
大勢の懇親も、家族の団欒も
内外2つのシンメトリーなLDKがある家
知らずに施主の案件を手掛けていた縁も
プロからも頼りにされる建築家
落ち着きのある黒色のスレート壁、窓の少ない閉じたファサード、前方にはの数台の車が停められるであろう広いスペースがあり、住宅街にひっそり佇むレストランか?と思うこの建物は、れっきとした個人の住宅だ。
この住宅を手掛けたのは、関西を中心に、住宅の新築やリノベーション、店舗やオフィスの内装など幅広く手掛ける建築家、市井洋右さんだ。
市井さんがTa houseを手掛けることになったきっかけは、付き合いのあった不動産会社からの依頼だったという。Ta houseの施主は、複数の店舗を経営されていて、その物件の紹介や内装の施工を手掛けていたのがこの不動産会社。その付き合いから、自邸の土地探しと建築を依頼された不動産会社だったが、個人住宅に携わった経験が少なかったことから、経験豊富な市井さんを頼ったのだった。
不動産会社は業務上、市井さん以外にもいくつもの設計事務所や工務店との付き合いはあるだろう。そんな中、内装に拘ったいくつもの店舗を持ち、いわば目の肥えた大事なお客様の自邸建築という大事な仕事に、市井さんを頼ったのはその実力を高く評価しているからに他ならない。市井さんは、「プロからも選ばれる建築家」なのだ。
「後からわかったことなのですが、過去にこの不動産会社さんのお仕事をお手伝いした案件の1つが、今回の施主さんの物件だったというご縁がありました」と市井さん。
こうして、Ta houseのプロジェクトがスタートした。
高低差や擁壁に問題のある土地
確かな力量で工期やコストのセーブも
50年ほど前に造成されたこの土地は、前面道路より1.2mほど高くなっており、裏側の道路からは2mほど高く擁壁が設置されていた。しかしこの擁壁が認定を取っておらず、このままの状態で家を建てることができず、多額の費用をかけ既存の擁壁を作り直さねば確認申請が認められない土地だったという。
そこで市井さんは、行政と折衝を重ね、土地を前面道路の高さまで掘り下げ土を取り除き、裏側の擁壁に土圧がかからないことで条件をクリアしたという。そのうえで掘り下げたことにより生じた両隣りとの高低差については、新たな擁壁を設けた。
「掘り下げたことで、トータルコストを低減しただけでなく、道路とフラットな土地となり、前面に広い駐車スペースを設けることもできました」と市井さん。
市井さんのアイデア力には驚かされる。
こうして土地問題は、クリアになったものの、もう1つ大きな壁が。それは工期の問題。年内には入居したいという施主の期待に応え、Ta houseはこれだけ大きな規模であるにも関わらず、現地調査開始から旧宅の解体や土地造成も含め、竣工まで約1年という期間で進められたという。
「私はなるべく、スピーディーに進めることにも重点を置いています。材料費や人件費が高騰していく状況の中、時間をかけていればそれだけ余計な費用が増えていきます。後から変更やトラブルが無いよう、お客様や施工会社としっかりとコミュニケーションをとって、1つずつ確認していくことも重要です」と市井さん。
市井さんが重視するのは、工期の圧縮だけではない。コスト面にも気を配るという。複数業者に相見積もりを取り比較することはもちろん、高くなってしまう部分に関しては、以前から付き合いのある業者と交渉し工務店に紹介するという。「やみくもに安い部材を使ったり、無理な値下げを要求するわけではありません。安かろう悪かろうにならないよう、さじ加減に配慮しながら進めています」と市井さん。
それができるのも、市井さんの豊富な経験と知見があるからこそ。「この部材だったら、このくらいで仕入れられるはず」「この工事なら、これくらいの工期で、この程度の費用」という金額感を把握しているのだ。だからこそ、見積もりとの誤差が少なく、予算調整のために施主や業者と折衝したり、部材の変更や図面の変更といったことなく、スムーズに工事に入れるのだ。
この市井さんの豊富な経験は、土地選びでも生かされる。今回のように土地購入前から市井さんに相談し、共に土地選びをすることで「この土地なら、こんな家ができる」「建物はこのくらいの費用感になる」といった、プロ目線のアドバイスもいただけるという。
内と外にシンメトリーなLDK
大人数も呼べる合計100畳の大空間
扉を開けて邸内に入ると、数多くのお客様をお迎えするに相応しい広さと上質さを兼ね備えた玄関が。片隅には、大きな丸太をカットしたオブジェが鎮座している。この玄関は、扉を開け放つとリビングと一体空間となるため、この丸太はベンチの役割も果たすのだ。もちろん、来客が出入りする際に腰掛けたり、手荷物を置く場としても使える。
室内に歩を進めると、目の前に広がるのが50畳もの広さのある、LDKの大空間。リビング部分の上部が吹き抜けとなっており、高さからくる開放感も感じられる。また、視線の先には、掃き出し窓が連なり、広々とした中庭が現れる。この中庭にも、テーブルやソファーが置かれ、まさにアウトドアリビング。この光景をみたゲストは、きっと「おおー」と感嘆の声を発するに違いない。
「この中庭は、LDKとシンメトリーな設計としています。窓を開け放つと100畳の大空間となるんです」と市井さん。よく見ると、中庭の奥にもキッチンが据えられており、内と外2つのLDKになっているのだ。中庭のある家は数多あれど、ここまで広くさらに内と外に2つのLDKが鏡写しのようになっている家は、日本広しとはいえここにしかないだろう。
広いLDKを叶えるだけであれば、内部のLDKをもっと大きくすることもできたはず。しかし、あえて内外2つのLDKがあることがポイントなのだ。別々の空間にできることで、外でBBQをすることができる。煙やニオイが室内に入ってくることもないし、暑くなったら冷房の効いた室内に逃げることもできる。夏には、大きなプールを設置することもできるだろうし、家具をどかせば、子供が走り回れる遊び場としても使うことができるのだ。
2つのLDKというアイデアによって、市井さんは無限の可能性を生み出したといっても過言ではない。
この大胆な提案を見た施主も「こんなに広いLDKが取れるんだ。テンションが上がります!」と大絶賛。そのまま採用になったのだという。
この家は、たくさんの来客が来ることを想定したある意味、迎賓施設ではあるものの、家族にとっては、日常を暮らす生活の場でもある。市井さんは、暮らしやすさも忘れてはいない。キッチンの裏手には、パントリーやランドリールーム、洗濯室やWICといった、プライベートゾーンが並び、生活動線にもしっかり配慮がなされている。浴室は、中庭に面していて、窓を開ければ露天風呂気分も味わえる。もちろん、窓にはロールスクリーンが仕込まれていて、目隠しできるようにもなっている。
2階は、家族の個室を中心としたプライベートゾーン。ゲストルームも設けた。吹き抜けに面したホールには、トレーニング用のマシンを設置。「サイズや動線、家との調和を考えて、マシンをセレクトして配置しました」と市井さん。
この家の出来栄えに施主も「スタイリッシュでびっくりするくらい格好いい空間ができて驚いている」「家づくりがとても楽しく有意義だった」とコメントを寄せてくれた。
Ta houseは、多くの人々が訪れ、非日常的空間で、語らい寛ぐパブリックな場であることと、家族が日々の生活を楽しく便利に過ごす場であることを、見事に両立してみせた。それは市井さんのこれまでの経験と、施主に寄り添う姿勢だからこそ為せる業。市井さんは、施主それぞれに応じた最適な提案をし、施主と共に家をつくってくれる建築家だ。自分の思描いたとおり、いや想像以上の家がほしいなら、市井さんに連絡をしてみるのが近道なのかもしれない。
基本データ
| 作品名 | Ta house |
|---|---|
| 所在地 | 大阪府堺市 |
| 敷地面積 | 426.56㎡ |
| 延床面積 | 251.75㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 1億円台 |
撮影:太田 拓実
設計者情報
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