屋造りの好みを探るため、一緒に京都の南禅寺周辺を視察に行ったりもしたのだとか。
こうしたお客様に寄り添う姿勢は、何もこれはIさん邸に限ったことではないという。「お客さんから、『なかなかプランの話にならないな』と思われているかもしれません」と山口さん。「私の仕事において、プランを作るのは仕事のほんの一部にしか過ぎません。それよりも、お客様のことを知ることのほうが何倍も大事なのです」と山口さんは語る。
山口さんにとって住宅の設計とは、間取りや仕様を考えることではなく、その家に住まう人々のライフスタイルや思いをカタチにすること。いわば「暮らしを考えること」なのだ。
そのために、時間をおしまず、じっくり丁寧にお客様に寄り添う。
アンケートや要望だけでは、本音や実際の生活の姿が見えてこない。だからこそ、何度も対話を重ね、時を共有することで、お客様の本音を探ることに時間をかけるのだ。
こうしてお客様の真意を汲み取り、さらに山口さんの豊かな経験や卓越したセンスを加えられたプランは、お客様の心を鷲掴みにし、満足度の高い家に仕上がる。
1つの家の中に同居させた
「プライベート」と「パブリック」
Iさん邸に近づくと、大きな庇が特徴の荘厳な門家が出迎えてくれる。まるで、別な時代への入り口かのよう。門をくぐった先には風格ある建物が鎮座し、旅館や料亭のような雰囲気すら感じられる。大きな石のアプローチを一歩一歩進んで行くことも、何か特別な場所に来たように感じさせているのかもしれない。
玄関に入ると、天井にはモザイク模様の照明が。伝統的な和の雰囲気の中に、洋の要素を取り入れることで、現代的な和モダンのテイストが感じられる。垂れ壁と榁(ムロ)変木が、外と中を隔てる茶室のにじり戸のような役割を果たしている。お客様を迎えるおもてなしの心の現れ。まさに、数寄屋造りを体現している。
廊下を進んだ先に現れるのは、広々としたLDK。優に10人は座れるであろう大きなテーブルが存在感を放つ。大きな開口からは、庭の芝の景色も楽しめるほか、中庭の鹿威しも見える。子や孫、友人などが大勢集まっても十分に寛げる広さだ。オープンキッチンで、調理をしながら会話も楽しめる。
実はこの家にはキッチンとダイニングがもう1つずつある。LDKはいわば、パブリックスペース。家族や友人が集まるときに使用するのだという。
一方、夫婦が普段使う、プライベートなダイニングとキッチンは、夫婦の寝室や書斎と共に、このLDKの隣に設けた。
Iさんの、「夫婦2人の悠々自適な生活」と「多くの人が集まりもてなせる家」という命題を、「プライベート」と「パブリック」2つのDKを設けるということで山口さんは見事に解決してみせた。
DKが2つなんてもったいない、掃除も大変だろうし、広いLDK1つで十分じゃないかと思うかもしれない。しかし、普段の生活で広いLDKに夫婦2人だけというのも手に余るし、寂しさすら感じる。コンパクトなDKのほうが使い勝手は良いのだ。また、パブリックなLDKがあることで、来客時に普段の生活感を見せずに済むことだってできる。それは、来客への「おもてなし」にもつながるのだ。そう考えると、一見過剰設備に見える2つのDKというのは、Iさん邸にとっては極めて合理的だったのだ。
こんな提案ができたのも、山口さんが時間をかけ、ゆっくりとIさんご夫妻の真意をつかみ、鋭い洞察力で感じ、類まれなる発想力の賜物。
山口さんは、これからもクライアントに寄り添い、じっくりと時間をかけ、満足度の高い家を作り続けるに違いない。
基本データ
| 所在地 | 奈良県磯城郡 |
|---|---|
| 敷地面積 | 954.95㎡ |
| 延床面積 | 359.26㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 1億円台 |
| 施主 | I邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

住まい手基準の気持ちよさの追求。両親への想いが詰まった平屋
依頼人のご両親が住む広島の実家。建て替えるなら体が弱ってきても過ごしやすい家にしてあげたいと娘さんは願いました。ご両親が元気に毎日暮らせる家には何が必要か、娘さん、建築家の山口健太郎さん、そしてご両親が考えを出し合いました。

長細い家の、奥の奥まで光を届ける 壁面いっぱいに広がる光窓
南北に長細いO邸の中でお施主様が一番重視したのは、1フロアほぼ丸ごと使ったLDK。建築家の井上直大さんは、このLDK空間の隅々まで光が届けられるよう、南側の壁面いっぱいに窓を開口した。窓全体から入る光は豊かであるものの、きつく差し込むわけではない。快適な居住空間はどのようにして生まれたのか。

見せる家!借景もアートもセンスよく調和される空間づくりとは?
更地の状態が長年続いていたWさんの所有地は、ひな壇の斜面地にあり、草木のうっそうと生い茂る公園に隣接するという立地条件。この環境のメリットを最大限に活かした新居を建てるべく、建築家の市川均さんに設計を依頼することに。結果、「明るく、風通しがよく、開放的で、眺望のよい」住まいが完成しました。

光と人が集まる広い家にしたい。 丸ごと実現した、吹き抜けと2つのテラス
朗らかで、オープンな雰囲気のお施主さまが要望されたのは、「明るくて広々とした、人が集まる家」。吹き抜けで得られた伸びやかな空間を2つのテラスでさらに拡張したLDKは、思い切った階段の配置などで領域を分節。居場所がたくさんある、暮らしやすい空間となった。

ここまで開放的な平屋だから、自然満喫と落ち着く空間を両立!
窓いっぱいに広がる高尾の自然の景色、家のなかを通りぬける気持ちのよい風。存分に自然を味わえる家は、建築家の望月さんが家族と暮らすならと考えて設計した理想の家でした。

外に閉じ、中に開くコートハウス 隅々まで考え抜かれた190㎡の平屋
広く、制約の少ない敷地。一見すると恵まれた条件だが、選択肢が多いぶん設計は難しくなる。建築家、直井忍さんが導き出した答えは、周囲に閉じ、内へ開く、中庭を囲むコートハウス。一方、白を基調としたスタイリッシュな空間に憧れていた奥様の心を動かしたのは、建築家の自邸で体感した木の質感だった。蛇行する平面、中庭に向かって低くなる屋根、来客の目に触れない生活動線。目を引く仕掛けではなく、暮らす人への配慮を積み重ねた住まいを紹介する。

常識を疑え! 北?に開いたリビング、屋内?にもなる縁側
"南向き信仰"が根強い日本では、家を建てるとなると、多くの人が当然のように“南向きの大開口”をイメージすると思う。でも、敷地条件や設計の工夫次第では南に大開口を設けなくても、明るさも風通しも申し分のない家が出来る。里山のふもとに佇むU氏邸は、そんな当たり前のことを改めて教えてくれる家でした。

難条件をクリアして快適に。狭小地のハイデザイン・ローコスト二世帯
敷地条件や予算などの制約を逆手に取ったアイデアあふれる設計で、「ハイデザイン・ローコスト」という希望をかなえた建築家の角倉剛さん。プロならではの着眼点と高度なスキルをかけ合わせ、狭小地で快適な二世帯住宅をつくり上げるまでのストーリーを紹介する。

設計は建築家、内装・外装はデザイナー。子どもが元気に遊べる「小さくても広い家」
自邸建築にあたり、内装・外装は自らが手がけることを計画していたインテリアデザイナーのIさま。建築家の菅家 幹さんは空間設計のみを引き受け、床面積の数字以上に広く感じる「小さくても広い家」を実現。Iさまのセンスが光る内装デザインも必見だ。

