
築34年の民家を再生するプロジェクト
本来の家屋の価値を保ちながら、付加価値も
リフォームとリノベーションを区別しない
予算の制限内で新たな空間を生み出す工夫
冒頭でご紹介した通り、この作品の最大の特徴は、プランの根底にある“リフォームとリノベーションの融合”という考え方だ。
その考えに至った背景を、まずはご紹介しよう。
既存の建物は築34年の民家。このプロジェクトはお施主様がこの建物を購入し、岩竹さんに改修を依頼するところから始まった。
主な要望は2つ。
・奥まった位置にあったキッチンをオープンな場所に移動させたい
・南側の瀬戸内海の眺めと北側の木々の緑豊かな環境を活かしたい
というものだった。
課題となったのが、予算だ。延床面積が270.11㎡という、かなり広い物件の改修となる。
お施主様の依頼内容は特別なものではないが、施工範囲が広いのでコストをかける場所の優先順位をつけざるを得ない。
現地調査を終えた岩竹さんは、こうした制約がある中でどのようなプランとするかを熟考した。そしてたどりついた結論が、“リフォームとリノベーションの融合”という考え方だった。
発想のきっかけとなったのは、既存建物がとてもしっかりとしたものだとわかったことだ。丁寧に施工され、施工時の写真や図面も残っている。とても大きな梁も、非常に良い状態に保たれていた。
この既存建物の長所を活かし、手を入れすぎずに、なおかつ新しく住まう人のライフスタイルに合った空間をデザインしたい。単純にコスト内で収まるリフォームではなく、新たな価値を生み出すリノベーションができないか。
そんな想いから生まれたのが、“リフォームとリノベーションの融合”だった。
実は岩竹さんは、リフォームやリノベーションの経験が豊富にあった。
「これまで私は、リフォームとは表面の化粧であり、生活の質や機能面の改善ではないと思っていました。一方でリノベーションは空間のすべてを変えられるが、予算がかかります。今回は予算面での制約と既存建物の状態が良かったため、リフォームの可能性を広げることはできないかという考えにたどりつきました」。
お施主様の要望に応えるリノベーション
キッチンを移設し、天井に開口部を設置
基本的な考え方は、お施主様の要望を実現する部分と、生活の質を大きく変える部分のみを“リノベーション”といえる規模で実施。それ以外の部分は工夫をこらした“リフォーム”の手法で、可能な限り新しい空間を作り上げることにした。
お施主様の要望であるキッチンの移設は大がかりなもので、リノベーションに該当する。
奥まった位置のキッチンは、瀬戸内海を望むことができる南の窓側に移設。ダイニングと一体で使えるものとした。一方で、オープンな場所になるため、物があふれたり見えないように、大きなパントリーを設置した。
パントリーの壁材には、古くから瀬戸内の島々で外壁材として、なじみのある焼杉を採用。室内でも、外の気配を感じられるという利点もある。
もう一点、大きなリノベーションともいえる改修をおこなった。リビング・ダイニングの天井に、広い開口部を設けたことだ。部分的な吹き抜けと表現することもでき、開口部からは立派な梁や構造材を見ることができる。
これはお施主様からの要望ではなく、岩竹さんが提案したものだ。岩竹さんはその意図を、こう説明してくれた。
「しっかりとした大きく太い梁や構造材を、毎日の暮らしで目にして欲しいと思ったのです。この部分は、丁寧に建てられたこの既存建物の良さを示す、特徴的な場所だったからです」。
「丁寧に施工された小屋組を眺めながら生活をし、過去にも思いをはせることができる。新しい生活空間が、豊かな空間に生まれ変わることを目指しました」。
この吹き抜けのような天井の効果は、とても大きい。リビングでもダイニングでも、立派な梁をいつも目にし、満足感を感じられるからだ。そのため、屋根裏に梁を照らす間接照明を組み込み、どの時間帯でもその構造を見ることができるように設計されている。
また、大掛かりに見えるが、実はそれほど大変な工事にならないように開口部の位置が調整されている。
予算をかける“リノベーション”の部分は、最小限だが大胆に。そして効果が最大となるように、考えられている。
詳細はぜひ、写真の説明文をご参照いただきたい。
新たな素材を最大限に活用
リフォームで空間の質を変える試み
既存の素材の上から仕上げ上張りするようなリフォーム的な手法を肯定的にとらえ、それを用いながら空間の質を変えるようなことができないかという試みだ。
もっともわかりやすいのが、壁紙だろう。広い面積を対象とするため、その効果と影響は大きい。
岩竹さんは塗り壁用の下地に使われる壁紙を、仕上げ材として使用した。もちろん、コスト面を考慮している。しかし、それだけではない。
通常の壁紙は、継ぎ目が目立たないように貼られる。しかしこの作品では、あえて和紙を貼るように重ね張りとした。目地をデザインのひとつとして捉えたのだ。その結果、落ち着きのある空間を創り出すことに成功した。
その他にも、浴室やキッチンのタイル、造作した家具など、できる限りの工夫が施されている。それらの工夫についても、ぜひ写真の説明文をご参照いただきたい。
こうして改修が終わった。お施主様は当然満足しており、次のようなコメントを残してくれた。
「既存の梁や土壁を引き立てる天井の開口と壁の仕上げ、造作家具の寸法・ディテール、照明の選定に至るまで全てが緻密に計算され、丁寧に作り込まれています」。
「もはや生活を支える器としての機能を超え、住む私たちに感動と喜びを与える存在になりました。視覚的に美しいだけでなく、つくり手の誇りと献身が感じられるこの家をこれから大切に住み継いでいきます」。
岩竹さんは常に、次のような考えで設計しているという。
「お施主様の要望は実現します。しかし、それ以上の付加価値がある提案を追加するようにしています」。
「多くの方にとって家は一生に一度のものです。ライフスタイルの変化もあるはずです。状況が変わっても柔軟に対応できる設計を心がけています」。
いかがだろう。自分たちの要望を実現するだけでなく、このように予算内で自分たちが想像もしなかった提案をしてくれる建築家をお探しの方は、いちどコンタクトしてみることをお勧めしたい。
基本データ
| 作品名 | 阿品の家 |
|---|---|
| 所在地 | 広島県廿日市市阿品 |
| 敷地面積 | 390.7㎡ |
| 延床面積 | 270.11㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども1人 |
撮影:足袋井竜也
設計者情報
この建築家が建てた家
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