
日々の暮らしをもっと楽しく!
室内外を行き来できる回遊する家

田中 朋久
たなか ともひさ
田中朋久建築設計事務所
東京都 目黒区
私は小さい頃、アメリカで7年間生活をしました。世界を見ることで世の中には多種多様な考え方があることを知り、また異文化に触れることで、日本により愛着を持つようになりました。日本の街並みや建物は清潔で機能的ですが、環境形成の行為にはもっと関わる人々の独自性や主体性が介在すべきだと思っております。居心地の良い良質な空間を作ること、そして愛着を持って長く使っていただくこと、それがより良い環境を持続させていくことに繋がっていくと考えております。そのような建築を一つでも多く作ることができれば幸せです。
美しい屋敷林を見下ろす2階の居住空間
「Oさんは建築にも詳しいですし、モノづくりへのこだわりも強い人。それだけにOさんからの期待も大きかったですし、私としてもやりがいがありました」と、振り返る田中さん。Oさんご夫婦と理想の住まいを話し合うなかでテーマとして据えられたのが「薪ストーブを中心に据えた、自然と共存する家」だった。
そんなOさんご夫妻のために田中さんが考えたのは、建物を北側に寄せ、隣の屋敷林を望む2階に生活空間を置くプラン。中心にはキッチンを据え、日当たりの良い南側にはダイニング、屋敷林を見下ろす東側にリビングを設けることにした。「2階から見えるはずである自然の景色がとても魅力的だったので、外の景色をうまく取り込めるよう部屋の配置を考えました」と話す田中さん。キッチンからは料理をしながら四季折々の自然の姿を楽しむことができるほか、家族が寛ぐ場であるリビングの窓の外にも緑が広がる。窓を開ければ心地よい風が吹き、夏でも涼しく過ごせるのが魅力だ。
さらに北向きには、家族みんなで作業できるスタディールームも設けられており、どこにいても家族の気配を感じることができる。工夫されているのは、リビングとダイニングをつなぐ廊下とは別にキッチンからダイニングや水廻りに行けるようなサービス動線を設け、回遊性のあるプランを実現していることだ。この田中さんの創意を凝らした設計により、子供たちが2階を自由に動き回る姿をあらゆるところから見守ることができる、開放的な空間が完成した。
そして、この家でもう1つ特徴的なのが、中2階に設けられた畳敷きの客間である。この部屋は趣味でお琴をやられる奥様のご希望によりつくられたもの。4.5畳とこじんまりしたスペースではあるが、開放的な窓から明るい光が降り注ぐ、憩いのスペースとなっている。この部屋は扉を開放してオープンにできる空間となっており、1階と2階を違和感なくつなぐことで、家全体を連続的に使えるよう工夫がされているのだという。2階に上る階段は鉄と木を組み合わせて製作してあり、途中に長い踊り場が設けられている。この中2階の和室に踊場から直接入ることができるというのも、便利かつユニークだ。階段から踊場、中2階にかけて、鉄・コンクリート・タイル・木・ガラス・アクリル・珪藻土・和紙・畳・葦と様々な素材が共存し、素材へのこだわりのあるOさんにはたまらないのだそう。
1階の主役は家全体を温める薪ストーブ
そして、この薪ストーブを両側から囲むように配されているのが、2つのベッドルームだ。このベッドルームは連続引き戸で大きく開口できるようになっており、薪ストーブと一体化した「夜のリビング」を演出する。これは、毎晩薪ストーブの火を眺めながら憩うひとときをイメージしたという田中さんのアイディアだという。さらに2階が回遊できる造りになっていたのと同様、子供用のベッドルームには扉や窓が多く設けられており、ここにも「回遊できる家」ならではのお楽しみが用意されている。子ども部屋から廊下へ、そして広々としたウッドデッキへと行き来ができ、子供たちがぐるぐると走り回ることができるのだ。「行き止まりのない楽しい家にしたかったんです」と話す田中さん。ここにも「家族の交流を増やし、暮らしがより楽しくなるように」という田中さんの願いが込められているだろう。
さて、家の外に目をむけてみよう。建物をコンパクトに隅に寄せて建てられたO邸は、その分外部空間にもゆとりが生まれている。敷地には2台車を停めることができるカースペースが。さらに玄関前にはハンモックデッキがあり、自転車をかけることができる勝手口も用意されている。Oさんの「2台分の自転車の壁と2台分の駐車スペースを確保したい」という要望も叶えられており、Oさんご夫婦も大満足だそう。もともとモノづくりが好きなOさんは様々な作家とネットワークをもつ田中さんのサポートを得て、テレビ台や鉄の門扉、庭のテーブル、木の外壁、ハンモック、枕木のアプローチ、薪小屋など様々なものの作成をこなされたということで、完成した住まいへの愛着もひとしおなのだという。
「新居ではウッドデッキでバーベキューをしたり、家族4人での暮らしを楽しんでいてくれています。私もよく遊びに行くんですよ」と笑顔の田中さん。今日も「回廊できる家」には、自由に走り回る子供たちの笑い声が響き渡っていることだろう。
【建築家 田中 朋久さんコメント】
今回の家づくりでは、暮らしの自由度を上げて家族の交流がより増えるよう、家の様々な場所を「回遊」できる設計にしました。当初想定したとおり、家族のコミュニケーションがより一層増えて楽しく暮らしているということで、とても嬉しく思っています。私が家づくりにあたって心がけているのは、奇をてらうことなく、お施主様の理想の住まいを実現すること。そのためにも丁寧なコミュニケーションを重ねて、ご要望をしっかりお聞きするようにしています。
間取り図
基本データ
| 所在地 | 群馬県高崎市 |
|---|---|
| 敷地面積 | 113㎡ |
| 延床面積 | 1階55㎡、2階58㎡ |
| 家族構成 | 夫婦+子ども2人 |
| 予算 | 3000万円台 |
| 施主 | O邸 |
設計者情報
この建築家が建てた家
この実例を見た人はこちらも読んでいます

都市の“スキマ”を活かす! 南国の光と風を取り込む家
沖縄・那覇市内に立つこの家は、6人家族のために建築家の小林進一さんが建てたもの。設計にあたり、南北にのびた縦長の敷地と住宅が密集する周囲の環境を見て、小林さんは真っ先にあることを思いついたという。開放感あふれる南国の自然を間近に感じる暮らしをかなえた、その「あること」とは?

10年ぶり二度目の家づくりは予算大幅減額 困難を克服し叶えた明るく開放的な住まい
「家は一生に一度の買い物」といわれるなか、同じ建築家に再び依頼をする施主は極めて稀だろう。思いがけない展開で二軒目の家づくりに踏み切ったMさんが選んだのは、10年前に一軒目を手がけたhaの保坂裕信さんだった。しかし順調に進むかと思われたプロジェクトに突如降りかかった予算の大幅削減。一時は実現が危ぶまれながらも、明るく開放的な理想の住まいへと昇華させた保坂さんの真価に迫る。

斜めのリビングと広いテラスで居心地抜群。 熱環境も快適な自然素材の家
居心地のよさにこだわった間取りと、ホッと落ち着く自然素材の風合いが魅力のS邸。どこにいても「気持ちよさ」を感じる空間はどのようにできたのか、設計を担当した安藤建築設計室の安藤大輔さん・かおりさん夫妻に話を聞いた。

街のシンボル!住む人、行き交う人も心豊かにする家づくりとは?
ドクターとしてクリニックを営んでいるご主人とその奥さま。大規模リフォームしたマンションを終の住処と考えていたご主人ですが、奥さまが見つけてきたクリニック近くの角地に惚れ込み、周囲の環境に配慮しつつ希望を取り入れた新しい住まいが完成。人生の後半を心地よく暮らすための礎が出来上がりました。

素材も間取りも理想を現実にした、納得と愛着の家づくりとは?
無垢のフローリングに漆喰の壁、天井まで届く南向きの大きな窓。東京の下町にあるKさん邸は、周囲を住宅に囲まれているとは思えないほど開放的で明るいお住まいです。家族が一番長い時間、一緒に過ごすリビングを中心に考え、さまざまな工夫でコストを抑えながら、希望どおりのマイホームをつくりあげました。

複数要望をトータルで考え、将来の使い方の 変化までを視野に入れた独創的な邸宅とは?
高知市の住宅街に、独創的な邸宅が誕生した。中庭を各スペースが囲んだ、回遊性のある配置。各部屋も高低差をつけて配置されている。縦にも横にも変化があり、とても複雑に見える。しかし実はお施主様の要望をすべて叶え、数々の提案も加えられた作品なのだ。グッドデザイン賞も受賞した、この作品をご紹介しよう。

職人の手仕事と自然素材で子育て!家族の安心安全を守る家とは?
幼いお子様が安心して暮らせる住環境を求めて、それまでの都会暮らしから、緑の多い郊外への引越しを決意したUさんご夫妻。木や漆喰などの自然素材でつくるローコストの企画住宅「1.5階建て住宅」を新築し、ノビノビ子育てを満喫されています。

1つの造作でいくつもの役割 じっくり対話で叶えた優しい空間
戸建と比べ制約の多いマンションのリノベーション。自由度が低いということは、裏を返せば、建築家の腕が最も試される場であるということ。その眺望の良さに惹かれた施主のTさんが、築26年のマンションリノベを依頼したのは、竹味佑人建築設計室の竹味さん。大胆な発想と確かな力量で、家族がゆったりとした気持ちで過ごせる優しい空間に仕上げた極意に迫る。

眺望も明るさも! 無柱の開放空間をかなえた“キール”とは?
見晴らしがよくて、明るくて、開放的。家族の居場所がゆるやかにつながる一体感や遊び心もあり、夏も冬も快適に過ごせる──。施主様の理想をかなえたY邸ですが、実は西向き・傾斜地など気になる条件もあったのだそう。そんな懸念材料をメリットに変え、魅力的な住まいをつくり上げたのは建築家の蘆田暢人さん。「これぞ建築家の建てる家!」といいたくなる、高度な設計ノウハウと発想力に迫ります。

