
20を超えるプランで実現した二世帯住宅
青森の寒さも凌ぐ、家族の程よい距離感の家
平均3カ月、提案30超えの対話
納得するまで可能性を探り抜く流儀
この家が建つまでには、ある出会いがあった。
Tさんはもともと、この地で築50年以上の家に住んでいた。老朽化が進んでいることや「青森の寒さや地震にも耐えうる家にしたい」と考え、住宅メーカーの展示場や工務店にも訪れたものの、なかなかピンとくる会社とは出会えなかった。
そんな状況を友人に話したところ「信頼できる建築家がいるよ」と紹介されたのが、青森県を中心に活動する、エス・アイ・アール建築計画事務所の木村さんだった。
「ご紹介いただいた方とは、過去に別のお仕事をご一緒していました。新たなご縁をいただいただけて、とても嬉しく感じました」と木村さんは振り返る。
Tさんは、早速エス・アイ・アール建築計画事務所のウエブサイトを確認。「この人だったら良さそうだ」と直感し、その日うちに、木村さんと会う段取りを整えた。
木村さんは長年のキャリアを通じ、住宅はもとより、店舗や施設、オフィスに寺社など幅広いジャンルの設計を手掛けてきた。さらに木村さんは、抽象画を描く画家として、音楽イベントを通じて地域活性化に寄与するプロデューサーという、多彩な顔をもつ異色の建築家だ。
元の住宅を見た木村さんの第一印象は「当時としてはとても立派な家です。ただ、青森の気候や現在の耐震基準などを考えると、改修するより建て替えたほうが良いだろう」と感じたという。この感覚はTさんも同じで、建て替えで話が進んだ。
家づくりにおけるTさんの要望はシンプルだった。「冬暖かく光熱費を抑えられる家」「2つの家族がプライバシーを守りながらつかず離れずの距離で過ごせる家」「4台分のガレージのある家」という大きな方針のみ。細かな「あれを入れたい」「こうしたい」という注文よりも、「自分達の想いを汲み取った提案をしてほしい」というタイプ。建築家に家づくりを依頼するのにぴったりなタイプの施主だったといえるだろう。
建築家にもいろいろなスタイルがある。施主の好みや真の願いを捉えるために、特別なヒアリングシートを使う人、直接の対話に時間をかける人。プランの提示も、複数案をたたき台とする人もいれば、渾身の一案を提示するというタイプもいる。
木村さんは、ヒアリングにじっくりと時間をかけるタイプだ。
「私は会話を一番重要視しています。会って話をしながら要望を聞き出したり、真の願いを感じ取ったりするんです。平均すると3カ月くらいはかけますね」と木村さん。
一生に一度の買い物ともいわれる家づくり。大切なお金がかかるものであるからこそ、本当に叶えたいことを掴む必要がある。施主の思考の整理のためにも、たっぷりと時間をかけるのだ。
そして木村さんのスタイルでさらに驚かされるのが、プランの提案数だ。一般的に、ヒアリングに時間をかける建築家は渾身の一案を示すタイプが多い。しかし木村さんは1回の打合せで5案を出すこともしばしば。トータル30パターンにもなったということも珍しくないなのだとか。
この尽きることないアイデアと、アウトプットへの情熱こそが、多彩な顔をもつ木村さんの原動力。「こんな可能性があるなと、アイデアがどんどん湧いてくるんです。それをお客様に提示して、フィードバックをもらうと、また違ったアイデアが出る。基本設計の段階でしかできないですから、あらゆる可能性探ります」と木村さん。
コンセプトが全く違う案もあれば、部分的なバリエーション違いもあるとはいえ、ここまで手間暇を惜しまない建築家も珍しい。いくらヒアリングに時間をかけ、何十といったプランを出したとしても設計料が上がるわけではない。それでも木村さんは意に介さない。「施主が納得して決断してもらえることが一番」。そう考えるのが木村さんの仕事の流儀だ。
施主の納得と理想のため、採算度外視でアイデアを出し尽くす。Tさんの案件でも、提示したパターンは20を超えたという。
「こんなプラン、ハウスメーカーからは絶対出てこない」とTさんに言わしめた木村さんの提案は、こうして形になっていった。
4台分のビルトインガレージと分離型二世帯
高断熱・蓄熱で青森の冬も暖かく快適な家
外観は、白と黒の重厚感あるカラーリング。T邸は、木村さんが過去に手掛けた「ZERO」という建物の要素を発展させたもの。手前は四角いボリューム、後方に片流れ屋根のボリュームがくっつくL字の構造となっている。
大人1人1台、計4台分のビルトインガレージ。その中央が共有のエントランスとなっている。吹き抜けの天井からは光が降り注ぐ。
二世帯住宅には、いくつかのパターンがある。玄関、キッチン、風呂場まで全て共有するシェア型、玄関や風呂場は共有するもののキッチンはそれぞれの世帯別にあるといった部分共有型。そして、玄関もお風呂場も全てそれぞれにある完全分離型だ。今回、木村さんとTさんが選んだのは「家族のプライバシーと程よい距離感」を保つための「完全分離型」だ。
T邸では左右で親世帯・子世帯、それぞれの玄関を持つ構造とした。
親世帯は、将来の階段の上り下りを考え、基本部分を1階に集約し、一部を2階に。子世帯は2階とした。子世帯の主な生活スペースは建物前方のガレージの上に配置することで、生活音が下に響かないゾーニングとなっている。
親世帯の玄関を入って進むと30畳を超える広さをもつLDKが現れる。白い壁にフローリング、杉板の天井をもつ温もり感じられる空間。一部が2階まで吹き抜となったLDKは、南側の大窓・高窓から光が差し込みとても明るい。この窓は単なる明かり取りのためだけのものではない。トリプルガラスで断熱されているうえ、下がコンクリートの土間となっているため、太陽光や薪ストーブの熱が蓄熱される仕組みだ。
この土間は、外のテラスとシームレスに繋がり、気候の良いときなどは一体的に使えるアウトドアリビングにもなる。実際、夏にはBBQなどを楽しんでいるという。
「グラスウールに加え、スタイロフォームで内外断熱しています。開口は大きいですが、断熱性能が高いので暖房コストを抑えられます」と木村さん。北国の冬の厳しさに対し、高断熱化と蓄熱効果を組み合わせることで、暖房コストも低減した。
キッチンは、リビングが見渡せて動線の回遊性が高いアイランド型。背面には大きな収納も設け、食器や食材の収納性も高めた。
リビングの脇には、琉球畳に網代の天井をもつ和室。大きな仏壇は、来客時には目隠しできるよう扉もつけた。
Tさん夫婦の寝室は、建物の一番奥の静かな場所に配置した。大容量のウォークインクローゼットは夫婦それぞれの分があり、数百着の服も余裕で納められるほどの広さだ。
階段を上った先にあるのが、客間やワーキングスペースとしても使える多目的室。ここから子世帯と共有のバルコニーにも出られる仕組み。
子世帯の玄関を入ると、そこにあるのは、大容量のシューズクローク。将来子供ができたときなどには、ベビーカーなどを置くのにも重宝することだろう。またここには、2階へ上る階段だけでなく、親世帯のキッチンへの直通扉もある。親世帯・子世帯の行き来は、いちいち外に出ることなく行える絶妙なアクセスだ。
2階のLDKは約22畳。南側にはいくつも窓があり、太陽の光を導いている。キッチンはこちらもアイランド型で、回遊性も高い。
子供室は約12畳。ここは将来間仕切りを入れることで2分割して使えるように左右対称につくられてあるという。
一つ屋根の下で暮らす2世帯でありながら、メインで生活するゾーンが被らないようにし、生活音の低減を図るゾーニング。「プライバシーを守りながらも程よい距離感」を実現した建物となった。
この家の出来栄えに、Tさんも「大きな窓は、夏は日差しを防ぎ、冬は暖かく、冷暖房費が予想以上にかからないのが嬉しい。動線も無駄なく使い勝手が良く、吹き抜けのある豊かな空間は毎日の生活に安らぎを与えてくれています。薪ストーブも芋を焼くなど、料理なども楽しんでいます。息子夫婦との絶妙な距離感がなんともいえません。」と大満足のご様子。
「完成時に素晴らしいといっていただけることはもちろんなのですが、しばらく住んだのちに『改めて良さを実感した』『こんなとこまで考えてくれていたんだ』といっていただけるのは、建築家冥利に尽きます」と木村さんは語る。
この施主の満足のために、木村さんは今日もまた「手間暇を惜しまない」。
基本データ
| 作品名 | ガレージのある二世帯住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 青森県 青森市 |
| 敷地面積 | 671.47㎡ |
| 延床面積 | 343.81㎡ |
| 施主 | T様 |
設計者情報
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