黒い箱の中にはこんな豊かな空間が!
白・黒・シルバーで統一された家
「ha」 hosaka hironobu architect associate
デザイン性だけでなく居住性も魅力
説得力のある説明と、納得の議論が決め手に
この家を手掛けたのは、デザイン性と居住性を兼ね備え、生活に豊かさをもたらす住宅をつくりだす、「ha」の保坂さん。
施主のSさんは、「デザイン性を追求しながらも、住みよさもある家に住みたい」という思いをもち、戸建て住宅の取得を目指し土地を購入していた。住宅メーカーや他社も検討する中、インターネットで見つけた1社が「ha」の保坂さんだったという。
連絡をとり、打合せを行い、その後見学会にも行ったというSさん。
「シンプルかつ独特のデザイン性に惹かれた」「居住性にも十分配慮がなされていることを知った」「この人であれば、私の理想の実現に向けてリードしてくれるのではないか?」と感じ、保坂さんプランを提案してもらうことになった。
他社案とも比較検討した結果、保坂さんに正式に依頼をすることとなるのだが、その決め手となったのは、プランの秀逸さはさることながら、保坂さんの対応力だったという。
「他社は、施主の言いなりに設計案を修正してくれるが、逆にそれがかえって頼りなく感じた」「保坂さんは、自分のプランへの自信と説得力があり、納得いくまで議論につきあってくれた」とSさん。施主の希望を言いなりで取り入れることは、実は容易い。しかし施主の希望を唯々諾々と受け入れることは、必ずしも良い建築に繋がるわけではない。プロとしてしっかりと理由をもち、主張をするべきところはする姿勢こそが誠実さの現れだ。保坂さんは、説明を尽くすことを心掛けたという。
「Sさんからの『これにはどういう意味が?』『何のために?』というご質問も、ご納得されたいのだとわかっていました。またSさんが、しっかりご理解いただける方だったことも大きいと思います」と保坂さん。
こうした姿勢が「この人に家づくりを頼みたい!」と思わせたのだ。
白・黒・シルバー3色統一に
吹き抜けを用いた大らかな空間を提案
まずはプランの前提条件となる、土地の環境と施主の希望だが、保坂さん曰く「自由度が高い」ものだったという。
この土地は、前面道路の高低差のない整形地。隣や裏側にはアパートや住宅が迫っているものの、約100㎡もの広さをもち、しかも日影や斜線規制を気にすることなく3階建てができる土地だった。
Sさんのリクエストはというと「広いリビングをもつ3LDK」「駐車スペース」ということ以外に、細かな要望はなかったという。
「具体的な希望はないけれど『憧れを形にしてほしい』という思いと『どんな提案があるか期待されている』と感じたので、腕の見せ所だなと思いました」と保坂さん。
その期待への応えとして保坂さんが考えたのが、ここでしかできない「大らかな空間」にすることと、建物内外のカラーリングを白・黒・シルバーの3色で統一することだった。
おおらかな空間に関しては、箱型のフォルムの内部を単純な3層で分割するのではなく、吹き抜けを用い、空間を繋げることで、立体感や開放感、光の差し込み、風の通り道を作ること。
「Sさんとの議論の中からインスピレーションを受けた」と保坂さんが語る、白・黒・シルバーでの色の統一は、スタイリッシュさや、どこか男っぽくて武骨なイメージを持たせ、生活感を消すためのものだ。
この提案にSさんも、驚きや楽しさを感じるとともに「想定していなかった白・黒・シルバーに抵抗感があった」と語るが、「設計途中や完成時にはこの色の統一感が一番のお気に入りポイント」なのだという。
「黒は強さがあるので、敬遠されるお客様もいます。また、自分がこの家に住むという実感が沸かずに戸惑われることもあります。しっかりと説明をさせていただき、ご納得いただけました。Sさんの受け入れる度量の広さがあったからこそ、良い結果に繋がったと思います」と保坂さん。
保坂さんのもつ、施主の憧れを的確に捉える力、大胆な発想からの提案力。説得力のある説明。そしてそれを的確に理解し受け入れるSさんの力、いわば施主力があったからこそ、この家が出来上がったと言えるだろう。
高さも広さもデザインも兼ね備えたLDK
人々が集い、新たな設計の依頼も
真っ黒い箱のような外観は、左官仕上げの塗装。「より真っ黒で、良いものをとサンプルをいくつも取り寄せて決めた」という。実際、数年経った今でも、当時と同じ黒さを保っているのだとか。
この箱に、大小さまざまな四角い窓が設けられている。この窓は、もちろん外観のバランス、プライバシーの確保はもとより、室内への採光、風の通り道など、様々な要素を勘案した上での絶妙な配置だ。
扉を開け、玄関に入ると目に入ってくるのが、白い壁と一直線に伸びる階段。2階テラスの扉やスケルトン階段から降りてくる光が、白壁に反射して驚くほど明るい。
左側にあるのが、ご主人の趣味室ともいえる書斎。置かれている家具や自転車も、白・黒・シルバーで統一したという。
この先にあるのが、アウトドアリビングにもなるデッキスペース。3層分吹き抜けの中庭とすることで、室内に光を採り込む役目もある。また保坂さんは、このデッキに面する形で、洗面とお風呂を配置。浴槽を床に埋めるように設計することで、浴室を広く見せるとともに、視線を下げ、浴室から中庭上空を見上げられるようにした。いわば露天風呂を作ったのだ。
2階に上ると、そこには2層吹き抜けの大空間が広がる。白い壁、黒いタイルの床にキッチン、家具。さらにシルバーのテーブルや柱、階段の手すり。見事に3色で構成された空間。暗い色が多用されているにも関わらず、さまざまな窓から入ってくる光が、白壁に反射して室内を明るく照らしている。LDKという生活の場でありながらも、モノが置かれておらず生活感がないのは、大容量の壁面収納があるから。
「実はこの家は木造なのです。木造でこの大空間を作るには多くの耐力壁を入れねばなりません。その出っ張りを収納内部に収めているんです」と保坂さん。
耐力壁という建築に必要であるものの、デザイン性を損ねてしまうものを、大容量の収納棚にするというアイデアで「構造」「デザイン性」「利便性」といういくつもの要素を兼ね備えてしまう保坂さんの力量には驚かされる。
3階は、寝室と子供部屋というプライベートゾーン。LDK上空を取り囲むように、両部屋を行き来する通路と、キャットウォークを設けた。
「キャットウォークは、床の構造体でもあり、南側の一番大きな窓のブラインドを開け閉めする通路でもあります。そして、空間に余白や豊かさをもたらす場でもあるんです」と保坂さんは語る。実際、現在では絵や置物が飾られ、ギャラリー的な使われ方をしているという。
この家の出来栄えにSさんも、「この限りなくシンプルな空間を損なわずに住んでいきたいとモチベーションが上がった。現在もそれを維持しています」「デザイン性と居住性の両立が期待以上のレベルで実現でき、とても満足している」とコメントを寄せてくれた。
「これまでに何度もお家に呼んでいただきました。引き渡し時と変わらない生活をされていることをとても嬉しく感じています」と保坂さん。
引き渡し時と唯一変わった点が、人が多く集まるようになったということ。友人や職場の同僚などを呼び、自慢の我が家でのひと時も楽しんでいるという。
そして訪れた人の中から、新たに保坂さんに家づくりを依頼する人も出たという。保坂さんは、施主と真摯に向き合い、シンプルな外観からは想像もつかない、スタイリッシュで豊かな空間を作りだす。その力量に魅了される人が多いのも納得だ。
基本データ
| 作品名 | three colors |
|---|---|
| 所在地 | 東京都江戸川区 |
| 敷地面積 | 99.9㎡ |
| 延床面積 | 135.27㎡ |
| 予算 | 4000万円台 |
| 施主 | S邸 |
撮影:アダボス 足立
設計者情報
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