
リノベーションで再発見した、抜群の住環境
築90年の長屋で緑豊かな暮らし。
ひとつの空間にふたつのリビング。
庭園の緑をどこからでも
その長屋のうちのひとつ、奥さまの両親の持ち物だった建物をリノベーションし、自邸にすることに決めたTさま夫妻。設計を担当したnote architectsの鎌松亮さんは、家の裏に緑が広がる貴重な環境を、最大限に生かした家にしたいと第一に考えたという。
リフォーム前の建物もほかと同じく、築90年ほど。2階は和室とリビングで構成されていたが、庭園側の和室と道路側のリビングの間には階段室があり、リビングからは庭園が見られないつくりとなっていた。
そこで、まず和室とリビングの間の壁を取り払い、大きなひとつの空間に変更。2階と3階を繋ぐ階段は、視線を遮らないようスケルトンにつくり変えた。
ゆったりとしたワンルームになった2階。どこにいても庭園の緑が感じられる空間の贅沢感を最大限に享受できるよう、2階は家族が集まるスペースとして計画。中心にアイランドキッチンを置き、その両側に性質の異なるふたつのリビングを配置した。回遊性がある空間で、1階へ、3階への動線も含め移動がしやすく、どのエリアへも自然な流れで行けるようになっている。
道路側のリビングは、主にテレビを楽しむスペースに。キッチンとの位置関係を整え、「料理をしている間もテレビが見られるように」という要望も叶えた。
歴史を直に感じられる空間にすべく、リノベーションでは躯体現しにするプランを立てていた鎌松さん。実際に床や天井を剥がしてみて、初めてわかったこともあったという。「庭園側、以前は和室があったエリアは過去に増築された場所でした。フラットだと思っていましたが、剥がしたら和室のエリアの床が他の箇所より1段上がっていたのです」と話す。
発見された段差はリノベーション後にも生かされている。ワンルーム空間の一角に設けられた段差として活用され、領域を緩やかに分けることに役立っている。床が上がった位置に設けた庭園側のリビングは、窓際に幅の広いベンチを配置。読書を楽しんだり、緑を眺めながらほっとするひとときを過ごしたりするのにうってつけのスペースとなった。ご夫妻は、まずベンチに座って窓の外を眺めることから一日が始まるようになったと喜ばれているそうだ。
素材や色調にもこだわって、
室内に引き込んだ緑をより魅力的にする
庭園側リビングのベンチや、キッチン背面の収納棚は造作し、システムキッチンにも側板を貼って同じ色で揃え、色調を整えた。「緑を楽しむ視点からも、シナ合板の木目をそのまま見せるより雰囲気よくできるのではと考えました」と鎌松さん。
庭園の緑を余すことなく楽しむために、緑を室内に引き込む工夫もたくさん施されている。緑に近い庭園側リビングの1段上がった床は、白く光沢がある素材が用いられ、窓から入ってきた庭園の木々が反射する。さらにはキッチンのステンレスのレンジフードや、人工大理石の作業台にまで緑が映り込み、まるで庭園の中に入り込んだような緑あふれる空間ができた。
室内に引き込んだ緑をより魅力的に見せることにもこだわった。現しとした壁面や天井は、一見シンプルな白に見えるけれども、実はほんの少し赤を混ぜた色を塗装した。赤と緑は補色関係にあることから、こうすることで緑がより鮮やかに引き立って見えるのだという。光の当たり方で白くも赤っぽくも見える壁面は、室内を立体的に、表情豊かにしている。ほんの少し色が変わるだけで奥行きも感じられるのだから驚きだ。
「室内のどこかに磁器質タイルを」という要望は、道路側リビングのテレビをかける壁面に取り入れ、実現した。一般的に横向きに貼ることが多いという長細いタイルを縦向きにデザインし、個性的でおしゃれに仕上げている。
シンプルに見えて、実はさまざまな要素や意図が込められた2階の空間を、鎌松さんは「すべて組み合わせて総合的に判断した結果です」と言う。大事にすべき考えや、叶えたいスタイル、取り入れたい要素など、たった一つ小さなことが変わるだけで全体が変わることもあるのだそうだ。この調和が取れた空間は、妥協がない計算の上で成り立っている。
町の人たちに親しまれた風景を守り、
再び快適に住まう家にするリノベーション
洗濯物は室内干しを希望されていたため、洗面脱衣室に物干しパイプをとりつけた。加えて水回りの隣にクローゼットを配置し、洗濯にまつわる動線をコンパクトにまとめた。
1階の玄関は、ご主人のバイクの置き場所を兼ねている。1階の大部分はご実家の仕事にまつわる倉庫となっている都合から、バイクがちょうど入る寸法の、長細い玄関となった。そんな中でもメンテナンスがしやすいよう、家に上がる床の段差を利用して道具の収納棚を計画。ベンチのように座って作業ができて、とても便利だという。また、靴もすっきりと収められるようになった。
玄関と2階への階段の仕切りには扉を配置し、外からの冷気・暖気が室内に入り込まないようにした。また、家全体としては勘所をおさえて壁や床の一部に断熱材を入れたり、窓をペアガラスにしたりして断熱性を高めている。
建物の記憶は、誰かの思い出でもある。築90年という長い間、街の人たちに親しまれてきた建物を残し、次の世代へ繋げていくことがどんなに大切かは想像に難くない。残すだけでも大変なのに、お施主さまの生活スタイルに合わせてリノベーションが施されたことにより、またここで生活が始まるのだ。新たな思い出が増えていくことを、きっとこの生まれ変わった「清澄長屋」も、喜んでいるだろう。
間取り図
基本データ
| 作品名 | 清澄長屋 |
|---|---|
| 所在地 | 東京都江東区 |
| 敷地面積 | 49.27㎡ |
| 延床面積 | 97.71㎡ |
| 家族構成 | 夫婦 |
| 予算 | 〜2000万円台 |
撮影:河田弘樹
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

明るい吹き抜けのLDK!いつも家族の存在を感じられる家。
共働きということで、休日に一気に洗濯などの家事をこなすというGさんご夫婦。そんな多忙なGさんが望んだのは、家事動線が良く、どこにいても2人の子どもたちの存在を感じられる家だった。随所に建築家・江藤さんのアイディアとセンスが光る、Gさん邸の家づくりを紹介しよう。

築古民家をサスティナブルな人気物件に。 設計の力でTotal winなリノベーション
築古の民家の店舗用リノベーションに協力した、ムービング・アーキ一級建築士事務所の李孝哲さん。どんなテナントがどんな風に使うかわからない中、汎用性の高いサスティナブルな空間を設計。早々に入居が決まる人気物件に生まれ変わらせた手腕とは?

本棚のある階段で、ゆったり自分時間 ほどよい距離感が心地よい住まい
狭小敷地で「リビングを中心に、多彩なスペースで家族が思い思いに過ごせる家」という要望に応えた建築家の片山正樹さん。完成した家はのびやかな空間にさまざまな居場所があり、家族つかず離れずの距離感が心地いい。この家の魅力の源となった「階段を生活空間に取り込む設計」とは、どんなものなのだろうか?

【注文住宅の事例集】NY風 一戸建て 大田区 小嶋良一さん
週に一度は映画を見るのが日課となっているご夫婦。スクリーンを通して、あらゆる地域の多様な暮らしを目にしていたが、とりわけParisやNYのライフスタイルに強く惹かれていた。二人が求めたのは、機能を満たす箱ではなく、趣のある空気感だった。

完成後の暮らしが楽しみになる。 ミニマルな設計で叶えたゆとりある家
ビルをリノベしたようなラフな雰囲気の家を希望されていたお施主さま。予算の都合もありRC造ではなく木造で家を建てることになった。建築家の藤本さんはお施主さまのライフスタイルや趣味に合わせてメリハリを効かせたコストダウンを提案。趣味のDIYも存分に楽しめる、明るく気持ちのよい空間ができた。

施主と建築家の信頼関係があればこそ実現!2年の歳月を掛け、こだわりが凝縮した住宅
注文住宅の魅力とは、「自分たちのために、世界に1つだけの家が建てられる」ことに尽きるのではないでしょうか?間取り、素材、内外装のデザイン等々…。人が家にあわせるのではなく、自分たちのライフスタイルにあった家を創造できる、まさにフルオーダーメイドの住まいといえます。そして、住む人の理想を具現化していくのが建築家の役割です。今回は、こだわりのある施主と、この家を手掛けた上原和建築研究所代表・上原和さんが築き上げた、お二人のゆるぎない信頼関係があればこそ実現した家づくりをご紹介します。

ホムパしたい!間取り変更で24畳のリビングをカフェライクに!
2匹の犬と暮らす施主のNさんが行ったのは、リフォーム済みのマンションを自分流にアレンジするためのさらなるリフォーム。3LDKの間取りを2LDKに変更して完成したのは、人を招いてホームパーティを開くのが好きというNさんらしい、カフェのように洗練された空間だった。

時を経るごとに山の一部になっていく。 2つの眺望が楽しめる未来の古民家
四国山地の小高い山の中腹にある「Zen」。贅沢な眺望と、四季折々の山の美しさを堪能できる、古民家のような家を望んだお施主さまに、建築家の坪井さんは平屋を提案。環境や風土そのものを大切に考えられた家は、山になじみ風景の一部へと変化していく。

旗竿地でもこの明るさと開放感 人目を気にせず家族時間を楽しむ家
こちらは、山並みを思わせるユニークな外観が目を引く東京・世田谷の一軒家。魅力はなんといっても、旗竿地とは思えないのびやかな住空間。プライバシーを守りつつ明るさや開放感をかなえ、さらには愛着の湧く個性もプラスしたプランニングの魅力を探る。









