
祖父が設計した家が新たな形で生まれ変わる
メリット多数の「増改築」という選択肢
た建築家の鈴木隆介さん。新築のプランをいくつも作ったにも関わらず、あえて手間もか
かり難易度も上がる、既存の建物を活かした「増改築」プランも提案。施主のことを第一
に考えた増改築とは?
たくさん作った新築プランを捨て
施主にメリット多数の「増改築」を提案
依頼を受けた鈴木さんは、新築のプランをいくつも提案。Mさんも「いいね!」と前向きに捉えていた打合せの最後に、ふとMさんが思い出したように、「建て替えではなく、改修というパターンもありなの?」と発言したのだとか。
それに対し鈴木さんも「アリだと思う!メリットもいくつもある」と答えたのだという。
実は鈴木さん、新築のプランをいくつも作りながら、頭の中では「改修」というプランも温めていたのだ。
この依頼を受けたときに鈴木さんは、旧家の状態や図面を確認していた。この家は当時としては、珍しい壁式RC造の頑丈な建物で、施工会社の設計部に勤めていた施主の祖父が設計したものなのだという。
「図面から、『この建物が長く使えるように』と堅牢な設計とされたのだと感じました。その思いを、改修という形で継いでいくことが、施主の家族にとって最も良いことなのではないかと思ったのです」と鈴木さん。
また、改修にはコストメリットもある。一般的にRC造の建物は頑丈なため、解体作業に手間がかかる。場合によっては木造の2倍近く、数百万円もかかることもザラだ。しかし、既存の構造を活かすことができるならば、解体費用に加え、新たな構造体をつくるための費用もセーブできるのだ。
その一方で、改修は新築に比べて手間がかかるし制約も多い。せっかく出来上がった新築プランを捨ててまで困難な道を選ばずとも、新築プランを推せば良いのではないか?とも思うが、鈴木さんは意に介さない。
「経験的に、困難な条件だったほうが良い結果になることが多いのです。施主にとって何がベストかを考えた場合、改築が良いと感じました」と鈴木さん。施主の満足度のためなら、手間暇を惜しまないのが、鈴木さんの流儀なのだ。
こうして「改築」へと舵を切ったわけだが、それだけでは解決できない問題があった。
それは家の広さ。Mさんの希望をヒアリングしていくと、テレワークできるスペースなども含め、広さは約130㎡必要だということがわかった。しかし、既存RC棟は105㎡しかとれない。そこで鈴木さんは、様々な設備機器が入ることになるダイニングキッチン(16㎡)と洗面浴室(9㎡)をそれぞれ別棟として増築し本体と接続。RCの本体は、主に居室とするプランを提案した。
「箱型のRC棟だけでは、のっぺりとした空間になりがちです。別棟がくっつくことで、角が生まれ、それだけ多くの『居場所』『空間のメリハリ』ができるのです。構造的制約から既存棟の中では更新しにくい設備機器が入るDKと洗面浴室を増築するという案は、プラン的な合理性もあります。」と鈴木さん。
この「増改築」提案にMさんも「すごく良い!」と言ってくれたのだという。
CGや模型で周辺環境をくまなくシミュレート
うねる屋根で「開く」と「閉じる」を両立
もちろん、この形状には理由がある。それは「開く」と「閉じる」を両立させるため。
鈴木さんは、この家を設計する際、この家の周辺環境をくまなく調査したという。それで分かったことは、敷地西側には工場があり、西日はあまり当たらないということ。南西方向には交差点があり、高い建物が建つことがないこと。南面にはアパート、東面には住宅が建っているため、視線を遮る必要性があること。また、周辺の道路は交通量や人通りも多い。そんな環境の中、「プライバシーも確保しつつ、明るく開放的なLDKを」と考えた。
そのため、鈴木さんはアパートや隣家を3Dスキャンしシミュレーション。どこをどう目隠ししたら、LDKが丸見えにならないか、どの部分にどんな窓を設けたら、どのくらいの日差しが入るのかを検討していったという。
こうして導き出された結果が、このうねる屋根なのだ。
そして、この屋根のプランを盛り込んだ立体模型をつくり、見せたところ、Mさんは「おおー」と、驚いたという。この模型は、M邸だけでなく、周辺の建物や高低差までも忠実に再現されたもの。鈴木さんは、模型を作る際は、設計する建物だけでなく、周辺環境を織り込むのだ。そうすることで、施主は家が街とどのように関わるのかが理解できる。そのための手間暇は惜しまないのだ。
1.5階分の増築ダイニングキッチンが
RC内にまで明るさや開放感を生む
玄関を入ってすぐ左にあるのが和室。主にMさんのテレワークの場となっているという。「和室で仕事をして、デッキでリフレッシュするのが日課です」とMさん。
和室の隣は、元は居間と食堂がひと続きとなったスペース。現在は、ホールとリビングとなっている。ホールには、ピアノやデスクが設置され、子供たちの遊び場でもあり、リビングの延長でもあるユーティリティースペース。庭からの光が差し込み、明るく開放的な空間だ。
和室とホールとの間の壁には四角く開口を設けた。こうすることで、和室の西側の窓から、ホール、リビングへと視線が一直線に抜ける。構造上、壁を取り払うことはできないが、効果的な位置に開口を設けることで、開放感をもたらしたのだ。
開放感という点では、リビング上部にあたる2階の床をくりぬき、吹き抜けとした。そうすることで、リビングが光が降り注ぐ明るい空間となった。
リビングの先には、増築部分となるダイニングキッチン棟。ダイニングキッチン棟は1.5階分の高さがあり、ハイサイドの窓や庭に面した窓など、たくさんの窓がある、気持ちの良い空間。それでいながら、うねる屋根が適度に視線を遮ってくれるのだ。
これまで、堅牢ではあるものの閉塞感があった旧宅が、鈴木さんの増改築によって、プライバシーは守りつつも、明るく開放的な家に生まれ変わった。この家の出来栄えにMさんも「とても気に入っている」「子供たちも楽しく庭で遊んでいる」とコメント。ご両親も「設計した父さんも喜んでいるだろうなー」と言っていたという。
既存の建物を活かし、増改築することで新たな価値を生むことは、新築で建物をつくるよりも手間暇のかかるもの。鈴木さんは、周辺環境をしっかりと捉え、様々なシミュレーションを行い、いくつものプランを出す。施主にとってベストな提案を行うためには、その労力を厭わないのだ。鈴木さんは、これからも施主が大満足な家をつくり続ける。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 愛知の「M邸」 |
|---|---|
| 所在地 | 愛知県 |
| 敷地面積 | 210.5㎡ |
| 延床面積 | 137.73㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | M邸 |
撮影:植村崇史
設計者情報
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